二人の王女への遺言
親愛なる我が二人の娘へ
先の大戦では、多くの民の命と財産が奪われた。
勝利したのは我が王国が属する西域諸国連合であるが、我はこの勝利に喜びを感じてはいない。
企業連合体が王族に取って代わり、機械兵器が騎士に取って代わり、戦争も道義ではなく、利潤を追求する時代になろうとしている。
我が臣下たちも、戦争による莫大な利益という俗的な誘惑に駆られ、王族への忠誠心を急速に失いつつある。
我が王国も遠くはない将来、企業連合体の傀儡官僚どもにのっ取られるであろう。
その時、無慈悲な企業連合体にとって邪魔者である我が身が、どうなるかは推して知るところである。
先の大戦にそなたたちは、なにを感じただろうか?
いや、王宮の中で外界のことを、なにも見ていないそなたたちに届いたのは、終戦パレードの凱旋の号砲と、広場を埋め尽くす人々の歓喜の声くらいだったのではないだろうか?
舞い散る紙吹雪の中、うれしそうに王宮のテラスから群衆を見下ろすそなたたちの姿を見て、我は一抹の不安を感じずにはいられなかった。
我々が生きるこの世界は遥か昔、永遠の平和を流布すべく苦難の旅を続けた探求者が創造したものである。
我が王族も、その探求者の末裔と伝えられている。
二人の愛しき娘よ。
この小国を出よ。
世界の広大さを知り、人々と共に生きよ。
現代の探求者として、自らのその目で、その耳で、この世の真の姿を確かめよ。
そして、その中で、そなたたちが本当の幸せを見出すことを願ってやまない。
──西の小国 トライ・ラテラル国王 リト
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殺せ! 殺せ!
この世界のどこに逃げようとも、必ず見つけ出せ!
この世界の災禍となる、忌まわしき二人の小娘を抹殺せよ!
地の果てまで追いつめ、肉の一片、血の一滴も残さぬよう、焼き払え!
旧弊たる誤った価値観を捨て、我に従え!
──新生マキナリア共和国軍需大臣 グレゴリー・ギルモア