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暗戦
「全く、虫唾が走る」
言って、朝さんは右手に持っている三日月刀を、腕の振りだけで鬼の首に走らせる。
まるで鞭がしなったような腕の動きだ。
「おおっとぉ!」
鬼は咄嗟に一歩退いて、ギリギリでそれを避わす。
そしてそのまま後方へジャンプした。
「ゲヒヒ、怖いねぇ、アンタ本当に人間かい?」
中空で下卑た笑みを顔に張り付かせながら、鬼はランプの光が届かない闇の向こうへと姿を消した。
そして間も無く、暗闇の向こうから何かが、朝さんの眉間をめがけて飛来してくる。
朝さんはそれを、難なく真っ二つに斬り捨てた。
カインッ
金属同士が擦れあう音を発して、飛来したソレは力なく地面に落ちていく。
見れば、それはナイフだ。
おそらく、鬼に襲われた人が所持していた物を、そのまま拝借して使っていたのだろう。
投げられたナイフは、何の手入れもされていないのか所々錆びついてしまっている。
しかしそれでも、充分に殺傷能力はあるだろう。
いや、錆びついているからこそ、切られた傷口から菌が入って、恐ろしい感染症にかかりかねない。
ましてや、この酷く不潔な環境下では。




