給へ
すると唐突に、背後から清らかな声が聞こえた。
「へぇ、いい光景だねぇ」
私は背中を、針で軽く一突きされたかのように驚いて、その場を飛び退き、廊下に尻餅をついた。
そして尻餅様に、声がした方向を見つめる。
声の主は昨日の、碧色髪の少女だった。
私が突然の声に驚き、無様に尻餅をついて、少女の方をまじまじと見つめるこの動作が、余程気に入ったのだろう。
右手で作った緩い握り拳を口に当てて、クスクスと啜り笑いをしながら私を見ている。
まぁ確かに、誰がどう見ても滑稽だろう。
物語などでよく居る、強者を強者たらしめんとする、名脇役の名台詞と並ぶ、名シーンと酷似しているのだから。
「い、いつの間に……」
少女は微笑みながら、私を見つめる。
まるで、目の前で愛玩のペットが、ボールで戯れているのを優しく見守るみたいに。
妙な視線を向けられた私は、背中がソワソワこそばゆくなっていくのを感じた。
そしてそれを振り払うように、私は話を振る。
「あ、あの……何か、御用でしょうか?」
思わず敬語になってしまった私に、少女は涙袋を持ち上げて、口端を釣り上げる。
少女は笑んでいた。
だが、その表情は先程の顔とはまた違う、どこか狂気が入り混じったような、少し淀んだ表情になっていた。
「ん〜、君と同じさ」




