突貫につぐ突貫
月明かりに照らされた赤眼が、目の前にいる妖怪を睨み殺すように見つめる。
「おお、怖い怖い」
角が生えた牛型の妖怪はおちょくるような態度で持っている斧を肩に担いだ。そして見下すような視線を赤髪の少女に送る。
「今日はいい肉が食えそうだ、あんがとよ嬢ちゃん」
舌舐めずりする牛の妖怪。そのままドシドシと歩いて少女に近づいていく。難なく斧の間合いに入ると大きく振りかぶって渾身の一撃を少女に浴びせた。
ブシュッという音とともに大量の血が宙を舞う。
「おおっと、力み過ぎたか! せっかくの美味そうな肉が台無しに......」
牛の妖怪はふと気づいた。
斧は血にまみれている。しかし血で濡れているのは刃ではなく峰。
この血は斧の持ち主の血だ。
斧にポタリポタリと血の雫がたえまなく落ちいく。気づいた頃にはすでにこの世なき者になっていた。
亡骸は膝から崩れ、地面に赤い小さな湖畔を広めた。
☆
「オラ! 起きろぉ〜!」
顔にかかった冷たい何かで私は目を覚ました。
ああ、バケツの水をぶっかけられたのか。私。
ていうかさっきの夢、妙に生々しかったなぁ。牛のバケモノがこう、血がブシャーってなって倒れるところとか。
「ほら! まだ腹筋半分も終わってないぞ! さっさっとやる!」
「ひぃぃぃぃぃ」
無理無理無理。腕の神経がちぎれそうになるくらいやってようやく奇跡的にできたんだよ!?
もうすでにお腹が悲鳴を上げてるもの! できるわけないよぉ。仮にできたとしてもその後のスクワットなんてやったら朽ち果てる!
でも、やらないとホームレスJKとして世間に名乗りをあげる事になる。
うん、今日でどのみち死ぬな。 アタシ。
その後、私はなんとか奇跡を起こして地獄のトレーニングを全てこなした。
しかし肉体も精神も枯れ果ててしまった。
だかこの後、すぐに報告のあった妖怪の現場に駆けつけなければいけない。
もらえた休憩はたったの五分!!
ブラックなんてレベルじゃないよねぇ。現場に着く頃にはすでに痩せこけたゴボウだよぉ。
「よし! じゃあさっそく現場へゴー!!」
私は手首をグッと掴まれると自家用車の中に吸い込まれるように入れられ、現場に直行した。
車の中はエアコンも効いていてとても快適だったのを覚えてる。どうやら道中は疲れて寝てしまったようだ。
しかし現場に着くと夕闇さんにすぐに叩き起こされた。
ついた場所はなんてことのないただの野原。
雑草が生い茂っているだけでとくに変わった物はない。もちろん妖怪なんてモノも見当たらない。
コレといってどこにでもある普通の平原だ。
「......気をつけて、もうそこにいるから」
え? どこに......
目を凝らして見ようとした時、後ろの襟をグイッと引っ張られた。
私はうしろに大きくのけぞって尻もちをつく。
「なっ何をするん......」
その瞬間ヒュバッという風を裂くような音が聞こえた。
音のした方向を見てみると、さっきまで私が立っていた場所に三線の深い爪痕が残されていた。
え? コレ......私......死んでたんじゃ。
などと呆けていると夕闇さんが声高らかに教えてくれた。
「カマイタチよ! それも三匹」