寸前
「随分と荒らしてくれおったなぁ、人間風情が」
この暗い洞窟に住まう闇の如く、暗くて重い、他者を威圧するような野太い声がこだまする。
その声は、明らかに人間の声では無い。
「手を出したのは、そちらが先だよ」
パラパラと、砕けた骨の粉と土煙りが舞う洞窟内で、朝さんとその何者かは咳き込む素振りすら見せずに会話を続けていく。
「腹を満たすには、丁度いい数と弱さなのでなぁ」
クスクスと嗤うその者の言には、終始、僅かな含み笑いが溢れ続けていた。
なるほどどうやらこの者は、人間を単なる食料として捉えているのではなく、常に殺戮を楽しませてくれる動く人形と捉えているようだ。
食べるのはあくまでも、そのついでなのだろう。
「なら今度は、君が狩られる番だ」
土煙りが薄まり、私が吹っ飛んだ時に落としたランプが、二人と二人の周囲をオレンジ色に染めていく。
その時、ようやく私は落ちてきた者の容姿を確認する事ができた。
それは鬼だった。
ただ、今まで見てきた鬼達とは訳が違う。
干ばつした地表のヒビのように、深々と体に皺を刻んでいる筋肉の群れ。
天を穿たんとせんばかりの、反り返った頭角。
ランプの光を反射して輝く、切れ目形の瞳。
身長も、三メートルを優に超しているのではないだろうか。
のみならず、その右手には茨のように棘を生やした大型の金棒が握られている。
なるほど、どうやら私達を待ち構えていたらしい。




