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次は燃える焔であろう

「お待たせしましたー、ご注文の品でーす」


 ああ、最悪のタイミングで、注文が来てしまった。


 マズイ……このままでは、せっかく話してくれそうだった雰囲気が流れてしまう。

 多少、無理にでも理由を聞かないと。



「えっと、あの、理由は……」


「何でもありません、冷めない内に頂きましょう」



 ああ、結局こうなってしまうのか……

 千載一遇のチャンスだったのに、名も知らぬ女の店員さん、おそらく貴方に罪はありませんが、多少恨みま……ん?



 注文したパンケーキとコーヒーをテーブルに置いたにも関わらず、何故か店員さんは私達の横でニコニコしたまま立っていた。



「あの、まだ何か?」



「はい! ()()()は私からの特別サービスです」



 特別サービス?

 店で何かのイベントをしてる様には見えなかったけど。


 そう言うと、店員さんはゴトッと何か重いモノをテーブルに乗せた。



「コレは?」



「開けてみて下さい」



 テーブルに乗せられたのは、リボンでキュートに蝶々結びされたプレゼントボックス。

 大きさは手のひらにスッポリ入るサイズのモノ。


 多分、子供が喜ぶような玩具(オモチャ)などが入ってるんだろう。

 置くときに重たい音がしてたから、金属が多めに入ったモノだと思うけど……


 私は言われた通り、プレゼントボックスを手に取ってリボンを解き、箱の中身を確認した。



「…………………え?」


 

 箱に入っていたのは、腕時計。

 時計に詳しくない私でも、ハッキリ分かるくらい高級なシロモノ……という訳では無く、おそらく百均で売ってそうなデジタルタイプの普通の腕時計だった。


 ただ、その腕時計には色の付いたコードが、芋の根状に何本も付いていた。



 コレって……

 ドラマとかでよく見た事のあるアレに……



 ソレはドラマやアニメを見ている人なら、一度は見た事があると思うモノに、非常にソックリな形をしていた。

 そして、嫌な予感が雷の如く、私の背筋を貫く。



「何が入ってたんです?」



 私は火摺さんの質問を聞き流して、慌てて店員さんの方を向く。



 すると店員さんは口の両端を釣り上げた



「フフフッ気に入って頂けましたか? では、さようなら」



 瞬間



 時計からビーーというブザーのような音が店内に鳴り響き、箱は激しい爆炎を撒き散らした。



 ()()()()



