運命からは逃げられない
白百合とカフェで別れてから数時間。
私は自分の部屋でスマホを片手にゴロゴロしている。
あの変な声についてネットを駆使した結果、出てくるのはオカルト系の話ばかり。
まぁ当たり前っちゃ当たり前かな。
「はぁ......行ってみるか、神社」
本当は怖くて行きたくないんだけど......。なぜか今はそれ以上にこの頭のもやもやを無くしたくてしょうがない。
本当、どうしちゃったんだろう私。
......まぁ、今はとにかく行きたい所に行こう。多分このもやもやはそれで晴れる。気がする。
犬の刻はたしか午後の八時、だったかな。
☆
午後八時 夜津矛神社 境内
勢いに任せて来たはいいけど。
夜の神社って少し怖いなぁ。なんか化けて出てきそうな雰囲気があって。
ていうか時間キッカリに来たけどなんも起こんないし。
疲れて幻聴でも聞いちゃったんだなきっと。アホらし、帰ろ。
踵を返して私は帰路に戻ろうとした。すると奥に生えている御神木の方からガサッという藪の動く音が聞こえて私は思わず振り返る。
「な......何!? 」
動物......だよ、ね。まさかほんとにお化......けな訳ないか。
薮の中からかわいい顔がヒョッコリ出ている。
タヌキか。多分ここら辺はエサが豊富なんだろう。
私はホッと胸を撫で下ろした。
明日は休みだし、さっさと帰ってゲームでも......。
ヒタッ
ん? まだなんかいるの?
「もう、今度はなに......」
振り返ると、そこには世にもおぞましいものが身を乗り出していた。
見えたものは『手』。大量の人の『手』だ。
大量の手がタヌキの体を突き破って蠢いている。
いや、生えている?
とにかく、大量の手のバケモノが御神木の辺りをヒタヒタと蜘蛛のように闊歩している。
しかも私に気づいたっぽい。
「何......アレ......」
体の震えが止まらない。どうしようどうしようどうしよう。思考がまとまらないし、体が思うように動かない。
どんどん近づいて来る。変な体液をばら撒きながら。
赤く濁った目で私を睨みながら。
「私......もう終わり?」
腰が抜けて立てない。
まだ死にたく......ない。
「いいや、まだ終わりじゃあないよ!!」
え?
赤い一筋の光がバケモノの体を貫いて、変なうめき声を上げながら、悶えてる。
「トドメだ!」
もう一発放たれた赤い光でバケモノの体は粉々に砕け散った。
え? え? 一体何が起こったの?
「大丈夫?」
月明かりに照らされた大きな赤い弓と赤い瞳。つややかな長髪。
一瞬、あの喫茶店で会った女性の姿が頭をよぎった。