仕方ない
「うぐっ……」
突然、援軍の仲間の一人がお腹を押さえて、その場に両膝をついた。
間もなく、膝下に大量の吐瀉物をまき散らした。
どうやら、この洞窟内を満たしている酷く饐えた鉄の臭いに、耐えきれなくなったらしい。
無理もない、私だって耐えているのがやっとだ。
むしろ、今までよく耐えたと褒めるべきだろう。
他の仲間達は、吐いている彼の背中を手でゆっくりさすって、なんとか気分を落ち着かせようとしている。
だが、それはこの洞窟を出ない限り無理だろう。
私は内心でそう決定づけ、吐いている彼に駆け寄った。
「あの、入り口の見張り役をして頂けませんか」
彼はついに何も吐くモノが無くなり、ただただ唾液の糸を口から垂らしていた。
そして唇を震わせながら、小さくコクリと頷いた。
援軍として来ている彼の面目を保ったまま休ませるならば、きっとこの方法が良いだろう。
事情はともかくコレならば、後の報告書に見張り役として仕事を全うしていた、と書ける。
仕事とはいえ、駆けつけてくれただけでも十分、嬉しく頼もしいモノだ。
意味もなく、負傷者か犠牲者など出さなくていい。
見張りだって重要な役目なのだから。
彼は仲間二人に肩を支えられて、来た道をゆっくり帰っていく。




