血舞う
顔のすぐ横を、凶悪な鬼の爪が迫ってくる。
私は残された猶予を使い、目を閉じた。
まるで落雷の音を恐れる、哀れな子供のように。
シンっという音が、洞窟内に響いた。
大量の液体が、私の顔の半分を覆った。
すぐ後ろで、何か重たいモノが落ちる音が聞こえた。
「うおう!?」
またすぐ後ろで、仲間達が短い悲鳴を漏らした。
一体何が起こった?
ゆっくりと、閉じきった瞼を少しずつ上げていく。
霞んでボヤけた視界は、ランプのオレンジ色を真っ先に捕まえて、徐々にその像を鮮明に写していった。
ぬるり。
真っ赤に包まれた、左手の感触。
また、左頰を静かにゆっくり這っていく、赤い雫。
「私…の……?」
頭の中が真っ白に染まっていく。
目の前の光景に、いまいち理解が追いつかない私は、静かに後ろを振り返った。
そこにあったのは手。
それも、とてつもなく大きな。
さっき私を、亡き者にしようとしていた者の手だ。
「グオオオオオオオオオ!?!!?」
突然の轟音に、私の体は瞬時に震えた。
見れば、鬼の右手首から先が無くなっている。
鬼は手首から無慈悲にこぼれていく血を止める為、必死に無くなった手首の下を左手で鷲掴んでいた。
結果、その生まれながらの剛力さ故か、出ていく血はみるみる内に勢いが弱くなっていった。
鬼は二歩、三歩と後退していく。
「ダメだよ、敵の前で諦めちゃあ」




