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月翠
「……いずれ分かるよ」
少女は音も無く、スッと立ち上がった。
立ち上がった時に風が吹いて、長い髪が風鈴の糸のようにユラユラと靡いた。
少女は、慈愛に満ちた瞳で私を見る。
まるで我が子の行く末を見守る、母親のような表情で。
「結局、何も教えてくれないんですね」
少女の口端が僅かに釣り上がった。
そしてゆっくり、後ろを向いて答える。
「いずれ分かる事だからね」
それだけ言うと、少女は廊下に足を運んだ。
その足音は恐ろしく静かで、足の裏が綿でできているんじゃないかと、思ってしまう程だった。
そしてあっという間に、少女は廊下の曲がり角を曲がって居なくなった。
「いずれ……か」




