何故
目的地までの移動は、送迎用の車で向かう。
夕闇さんは助手席で、私と火摺さんは後ろの座席に座っている。
目的地までかかる時間は、およそ三十分。
その間に私は、どうやってこの空気を和ませるか、苦悶していた。
正直、私と火摺さんはあまり仲が良くない。
否、悪い訳じゃあ無いんだけど、向こうがコチラに無関心というかなんというか。
まぁ、ハッキリ言うと冷たい訳なんだが……
アレは私が屋敷に住む事になった初日の出来事。
たまたま廊下ですれ違った私は、彼女に頭をペコリと下げて一言
「こっコレカラ、ヨロシクオネガイシマス」
などと緊張でぎこちない挨拶を彼女に送った。
それに対し、彼女は歩く足を止めず
「ハイ」
と素っ気なく答えて、廊下の曲がり角を曲がって行った。
これから居候になる私が言うのもアレだが、普通はコチラこそどうぞよろしく、的な事くらい言うのが人として最低限度の礼儀だと私は思うのだが……
故に、彼女に対する初日の第一印象は最悪だった。
しかし互いの仕事の都合上、廊下でバッタリ鉢合わせ、なんてシチュエーションは少なくない。
その度に私は、頭をペコリと軽く下げて、挨拶を交わそうとするのだが、彼女は脇目も振らずに去っていく。
原因はいまだに分からないし、理由も教えてくれない。
私としては、仲の良い顔見知りの人として付き合っていきたいけど……
多分、そういう風にはなれないだろうなぁ。
などと考えている中、車が停車したのを感じた。
「着いたよ〜」
どうやら目的地に着いたらしい。




