そこは
まだ日が昇りきる少し前。
私は再び、夢のあの世界に平然と立っていた。
しかし、私はその突然の事に、大して驚く事もない。
多少、慣れたというのもあるが、それはほんの一抹の小さな理由に過ぎない。最大の理由は、何故だかここは私にとって、とても居心地が良い場所なのだという事に気づいたからだ。
別段、セラピー効果のあるお香が焚かれている訳でもないし、可愛らしい小動物などがたくさんいる訳でもない。
ただ、感じるのだ。
まるで丁度いい湯加減の温泉に、ゆっくりと身を浸していくような、あの体の芯から温まっていくあの感覚に。
ここには幾度となく、私は来ている。
無論、行きたくて行ってる訳ではないし、夢の中なので、行きたいと思っても行けないのだが。
とにかく、私はここに何度も足を踏み入れている。
しかし、その中でも、今回のように気分が穏やかになるようなケースはこれが初めてだった。
建物も人も、生き物すらも、存在しない世界。
あるのは地平線の彼方まで、生え揃っている無数の芝生と、煌めくガラス片をばら撒いたような、満点の夜空。
しかし、この夜空も、私が学校で習った夜空とは、遠くかけ離れている。
星座の位置が違う。そこにある筈の星が無い。
そして白玉のような、白く輝く巨大な満月。
最も地球に近づく周期の月だという事だ。




