墓場探検
「ねえ、お墓にイタズラなんてやっぱり駄目だよ」
1番身長の低い小学3年生の小島悠斗が沈黙を破る。時刻は夕方の4時5分。辺りは薄暗く、視界も悪い。
「ったく、相変わらず怖がりだなお前は。大丈夫だ、霊の気配は感じないから」
生まれつき霊感がある小学4年生の鈴木拓哉。幽霊を何度も見ていて、金縛りになった事もあるらしい。
「おいお前ら!ぺちゃくちゃ喋ってないでさっさと着いてこい!」
小学5年生の斎藤龍輝。典型的なガキ大将で、墓場探検を持ち出したのもこの子供だ。なんでもクラスでこんな噂を耳にしたらしい。
"夕方の4時に『朝日家之墓』に触れると幽霊が怒って飛び出してくる"
「うーん、まずは『朝日家之墓』を探さなきゃな…悠斗と龍輝、二手に分かれて探しててくれるか?俺はお寺の人に聞いてみるから」
「おう!任しとけ!おい悠斗、俺様はこっち半分探してやっからお前はそっち半分な。」
「わかった。見つけたら知らせるね」
抜群のチームワークで『朝日家之墓』を探し始める3人組。
「すみませーん!あのー?誰か居ますかー?」
お寺の人に聞く役割の拓哉は何度も何度も呼びかけるが、幾ら呼んでも応答はない。
「うーん、お休みかなー…ん?」
扉に張り紙が貼ってあるのを発見した拓哉は階段を登り、読んでみることにした。
「日が落ちる方向、そこに『朝日家之墓』有り…か。日が落ちる方向って確か西だよね?てことは」
「おいお前ら!あったぞ!来い!」
西側を探していた龍輝が大声を上げる。東側を探していた悠斗は声に気が付いていないらしく、懸命に探していた。
「悠斗、『朝日家之墓』は見つかったぞ、行こう」
「え?それは変だよ。だって朝日は東から昇るのに」
言われてみれば確かに変だが、そこまで深く考えることだろうか?墓を建てた遺族が『苗字が朝日だから東側に建てよう』なんて事を果たして考えつくのだろうか。
「それは考えすぎだろ。…なんか霊の気配がする…悠斗、行くぞ?」
手を繋ぎ、西側で待っている龍輝の下へ歩いていく。
「大丈夫か?お前、なんか手が冷たいぞ」
「うん、平気」
偉くニコニコとした表情の悠斗に不安を抱きながら、拓哉は手を引っ張り早足で歩く。
「おい、お前ら走ってこいよな。さあ、誰が触れる?」
龍輝が相談を持ちかけたその時、寺から物音が聞こえてくる。ガタン、ガタンと2回だけ鳴ったら突然、何事もなかったかのように静寂が生まれた。
「…さっき行った時は誰も出てこなかったのに、何で物音が?」
「な、な、なあ、さっさと触れて帰ろうぜ?どうせ何も起きないんだからよ。おい拓哉、さっさと触れろ」
声が裏返り、威勢が無くなってしまった龍輝はあまり怖がっておらず、それでいて霊感のある拓哉が触れることを提案した。
「いやいや、ごめん、本当に無理。霊の気配強すぎて頭痛い…ていうかさ、ここに連れ出したのは龍輝だろ?俺達は触れる理由なんか無いよ。」
霊力が強くて頭が痛いし、ここに噂を信じ、ガキ大将の権力を使って連れ出したのは龍輝だから自分で触れるべきと主張する拓哉。
「そんな喧嘩やめようよ。もうみんなで触ろう?ね?」
「…そうだね。龍輝もそれでいい?」
「し、仕方、仕方ねえな。」
口喧嘩を始めそうだから一層の事3人で同時に触れよう、と提案する悠斗に2人は賛成のようだ。
「じゃあせーの、で触るぞ?」
拓哉に頷く2人。
「せーの、それ!」
龍輝と悠斗は何事も無く心から安堵しているが、
「…そこの小さい子供よ、何の用だ?」
霊感を持っている拓哉の様子がおかしい。まるで取り憑かれたような目で、友達のはずの2人を睨んでいる。
「拓哉くん?どうしたの拓哉くん!」
「こ、子供ってお前も子供だろうが。なあ、変なイタズラはやめてくれよ。お前に触れって命令したのは謝るからさ、な?」
「小さい子供よ、もう1度聞く。何の用だ!」
可愛がっていた悠斗に怒声を浴びせる拓哉。本当に取り憑かれているのだろうか。
「ごめんなさい。僕の友達が貴方の墓に触れば幽霊が飛び出してくるって聞いて、それで…」
「成程。興味本位で来たということか…分かった、答えてくれてありがとう」
「本当にごめんなさい、これからは絶対しません。」
「…ん?どしたの?悠斗、何謝ってるの?」
拓哉が正気を取り戻し、嬉しさのあまり抱きつく悠斗。
「ふー、楽勝だったな。実は俺さ、墓に触れてねえんだよ。疲れたからさっさと帰ろうぜ」
「こら龍輝、悠斗が怖い顔してるからそういうこと言うなよ」
後日、ガキ大将の龍輝は
暴走したトラックに轢かれて死んだ。