そこにあるモノ
森を歩いて三十分。
風、湿度、視界に今のところ異常は無い。
それどころか、ここに隠れ住んでいるであろう鬼達の気配すら感じない。
どういうこと?
「………やっぱり私の修行不足かなぁ」
たった二週間だけど、私は突貫の修行を耐え抜いた。
身の丈を超える大鎌をヒョイヒョイと振れるようになったし、遠くから迫りくる危険を事前に察知できるようにもなった。
でもそんなものは所詮、付け焼き刃に過ぎない。
どんなに頑張っても、私はまだまだ半人前。
私より強い敵が現れたら、周りに頼ってサポートに回るしかない。悔しいけどね。
これが現実だ。揺るがない真実だ。そう自分に言い聞かせるしかないんだ。
……それとも本当に異常がないのか?
確かに、異常があるなら夕闇さんが何かしらのアクションを起こしてる筈。
それが無いって事は、やっぱり本当に何も無いのか。
……嫌な予感がする。まるで死神に背筋を指でなぞられてるような気分だ。
そんな焦燥に身を焼かれていた時、不意に夕闇さんがストップの合図で私の前に掌を見せる。
「……何かいる」
真剣な声のトーンは私に唾をゴクリと飲ませた。
多分、嫌な予感の正体がここで分かる。
覚悟はもう出来てる!
木々の隙間から、私は夕闇さんの見ていたモノに視線を向けた。
「…………………ナニアレ」




