無謀か
乱れた呼吸を整えながら、私達は朝さんの凛とした声に耳を傾けた。
「君達はこれから、屋敷に連絡をとって援軍を寄越しなさい。 戦闘員四割、後始末員三割、情報員三割といった割合がいいだろう」
作戦の指示と説明は、清らかに流れる川のように滞りなく終わった。
要約すると、朝さんはこれから単身でさっきの鬼の巣に戻って鬼達を全員退治する。
私達は逃げた鬼がいないか捜索。
発見した場合、速やかに処理する。
後始末は援軍に任せておけば良いとの事。
どう聞いても無謀な考えだ。
「ちょっと待って下さい! いくらなんでも一人でなんて危険が過ぎます!」
当然ながら、私は朝さんの指示に異議を唱えた。
いくらなんでも、たった一人で鬼の群れに刃を突き立てようなんて無謀が過ぎる!
どれだけ朝さんが強くても、圧倒的な数で押されてしまったら太刀打ちなんて出来る訳が無い。
ここは大人しく援軍を待って、万全の態勢を整えてから一気に攻め落とすのが、最も安全で効率的な筈だ。
それは朝さんも十分分かっている筈なのに。
「確かにそうだね、でも中に攫われた人達がいるかもしれない。 今は一刻を争う時なんだ」
確かに、あそこで見た骨はまだ新しいモノだった。
きっと私達が来る前に、何人かは犠牲になってしまったのだろう。
でもだからって、無謀に走るのは間違ってる!
最も人を救える人が、誰も救う事無くその生涯を終える。
そっちの方がよっぽど絶望的じゃないか!




