進もうか
「さて、それじゃあ俺達も行くか」
言って、葉桜さんは率先して皆に呼びかけた。
すると、さっきまで動揺していた皆がすぐに冷静さを取り戻し、蟻の行列みたく彼に連なって先に進んでいく。
ここでようやく私は、何故朝さんが彼を副隊長に選んだのか身をもって理解した。
彼は、恐怖や混乱に打ちのめされてしまった人々を率先して、別の道に導いていく力がある。
例えるならば、殴られている人を見つければ一緒に殴られて、惨めに倒れ伏した後に、共に立ち上がろうと手を差し伸べてくれるような人。
皆がこの人に寄せる信頼は、ドッシリと構えた大樹の如く、皆の心に深々と根を張っているのだろう。
場所は最悪だが、その光景はなんとも微笑ましい。
「待って下さいよ〜、先頭は私も行きますから!」
葉桜さんはおうと答えながら、前へ忙しなく運んでいる両足をピタリと止めて、笑顔で待ってくれた。
この親しみやすさも、きっと彼の魅力なのだろう。
私は並んだ列の横を早足で通って、彼のいる先頭に追いついた。
すると、なんだか妙な臭いが洞窟の奥からする。
汗と、泥と、血が混じったような、なんとも複雑で形容しがたい臭いだ。
この先に、一体何が?




