しかして時は進む
視線の先にあったモノは、深い赤色をした楕円形の塊。
大きさはアメフトのボールくらい。
多分、生物ではないと思う。動かないし。
でも、何故かアレからはもの凄く嫌な感じがする。
なんて言えば良いのか分からないけど、一度その事実に触れてしまったらもう、嫌でも心に刻みこまれてしまう深い闇というか。
……そういえばアレって何かに似てるような。
「ここで待ってて、アレがなんなのか確かめてくる」
夕闇さんはソレに近づいて行った。
木々の後ろに隠れながら、背中ごしに対象を見つめる動作と姿はさながらスパイアクションの様。
全く無駄の無い動きだ。私もあんな風になりたいなぁ。
なんて、アレコレ思ってる間にいつのまにか夕闇さんはソレの目の前まで辿り着いていた。
まず最初にやったことは石を投げつける。
生物ならこれで多少のアクションを起こす筈。
すると石はベチャッと音を立てて、ソレの内側へ深くめり込んだ。
……生物じゃない。じゃあアレは一体なんなの?
すると夕闇さんはスタスタと私のところへ帰ってきた。
「……なんだったんですか、アレ」
私の問いかけに夕闇さんはしばらく沈黙した。
そして一言、『見てきなさい』と言われた。
内心、意味が分からなくて戸惑ったけど。
とりあえず、私は言われた通りにアレを見てくる事にする。
どういう意味なんだろう。
自分の目で見て来いってことは何か深い意味があるとは思うんだけど……え?
……………………コレって、まさか
そうだ、何かに似てるってずっと思ってたんだ。
ようやく分かった、その答えが。
ハンバーグだ。
挽き肉をこねて、手で形を整えて。
楕円形にしたあの形にそっくりだったんだ。
じゃあコレを一体誰が作ったのか?
簡単だ、野生の動物はこんな風に手間暇をかけたりなんかせずに獲物を生で喰らう。
十中八九、鬼の仕業だろうね。
じゃあ、このハンバーグ。
材料となった肉はどこから取ってきた?
牛? 豚? 鳥? どれも違う。
鬼は古来よりあるモノを好んで喰らってきたとされる。
そう、これはそのあるモノをこねて作った挽き肉だ。いや、奴らにとっては団子に近いのかもしれない。
「そんな!? じゃあもう既に……………ウッ!」
猛烈な吐き気が止まらない。
つい作るところを想像してしまった。
そうか、夕闇さんはコレを見せたかったのか。
多分、これから先はコレくらいヤバイことが続くかもしれない恐ろしい世界なんだ。
夕闇さんはそのことを伝える為に。
私にその世界を渡り歩く覚悟を見せろってことか。
でも残念だったね夕闇さん。
私にそんな覚悟なんてモノはこれっぽっちも無いよ。
だって、そりゃあそうでしょ?
こんな残酷な運命が当たり前の覚悟なんて私はいらない!
私は誰も傷つけさせない! 誰も悲しませたくない!
みんなが楽しく笑顔でハッピーエンド。
それを実現する為に私は、厳しい修行を耐え抜いた。
だから私はこう言う
「早く奴らの巣に行きましょう、夕闇さん」
振り返って見た夕闇さんの瞳はいつもより真剣だった。
でもすぐにそれは解けて安堵の表情でもちろんと言った。
私はここで散っていった人達に手を合わせて先を急ぐ。




