颯爽とそれは嗤う
カチャンと、三日月刀の鍔が高鳴った。
両者はその音を合図に、素早く臨戦体制を構える。
先手を打ったのは鬼。
右手首からいまだ溢れる血を、朝さんの顔めがけて勢いよく振り撒くという手段に出た。
目潰しなんて、卑怯な!
しかし非常にまずい、もしこれで鬼を取り逃がしでもしたら、いずれ呼ばれて来るであろう鬼を、次から次へと相手にしなくちゃいけなくなる!
そうなればジリ貧もいいとこ。
つまる所、ゲームオーバーだ。
その刹那、鬼は醜悪な笑みを浮かべていた。
黄ばんだ鋭い牙をむき出し、楕円型の瞳は上へ仰け反り、頬骨の辺りに波のような皺をいくつも寄せている。
おそらく勝利を確信しての事なのだろう。
鬼の顔立ちは完全に緩みきっていた。
「本当に哀れだねぇ、君は」
朝さんはまるで、死神の宣告めいた言葉を告げる。
そして間髪入れずに、無数に飛び散った赤い水玉を難なく全て避けた。
ありえない。
この暗い洞窟の中で、どうやって全部避けきる事が出来るのだろう。
明かりは、周囲をやんわりと照らすランプ一つだけだというのに。
「朝さんは夜目が効くんだよ」
仲間の一人が、不思議がる私を察して教えてくれた。
なるほど。
道理でこの暗い洞窟を、平気でスタスタと歩けると思ったよ。
単に怖いモノ知らずなのかと……
私達は朝さんの足元に転がっているランプの光で、ギリギリ見えている程度。
万が一ランプが壊れでもしたら、私達の命は朝さんの手に委ねられる。
それ自体はいいのだが。
いくら朝さんが強くても、敵の本拠地の中で私達全員を守りきる事は不可能だ。
きっと、この中の誰かが欠けてしまう事になる。
それだけは絶対に嫌だし、避けなくてはいけない。
だけど今、私達が動こうモノならば、きっと朝さんの邪魔になってしまう。
「今は祈る事しか出来ない……か」
私の手は、震える程深く拳を握っていた。




