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前へ前へと

「夕闇さん! そっちに行きました!」


 赤く小さな小太りの鬼が私の攻撃を避けて、夕闇さんの方へ猛ダッシュで逃げて行く。多分、私より体が一回り小さい夕闇さんを狙う事にしたんだろう。


 そして倒したらすぐにこの場からエスケープ。


 でも残念。

 生憎、その人は私なんか遠く及ばない存在だ。


「はいはい、 ま〜かせて!」


 ビシュッという皮袋が切れたような音とともに赤い小鬼は地面に身を沈めた。


 どうやら矢の先で喉笛を切ったらしい。小鬼は黒くて汚泥のような匂いのする血の池をドクドクと地面に這わせて広げていった。


「さすがですね! 夕闇さん」


 ほとんど攻撃が見えなかった。

 まるで居合斬り、私では到底成し得ない技だ。


「まぁね〜、それより次よ次」


 夕闇さんは向こうの森を指差した。

 どうやらあの森の中に今回のターゲットがいるらしい。


 今回の私達の任務は鬼の殲滅。


 一刻も早く、全て片付けなければならない。

 古来より、鬼は人を食す。放っておけば必ず被害が出てしまう。


 情報ではさほど強力なヤツはいないって聞いたけど。

 おそらくそれはガセだ。もしくはたまたま居なかったかのどちらかだ。


 何故なら、さっきからおぞましい程の妖気が私の精神をつんざくように押し寄せているからだ。


 これは明らかに強敵の気配だ。

 伝説や伝承に語られはしなかったが、そこそこの実力を持っていたタイプの妖怪。


 もしくは隠し持っていたか。


 どちらにせよ細心の注意を払わなければまず、こちらの首が飛ぶ。そうなったら沢山の人が死んでしまう。


 それだけは絶対に嫌だ!


 手に持っていた大鎌で空を風切る。

 そして覚悟を決める。


 大丈夫、コッチには夕闇さんがいる。

 私なんかじゃ敵わないヤツだったとしても、その時は夕闇さんを全力でサポートすればいい。


 今はとにかく誰も死なずに済む選択を。


「ほら、ボサッとしてると置いて行くよ〜」


 凄いなぁ。

 こんなに重い殺気と妖気なのに眉一つ微動だにしないなんて。


 それほど私と夕闇さんでは実力が違うって事なんだろう。私もいつかはそんな風になれるかなぁ。


「はっはい! 今行きます」


 森の中は鬱蒼としていた。

 高く伸び切った枝と葉で陽の光はほとんど入ってこない。


 何か化けて出てきそうな独特の雰囲気。

 私苦手なんだよなぁ、こういうの。神社の時も内心ガクブルだったし。


 オマケに鬼がいつ襲ってくるか分からないんだから。


 こんな森の中で怪我したら致命傷になりうる。

 万が一の消毒液は持ってるけど、敵に襲われたらそんな事言ってる場合じゃあ無いし。


 とりあえず今は夕闇さんの側で気配を探るしか無いか。

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