一刺し
その時、鬼の痛烈な叫びが洞窟内に響いた。
朝さんが、鬼の左足を斜めに切り落としたのだ。
バランスを崩した鬼は勢いよくうつ伏せに倒れて、下に散らばっていた骨を粉々に砕いた。
そして間髪入れず、朝さんは鬼のうなじに深々と三日月刀を突き立てた。
刹那、ゴオッという息が漏れたような断末魔と共に、鬼は体をビクッと震わせて絶命する。
「よし、一旦引き上げよう」
撤退の掛け声と共に、彼は三日月刀を引き抜いた。
刃先からポタリポタリと、ランプの光を反映した雫が一定のリズムで落ちていく。
「「「了解しました」」」
早くしないとさっき鬼が放った悲鳴を聞きつけて、他の鬼がここに集まってくる!
せっかく一匹仕留めたのに、それじゃあただの無駄骨に終わってしまう!
私は急いで落としたランプを拾い上げ、先頭を切って全速力で走った。
朝さんと仲間達も、私の後ろに続いてひた駆ける。
歩いて三十分かかった道のりは、全速力で走った結果、ものの十五分足らずで出口に到達した。
暗闇に包まれた洞窟を抜けると、刺しつらぬくような陽光が私の視界を襲った。
私はしばらく掌で目を隠しながら、元来た森の中を走り続けた。
そして、ようやく森が拓けている休めそうな場所を発見し、地面に横たわる大木に腰を下ろした。
「なんとか逃げ切れたな」
葉桜さんが額の汗を袖で拭いながら安堵の表情を浮かべて、誰に言うわけでもなく呟いた。
きっと、いくら朝さんが居るとはいえ、間近で戦っている鬼がよっぽど恐ろしかったのだろう。
私に安心しろと言った時の葉桜さんの手が、プルプルと震えていたのを覚えている。
先輩の矜持というヤツだ。
葉桜さんの部下も、息切れしながら青空を向いて心底疲れ切った様子だ。
一方で朝さんは汗粒一つかいておらず、凛とした表情で来た道を見ている。
追っ手が来ないか見張ってくれているのか。
私も少し疲れた。
葉桜さん達程ではないけれど、もしも今鬼達がやってきたら対処しきれず、深手を負ってしまうかもしれない。
朝さんも、戦闘中は私達に構ってる余裕は無いだろうし。
「さて、じゃあこれからの話をしようか」