 どうやら音が鳴ってから爆発するまでの間に、私は箱を外へ投げていたらしい。

 らしいというのは、私自身も理解していないからだ。



 多分、無意識でやっていたんだろう。



 おかげで、近くにあった他の店の窓ガラスは、ほとんど吹っ飛ばされてしまった。

 でもソレが功をなして、怪我人はほとんどいない。


 あの火力からして、あと二秒くらい遅れていたら、ここら一帯は全て消し炭になっていただろう。

 日頃から行っている鍛錬の成果だと思いたい。



 さて、それはさて置き



「火摺さん、さっきの人は……」



 私はゆっくり体を起こしながら火摺さんに聞いてみた。

 まぁ、答えは分かりきってるようなモノだけど。



「はい、急いで追います。ようやく掴んだシッポです!」



 とりあえず、私達はパンケーキとコーヒーの代金をテーブルに置いてその店を後にした。



 走りながら私は、情報を脳内で整理していく。


 爆発の後、その店員はいつのまにか姿を消していた。

 辺りを探して回ったけど、どこにも見つからなかった。


 つまり


 爆発が起こったその一瞬の隙に、どこかへ去って行ったとしか考えられない。


 もしそうなら、それは人間の業じゃ無い。


 こういったケースはおよそ二種類。


 人間の姿に化けたか、或いは()()()姿()のまま化けたかだ。

 まぁどちらにしても、厄介な事この上無い話だ。


 何故なら


 もしもどこかに隠れているのだとしたら、私達にはソイツを見つけ出す手段が無い。

 つまり自力で見つけ出さなきゃいけなくなってしまう。



 そうなってしまえば、もうお手上げだ。



 私は立ち止まって顎に手を当て、幾度も思考を働かせる。

 そんな時、ふと視界に黒い布のようなモノが入る。



「アレは……」



 まるで黒いマントの端っこのようなモノ。

 ソレは目の前の道の曲がり角からはみ出ていた。



 まぁ、どうでもいいかと再び思考の海にダイブしようとした時、その端っこから不気味な気配が滲むように出ていた事にふと気づく。


 仕方なく、私は若干ビビりながらも、その曲がり角をゆっくりと覗いた。


 特に変わった所も無い、普通の町並みの景色だった。

 しかし、今度は二つ先の曲がり角で、同じように黒い布がはみ出している。



 足下を見ると、黒い布はいつのまにか消えていた。



 ああ、なるほど。



「誘っているのか」



 どおりで少しおかしいと思ったよ。

 私達をどうにかしたいなら、箱を開ける前に起爆すれば良かったんだ。



 ソレをしなかったって事は、私達に何らかの生かす理由があるって事なんだろう。

 という事は生け捕りが目的かな? それとも……



 まぁ何にせよ、向こうから手招きしてくれるならありがたい事だ、見失わないで済む。

 後の問題は、このまま追うか、火摺さんを待つかだ。



 火摺さんは、夕闇さんに連絡してから合流との事。



 この黒い布がそれまで待ってくれる保証はどこにも無い。

 もしかしたら、合流した途端に消えるかも。



 なら、答えは既に決まっている。



 きっとこの敵も、私一人という条件(チャンス)だからこそ、こうやって誘ってきているに違いない。

 コイツは自分に分がある事を知っているようだ。



 多少の危険はツイてくるけど、仕方ない。

 あえてコイツの罠に踏み入ってやろう。



 そして私は、その黒い布に案内されるがままに角を曲がり続けて、ヤツの根城らしい廃墟にたどり着いた。



 見た所、病院の廃墟らしい。



 入り口はセンサー式のガラス扉。



 ご丁寧にも、動かないガラス扉は人がギリギリ入れるサイズまでスライドされている。

 見た限り、他の入り口は瓦礫で埋まっているようだ。


 どうやら、入り口(ココ)が生死の境目らしい。



 敵の狙いが生け捕りだとしても、捕まったその後の人生は目も当てられないモノになっているだろう。

 私にとってそれは、死ぬのと限りなく同義だ。



「覚悟を決めよう、もう戻れないのなら」



 私は入り口に一歩、足を踏み入れた。



 中は昼間でも関係なく、常にどんよりとして暗い。

 老朽化して脆くなった壁の隙間から、僅かに射し込む光でようやく辺りが見える程だ。



 床には崩れた天井の瓦礫、無数のガラス片が散乱している。



 秘密基地というより、隠れ家に近い有様だ。



 私は当ても無いまま、ブーツでガラス片をカキッカキッと踏み鳴らしながら廊下を進む。



 ほんのりと見える廊下はひどく殺風景で、天井や壁の瓦礫が床のほとんどを占めている。

 その為、ほんの少し気を抜くと転びそうになってしまう。



 この天井に点々として連なる蛍光灯が点けば、この問題は簡単に払拭できるのだが、今ではただの飾りに過ぎない。



 結局、頼れるのは己の五感のみという事だ。



 そして、悠然と歩を進めていく内に、いつのまにか大きな広間へ辿り着いていた。

 何故かココだけ妙に明るい。



 見たところ、古い……中庭?



 足下は短く刈られた芝生で、周りには様々な恐竜の形を模した植物のアーチ、そして中央には円形のこれまた大きな噴水が咲き誇るように水を湧かせていた。



 電気は止まっているのに、水道は生きてる?

 室内で中庭?

 なんでココだけ明るい?



 などといった疑問が私の中で渦を巻いている。



「どういう事?」



 思わず心の声が口から漏れてしまった。



「気に入って頂けましたか? お嬢さん」



 まるで薔薇のような気品のある声。

 その声で私の耳元にそっと囁かれた。



 全身に悪寒が走るのと同時



 私は後ろの相手に、右手で裏拳を振りかざしていた。



「あらあら、乱暴な子ねぇ」



 ソイツはクスクス笑いながら、私の右手首を一瞬で掴んで、ガッチリと握り、空中で固定した。

 全然外せない、掴まれた手がビクともしない。



 まるで指の一本一本が大型のペンチ!



