駆け巡る想いは流星の如く
……今夜は満月か。
小さかった頃は、お月様には兎がいて、たくさん餅をついて食べてるんだって信じて疑わなかったっけ。
あんなにキラキラ光ってるんだからきっと、兎さん達がピカピカになるまで綺麗に磨いてるに違いない。いつか必ず見に行こうねってお父さん達によくねだったりもしてたなぁ。
あの頃はただ、純粋にいろんな事が楽しめて好きだった。
でも年を重ねていくにつれて、次第にそういう考え方をしなくなって、やがて月を綺麗とも思わないようになってしまった。
……あの頃以来か、こんなに月が美しく見えるのは。
まるで、遠い昔の自分を見ているような気分だ。
昔の偉い人達もこういう感じで星を眺めてたのかなぁ。
「あら、月見とは風流ねぇ」
夕闇さんが部屋の襖を開けて出てきた。
そして縁側で座っている私の横にゆっくり腰をおろした。
「今夜は良い月が出てますよ」
月を見ながら囁くように私が言うと、夕闇さんは私の方を一回だけチラッと見て一言、そうねと返した。
目から溢れた雫が頬を伝う。唇は震えて、鼻をズズッと鳴らして、溢れ出しそうな声を必死に抑える。
夕闇さんは私をそっと抱き寄せてくれた。
「それは貴方のせいじゃない、誰のせいでもない、ただ貴方がそう在るだけ、そういう人を私達は知っているもの」
夕闇さんの懐はとても温かかった。
まるで、子供が感じる母親の温もりのように。
私は、夕闇さんの腕の中でたくさん啜り泣いて、やがて訪れた睡魔に身を任せ、そのまま眠りについた。




