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切り咲く

 三日月刀の切っ先が、鬼の片目を奪った。


「隙あり」


 片目を手で押さえながら、大きくよろめいた鬼の懐を、朝さんは決して見逃しはしなかった。

 ほんの一瞬、一歩半の踏み込みで鬼の足許まで飛び、手に持った三日月刀を、鬼の肩から膝まで袈裟斬りに刃を滑り込ませた。


 私の出る幕など、初めから無かった。


「おの……れ…」


 鬼はおぼつかない足取りで後退し、やがて力尽きてうつ伏せに倒れた。


 倒れた瞬間に、ズシンと洞窟内が揺れた。

 天井からはパラパラと、無数の石粒が降ってきた。


「ふぅ……さて、先へ進もうか露火さん」


 遠くから聞こえたその声には、一切の疲弊や呼吸の乱れが感じられない。

 まるで、ただの準備体操だと言わんばかりのよう。


「は、はい!」


 彼は何の苦の表情もなく先を促す。

 その円熟しきった立ち振る舞いは、私に小さな恐怖心と大きな安心感を与えた。


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