~期限~
「蓮花さーん! ちょっと宜しいですか……って、あら?」
資料の束を手にしたクラク。
訓練でバテてしまい訓練場の地面で寝転んでいる蓮花の傍までやってくると、目をわざとらしく大きくして話し掛けてきた。
「どうかされましたか、蓮花さん」
あなたのようなウェキナーともあろう方が、一体どうしたんです?
手に持っていた束を脇に抱えて卑しくクラクは笑う。
そんなクラクに顔を覗き込まれたくなくて、蓮花は魔力の出し過ぎで力が出ない身体を無理矢理起こして反応した。
「……いえ、ちょっと魔力を出し過ぎただけです」
フラフラながらも立ち上がった蓮花を見て「まあ、練習熱心な方ですね。」なんて、張り付いた笑顔を見せるクラク。
「それより、何か用ですか?」
服に付いた砂を払いながら、蓮花はクラクに問う。
「ああ! そうでしたそうでした」
砂を払い終え、視線をクラクへ向けた蓮花へそう返事をしたクラク。
大げさに手を一度叩くと、脇に抱えていた資料の束から一枚蓮花へ手渡した。
「……これは?」
渡された紙へ何気なく目を通しては見たが、何が書いてあるのか蓮花にはさっぱり分からない。
意図が読めないのでクラクへ聞いてみた。
「ああ! そう言えば蓮花さんは、この星の文字は読めないんでしたね」
ワザとなのか、そう言って卑しく口角だけを上げて話すクラク。
「これはあれですよ。今度行う、蓮花さんデビュー戦を知らせる為のチラシです!」
これからこの街の各掲示板へ貼って、宣伝するんですよ!
まるで自身のやっている行為が正しいとでも言うように、自信満々でクラクは言う。
――ああ、なるほど。私の事が書いてあるのか……。
読む事が出来ない為に、自身の事が書かれているチラシも何処か他人事に感じる蓮花。
そんな蓮花の感情には気が付いていないのか、クラクは嬉しそうに話を続ける。
「いやー! 蓮花さんは、この闘技場内で覚醒して頂きましたからね! 貴方様のデビュー戦を心待ちにしている人は、沢山いるのですよ!」
温度差が激しい二人の会話。
「昨日の各便で、同じチラシを乗せた馬車が、それぞれの街へ配りに行ってくれていますからね!」
観に来てくれたお客様の為に、大々的にこの街でも宣伝しておかないとと思いまして。
そう言ってにっこりと笑ったクラク。
「……大々的に?」
チラシにどんな事が書いてあるのか、素朴な疑問を浮かべていた蓮花。
――どうしてそんな事をするんだろう……。別に私がデビューするって、この街の中なら口伝えで広めたらいいのに。
遠くの街へ宣伝する為にチラシを便で送ったのは、蓮花でも分かる。
しかしこの街の中でチラシを貼って宣伝する意味が分からなかった蓮花。
「……あのー、クラクさん」
雇い主ではなく個人的な質問として疑問を持った蓮花は、楽しそうにしているクラクへ声を掛ける。
「はい?」
返事をしてクラクはじっと蓮花を見据えた。
「どうしてこの街にもチラシを貼るんですか?」
口伝えで宣伝すれば……。
恐る恐るそう聞いた蓮花の問いに、クラクは再び卑しい顔を見せる。
「ええ、勿論口伝えでも宣伝していきますよ!」
嬉しそうな声を響かせながらクラクは話し出す。
「前売り券を買いに来てくれた方や街の至る店で、殺し文句のように我々闘技場の関係者達が宣伝をしています」
でもそれは、あくまでこの街にいる人々の為の宣伝です。
なんて話すクラクは、言葉を続ける。
「チラシを貼っておくのは、当日遠くから遥々観に来てくれた方が、より一層楽しみな気持ちを増幅させる為です」
まるで商売のノウハウを説明するかのように、クラクは分かりやすく蓮花へ説明する。
「長旅をしてまで観に来て下さった方々が、最初目にするのはこの街です。楽しみにしてやっと辿り着いた時、全くこの街が闘技場の宣伝をしていなかったら、不安になってしまうでしょう」
まさにクラクは商売をする為に生まれてきたとでも言える位、言葉巧みな説明を続ける。
「折角お金を払ってまで、観に来て下さるのです! 不安な気持ちを一瞬でも生ませてしまったら、見世物を商売としている支配人の名が廃ります!」
――へぇ~……。クラクさんも、ちゃんと支配人としての誇りを持って、仕事をしているんだな。
少しばかりクラクに敬意を持った蓮花。
「なるほど……さすが支配人ですね」
なんてクラクへ素直に言葉を投げ掛ける。
「ええ、だてにこの闘技場を、ここまで大きくしていません」
ここまで誇りを持って話していたクラク。
「だから蓮花さんも、そんなお客様方の為にも! がっかりさせない殺し合いをして下さいね」
先程までの誇り高き笑顔から、再び卑しい笑顔へとクラクは表情を変えて蓮花を見た。
「あっ、はい。頑張ります」
クラクの言われた言葉の裏にも気が付かず、蓮花は素直に返事をする。
思っていた反応と違う蓮花に、肩すかしを食らったクラク。
体勢を整える為に咳払いを一つすると、改めて蓮花へ話をする。
「そこで蓮花さん、貴方様に伝え忘れていた事がありましてね」
そう言葉を落としたクラク。
「伝え忘れていた事?」
もはやクラクが落とす『様』にも、何のこだわりも無くなっていた蓮花。
特に反応する事無く、蓮花はクラクの言葉を繰り返す。
「……はい! 貴方様のファイターとしての、通り名を決めていなかったなと思いまして」
一瞬取れかけた笑顔を何とか持ち堪えたクラク。
満面の張り付いた笑顔を存分に見せつけながら、話を続けた。
「このチラシには『闘技場にて覚醒した期待のウェキナー、ついに始動!』と言う見出しと共に、デビュー戦の日にちと、覚醒した時の詳細を書いたのですが。そういえばまだ、蓮花さんの通り名を決めていなかったなと思いまして」
そう言ってにっこりと笑ったクラク。
――……通り名、か。
クラクの言っている事はなんとなくだが分かった蓮花。
それでもいまいちピンと来るものがないので黙っていると、それを意味が通じていないとクラクは捉える。
「ああ、要するにファイターとしての、芸名みたいなものですよ!」
流石と褒めるべきか、完璧なまでに張り付いた笑顔を崩さないクラク。
「鎧塚みたいに、見た目の印象と名前を絡めて決めても良いですし、勿論セルフィーナみたいに、そのまま名前を使っても良いですよ」
なんて説明をするクラクの言葉を聞きながら、蓮花は黙って考えてみる。
――うーん……そうは言われても、ね。
中々決められずにいる蓮花を見て、クラクも表情を落とした。
「……まあ、通り名は前日までに決めて下されば良いので、決まったら教えて下さい」
再び張り付いた笑顔を見せたクラクは、そう言うと蓮花に背を向け歩き出し、訓練場から出て行った。
「あっはい、分かりました」
歩いていくクラクへ、慌てて返事をした蓮花。
クラクが訓練場から姿を消すと、大分落ち着いた自身の身体に再び炎を纏いつつ、蓮花は通り名に付いて考えた。
やっと主人公の通り名についての話ですね。
……ええ、まだ決まっていません。←
何か良い案、降ってこーい!




