鍔迫り
音はどんどん近くに寄ってくる。
そしてついに、彼らはランプの明かりが届くその範囲に、その姿を晒した。
「しぶといねぇ、中々」
朝さんは鬼に対して、羽のように軽やかなステップを踏みながら、けれど繰り出す一撃は鋼鉄のように重い連撃を、雨のように浴びせていた。
対する鬼も、川の激流を遮り続ける岩の如く、手に持った金棒を巧妙に動かして、襲いくる刃の群れをいなしがら、対応していた。
私が介入する余地などあろう筈も無い。
彼らは両者共に一歩たりとも譲らず、互いに得物を相手の急所へ走らせては避け、避けては走らせるの繰り返しだ。
両者の技のキレからして、一撃でも喰らってしまったら即終わりだろう。
「お前……やっぱり人間じゃ……」
瞬間、鬼の角の片方が切り落とされる。
洞窟内にカコッという乾いた音が鳴り響く。
ほんの一瞬の出来事だった。
彼は、まるで蜘蛛の巣のように張り巡らせた剣線を、突如ピタッと、ビデオの一時停止のように止めて、眉間めがけて針のように鋭い突きを放ったのだ。
絶好のタイミングと、鬼が避けるのに不利な体勢を見計らっての一突きだ。
通常なら、避けようがない。
しかし、恐るべきは鬼の反射神経と皮膚だ。
意表を突かれ、完全に避けるタイミングをズラされて放たれた、針のように鋭い一突きを、鬼は片方の角と、頰をかろうじて掠める程度で済ませてしまった。
鬼の頰には細い線が刻まれ、赤い雫がツゥと頰を伝っていく。