 私はすぐに、自力で外せないと本能で悟った。

 そしてすぐに、手から足技に切り替えようとした時



「フフフッ無駄な足掻きはみっともないですねぇ」



 ペチンッと、頬を軽くビンタされた。



 次の瞬間、視界が急に傾いて、いつのまにか私は地面に叩きつけられていた。



 全身の骨が軋んで、口じゅうに鉄の味が広がる。



 オマケに



 ああ、視界がグニャグニャ歪む。



 マズイなぁ……多分、耳の奥にある渦巻き管と脳に少しだけどダメージ行ったわ。

 こりゃあ立てないわ………



 死んだ……かも………



「………呆気ないですねぇ」



 顔の見えない女は、私の顎と肩を掴んで首元をムキ出しにする体勢を作った。

 そして口内の鋭い牙をあらわにする。



 コイツ……吸血鬼か!


 …ヤバイ………喰われ……


 ……る………



 意識の糸がプツンと切れそうになった時



 弓の弦が鳴り響く音が聞こえた



 刹那、赤い一筋の光線が、吸血鬼の頭部に吸い寄せられているかのように、空気を切り裂きながら進む。



「何!!?」



 吸血鬼の女はすぐに私の首から顔を離して、ギリギリ頰を掠めながら光線を避けた。



 そして私の頰をキャンバスに、小さな赤い斑点がポタタッと描かれる。



「アレ程、無茶はダメって言わなかったかしら?」



 真紅の大弓を携えて、赤い殺意を携えたその瞳は、あらゆる万魔を土塊(つちくれ)に帰す。



「夕闇……さ…」



「喋らないで、その様子だと軽い脳震盪(のうしんとう)を起こしてる」




 良かった、これで何とか……な………る…




 ……………………………………




 ☆




 白い……部屋。


 鼻腔をつんざくアルコールの匂い。


 ふかふかの……ベッド?



「ここ………は……」



 気がつくと私は、シーツの敷かれたベッドで寝ていた。

 窓からは薄いカーテンを跨いで、心地いい風が肌にタッチしてくる。


「目が覚めましたか、露火さん」



「火摺……さん」



 ああそうか、記憶が炙り出しのようにじわじわと蘇ってきた。


 私が吸血鬼に血を吸われそうになった時、夕闇さんが助けてくれたんだ。

 それで、私は安心しきって気を失って………


 現在に至る、か。



「吸血鬼は……」



「結論から言えば、逃げられてしまいました」



 そっか、私が不甲斐ないばっかりに……


 まるでロウソクに灯った火が消えるように、私は意気消沈した。



「ですが、追跡は可能です」



「……え?」



 火摺さんの言葉には続きがあった。



 要約するとこういう事。


 私が気を失ってすぐ、夕闇さんと吸血鬼の戦闘が始まった。

 その内容は凄まじいもので、両者ともに一手先を譲らない攻めぎ合いになったとの事。


 そんな中で、夕闇さんが放った一撃が吸血鬼に致命傷を負わせた。


 深い傷を負った吸血鬼は、やむなく退却を余儀なくされ、床を破壊して逃げ道を作り、逃走に成功した。


 というのが簡単な全容だった。


 火摺さんが言うには、その時に撒き散らした吸血鬼の血を使って霊力を辿り、いつでも居場所を特定できるというモノ。


 ちなみに、どうして私の居場所が分かったかと言うと、火摺さんが私にコッソリ発信機を付けていたらしい。


 しかしどうしても、霊気の乱れで正確な位置を把握するのに時間がかかってしまったようだ。


 それ程にあの吸血鬼は強い。


 だが、私はこのまま負け犬で終わるつもりは微塵も無い。

 なにせ、大の負けず嫌いだからねぇ、私。


 さぁもう一度リベンジだ! 次はこうはいかない!!

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