~試練・1~(2)
「ああ、こうなっていたのか」
蓮花が走ってきた一本道の先は行き止まりだった。
しかし先程いた場所からは死角で見えなかったが、突き当たってから見てみると、左と右にそれぞれ下へと続く階段がある。
――確かあの絵の通りだとすると、左が正解だった筈だから……。
そう考えた蓮花は、左の階段を下ってみる。
そこまで深くはなく、すぐに階段の先が見えてきた。
――……また扉か。
一応扉の中も確認してみようと、扉の取っ手に手を掛けた蓮花。
木で出来ていた扉は建て付けが悪いのか、重みとは違った音を立ててゆっくりと開く。
中は薄暗かった為よく見えないが、それでも先へと道が続いている事だけは確認する事が出来た。
――きっと、こっちが正解って考えは正しいと思うけど……念の為もう一つの階段も、降りて確認した方がいいかな。あーでも、階段を下りた瞬間に矢が飛んできたりしたら、嫌だな~……。
映画等でよく見るトラップを色々と想像した蓮花は、とりあえず階段を上ろうとしたところで、聞いたことのない悲鳴と共にものすごい地鳴りが聞こえてきた為、慌てて階段を駆け上がる。
――えっ? なんでっ!
来た道を見ると、なんと待っていてと頼んでおいた筈の皆が、逃げるようにして走ってきていた。
その後ろを、けたたましい音を立てて鉄の球が追い掛けてきている。
慌てて皆を左の階段へと誘導する蓮花。
地鳴りと共に、どんどんと勢いを付けて近付いてくる鉄の球。
間一髪のところで蓮花も左の階段へと飛び込んだ為、鉄の球は誰に当たる事もなく突き当たりの壁へとぶち当たった。
けたたましいその音に、思わず耳を塞ぐ蓮花たち。
砂埃が舞ってしまった為よく見えないが、球は壁にはのめり込まなかったようで、ゆらゆらと揺れている。
「おい、これ……、ほっといたらこっちに来るんじゃないか?」
敦の声にハッとする蓮花たち。
そんな事はお構いなしに、どんどんと反動を付けていく鉄の球。
慌てて蓮花たちは階段を駆け上がり、鉄の球を押し出そうとする。
「押せ! 押せっ! 踏み潰されるぞ!」
敦の必死な声が響き渡る。
このまま蓮花たちがいる方へ球が転がってきたら、一溜りもない。
狭い階段の中、必死に球を押し出す蓮花たち。
必死に押した事が功を成したのか、鉄の球はゆらゆらと自身の反動で、蓮花たちが逃げ込んだ階段とは逆の階段へと吸い込まれていく。
低い音と共に階段を転がっていった鉄の球は、止まる事無くこちら側と同じようにあった木の扉を突き破り、そしてその先で待ち受けていたマグマの中へと落ちていった。
――そうか、あっち側はマグマだったのか……。
呆然と消えていった先を見つめる蓮花。
――あのままあちら側の扉を開けていたら、下手したら私がマグマの中へ落ちていたのかも……。
そう想像し、身震いをする。
すると先程とは明らかに違う何かが、すごい速さでこちらに近付いている事に気が付いた蓮花。
音の方を見ると、今度は大量の水が蓮花たちへと押し寄せていた。
次々と息をする間もなくやってくるピンチに、ついに頭の中が停止する蓮花。
「ちょっと! 何してんのよ!」
皆が大量の水から逃げるように左の階段へと逃げて行く中、固まったように動かないでいる蓮花を、慌てて夏木が引っ張る。
身体を引っ張られた事で、何とか我に返る事が出来た蓮花。
そのまま夏木に引っ張られるようにして一緒に階段を下り、先程確認した扉の中へと入ると、それを待っていたかのように水野大樹と宵歌が扉を閉めた。
しかしこのままでは、あの大量の水は確実に扉を突き破ってきてしまう。
立ち止まる事無く走り続けた蓮花たちは、ひたすら続く暗闇の先に現れた新たな扉を発見し、その扉目掛けて駆け抜けた。




