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水仙
少女は笑んでいた。
しかしそれは、歓喜からくるモノでは無い。
憂いだ。
まるで故郷に残してきた家族を想うような。
哀愁が沁みた、優しげな笑顔。
ソレが、私の隣にいる少女の顔に張り付いている。
「僕は、君が不思議で仕方ないよ」
先程とは違う。
重みのかかった声色。
さながら清流に、少し淀みがかかったような声だ。
「君は、なんとも思わないのかい」
月の光が雲の隙間から、カーテンのように降り注ぎ、少女の顔を明るく照らす。
翡翠のような瞳。
ソレが、私の目をじっと覗いてくる。
「何が、ですか」
私の問いに、彼女は瞬き一つしない。
ただ無言で、私から目を逸らして、雲隠れした月を見る。
「君自身の事についてさ」




