桜に誘われて
皆さん、こんにちは藍スミレと申します。
初めての方も見知りの方も読んでいただき光栄の至りです。
どうぞこれからも末永くよろしくお願いいたします。
今日の授業はいつもより早く終わった。
私のなまえは露火 真狐兎。地元の学校である私立十六夜高校に通うごく普通の高校生。ちなみに二年。
じつは最近、私の住んでいる地域、十六夜町で原因不明の事件が多発している。
内容はたいてい行方不明。もしくは血みどろじみた殺人の跡。
ニュースで取り上げてられているのをテレビで何度か見たことがあるくらいに有名だ。
担任の先生からも、帰り道などは特に気をつけるようにと念を押されている。
でも私はそんなことを微塵も気にしていない。
たしかに事件や事故はおそろしい。でも最終的にはみんな『自分は大丈夫』だとか『自分には関係ない』で済ませてしまうのがあたりまえだ。
無論、それは私も例外ではない。なんてったって普通の女子なんだから。
私は必要なノート類を全てカバンにしまって、教室を後にする。
☆
私立 十六夜高校 校門前
私は壁に背もたれながら趣味のラノベを読んでいる。するとページをめくった際にはさんでいたしおりを落としてしまった。
慌てて拾おうとしたその時。
「おっ! まっ! たせ〜! 露火ちゃ〜ん!」
「うわっ!? ちょ!?」
声と同時になかなかの威力の衝撃が私の背中におみまいされ、私は派手に転……びそうになったが、なんとか右足でふんばった。
びっくりした私は慌ててふり返る。背後にいたのはなじみのある白髪の女の子。
あー、やっぱりね。
いきおいよく私の背中にダイブしてきたのは幼馴染の西之白百合。
ツヤのある白い肌と蒼い瞳、そして白髪の長いポニーテールが特徴的な女の子。
今日は白百合といつも帰り道に寄っているカフェに行くため、校門で待ち合わせしていたのだ。
カフェの名前は 喫茶【ビレイグ】
ここの店長が私の父と古い仲で、バイトをしていない私にはいつも全商品二割引きというまさに天の救いのようなサービスを施してくれる。
ちなみに白百合もその恩恵に預かれるので、よく二人で窓際のイスに座り、雑談を交わすのが私たちの日常となっている。
私は背中にしがみついた白百合をひっぺがして地面にそっと置いた。
その間も白百合はずっと幸せそうな笑みを浮かべている。
私はさっさと行くよと言ってカフェへ向かい、白百合は待ってよ〜と言いながら駆け足でついてくる。
☆
喫茶【ビレイグ】 入り口前
レトロな雰囲気が漂うレンガの壁。板チョコ型のドア。きれいな花が咲く花壇。
そしてドアの上に掲げられている喫茶【ビレイグ】と書かれた看板。
「いつ来てもキレイだねぇ、ここ」
カランコロンと鳴るドアの鈴。
二秒後にカウンターからいらっしゃいませの声が飛んでくる。
店内は芳醇なコーヒーの香りと優雅な音を奏でる蓄音機の音で満たされている。
イスはカウンターの前に五つ。窓際に四つ。
内、窓際の席は二つあるので向かい合う形でイスが二つずつ。
私と白百合はいつも座る窓際のイスに歩みをよせる。
けど残念。今回は先客がいたみたいだ。仕方ない、今日は隣のイスで妥協しよう。
私達は隣の窓際のイスに座りこむ。
ほどなくして、店員さんが注文を聞きに来た。
私はカプチーノ、白百合はブラックを注文。
店員さんはかしこまりました、と言うと奥の方へ去っていった。
「ねぇねぇ、露火ちゃん」
白百合がヒソヒソと耳打ちしてきた。
「隣の人、すごい美人じゃない?」
白百合にそう言われて振り返る。なるほど、さっきはよく見えなかったが、たしかにキレイな女の人が本を読んでいた。
ツヤとハリのある白い肌。通った鼻筋。藍色の長髪。
瞳も......藍色なんだ。
あれ......なんだろう。なんだか妙な違和感を感じる。靄が頭の中を包んでいるような。
この人......以前に......どこかで。
なんでかは分からないけど、私はその人から目が離せない。
しばらくすると、その女性は読んでいた本をパタンと閉じ、席を立ってカウンターの方へ向かった。
どうしちゃったんだろう私。
などと思っていた矢先。
今宵、夜津矛神社にて、犬の刻に参られよ
知らない人の声が頭の中に響いてきた。




