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糸玉
少女は雀の囀りのような小声で、私に話しかける。
「今日、僕と会った事は他言無用でお願いします」
少女は右手で手刀を作り、胸の前に移動させて、笑顔でお願いをしてくる。
まるで祖父に欲しい物をねだる、孫のような笑み。
水のように透明で黒みの無い、純粋な笑顔だった。
「……分かりました。 その代わり、もう付きまとわないで下さいね」
少女はうんうんと頷く。
あまり信用はしない方が良さそうだ。
「それじゃあ、僕はこれで。 また会う時は、きちんと自己紹介させて頂きますね」
少女はゆっくりと立ち上がる。
そして右手の人差し指と中指を上に突き立てて、左手でバイバイと言わんばかりに、ヒラヒラと左右に揺らしながら、消えていった。
タバコの煙が、強風で一瞬のうちに消えるように。




