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策陰
湯船に小々波が波打つ。
湯水に浮かぶは桐の花。
「ふう〜、いい香り〜」
上品な桐の香りと、水晶のように透明な湯水が、体の芯まで染み入るようだ。
まるで圧縮したスポンジが、元の大きさに戻るように、強張った筋肉などがほぐれていくのが分かる。
さながら、湯水と一体化するような感覚だ。
「もう、ダンゴムシは懲り懲りだなぁ」
迷彩ペイントのように、体中に着いていたダンゴムシの体液は、今こうして湯水に流している。
最初はスポンジでも中々取れず、苦戦を強いられていたが、根性の末、なんとか落とす事に成功した。
「ただ臭いがねぇ」
まぁ、それは時間が解決してくれるだろう。多分。
私は湯水に浮かぶ桐の花を、手で弄びながら呟く。
「あの娘は一体……」
今朝の碧髪の少女の事だ。
一応誰にも会った事は、話してはいない。
何か嫌な予感がするから。




