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生きる為に。  作者: 井吹 雫
二章
7/175

~移動~(2)

 報告すっかり忘れてました!汗

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「着いたぞ」


 先頭を歩いていた男がそう言うと、動きが止まった。


――ここは……扉?


 周りを囲んでいる男達の間からわずかに見えた前方の扉。

 その見るからにして重そうな異様な扉を前にし、言葉も出ない蓮花たち。

 すると、先頭を歩いていた男が振り返り口を開く。


「この扉の先に試練が待っている。今からお前たちはこの中に入り、試練に挑んでもらう」


 そう言うと、ろくに返事も聞かず蓮花たちを無理やり扉の中へと押し込める男達。

 もちろん抵抗しようとした蓮花たちだったが、武器で脅されてしまいどうすることも出来ず、あっという間に扉の中へと入れられてしまった。


「無事に試練を乗り越える事が出来たら、この場所で生きていける権利を与えてやる」


 男がその言葉を投げ付けると共に扉が閉まり、薄暗い中へ押しやられてしまった蓮花たち。

 閉まる直前に聞こえた、柄の悪い男の不気味な笑い声だけが、やけに蓮花の耳の中で残っていた。

 唖然としてしまった蓮花の横を走り抜け、慌てた様子で閉じられた扉を叩く敦。

 その様子を見て、オドオドとどうする事も出来ない様子の進一。

 恐怖からか、今にも泣き出してしまいそうな宵歌。

 その隣で、じっと閉じられた扉を見据える水野大樹。

 どうでも良いとでも言いたげな顔をしつつ、手が震えている夏木。

 そんな皆を見て、なぜか一人冷静になれた蓮花。


――試練って何よ? 生きていける権利ってなんなの?


 正直蓮花だって何が起こっているのか、この先に何が待っているのか全く分からない。

 実際一人だったら確実に取り乱し、どうする事も出来なかっただろう。

 しかし蓮花は取り乱す事も、震えも恐怖も、暴れる事でさえも皆に先を越されてしまった。

 だがそれを、皆が目の前で代わりにやってくれたおかげで早々に冷静になる事が出来、抵抗する事への諦めが付いた蓮花。

 そうなると残された物は一つしかない。

 順応力。

 冷静になれた事で誰よりも早くこの状況に順応した蓮花は、閉じられた扉を背にし前へと歩き出す。

 その先にはもう一つ、扉が用意されていた。


――明かりが漏れている。きっとこの先へ進め……って事だよね。


 そう考えると蓮花は何かを決心し、依然諦めが付いていない皆に背を向けたまま、声を掛けた。


「いつまで、そうしているんですか」


 驚くぐらいに冷静な声が、蓮花たちのいる場所に響き渡る。


「もう一度聞きます。いつまでそうしているんですか」


 皆の視線を背中に感じた蓮花は、深呼吸をして振り返る。


「私は嫌ですよ。無理やり連れて来られて、理由も分からないまま、ずっとこうしているなんて」


 蓮花の声があまりにも冷静で、それでいてどこか優しい声だった為、皆は吸い込まれるように蓮花を見る。


「ここに、先へと続く扉があります」


 皆の視線を浴びている蓮花は、残酷なほど冷静な声で話を続ける。


「私はこの先に進んで、先程男の人が言っていたその試練とやらを受けようと思います」


 皆さんはどうしますか?

 優しく問いただす蓮花。

 敢えて挑発的な事は言わず、あくまでも皆の意見を聞くように。

 それでいて自分の、蓮花の意志ははっきりと決まっている事が伝わるように。


「……どうするか、決められないですか?」


 中々返事が返ってこないので、やはりかと今度は諦めの溜息を短く吐いた蓮花。


――そう簡単に切り替えられる訳じゃない、か……。


 すると、誰も動こうとしないでいた中、水野大樹が無言のまま近づき蓮花の隣で立ち止まる。


「行くしかない、か」


 そう呟いた水野大樹は明かりが漏れている扉から目線を移し、蓮花に諦めの笑顔を見せる。

 その姿に同意を感じて、嬉しくなった蓮花。


「そうですよ。進まなくちゃ、何も始まらないですよ」


 なんて、わざと明るく乾いた声で言い、そして笑った。


「私も、行きます!」


 そんな二人のやり取りを見たからか、宵歌も震えた声のままではあったが慌てて声を上げる。

 黙っていた夏木も水野大樹がいる蓮花の反対側へと歩いてきて、そして止まった。


「……なによ」


 ぶっきらぼうではあるが、同じく一緒の意を示してくれた夏木に嬉しくなる蓮花。


「お二人はどうします?」


 同意見の仲間が人数的にも増えた為、自信が出た蓮花は残りの二人にもう一度問う。

 案の定進一はオドオドするばかりで、同じくまだ答えの出していない敦の様子を伺っている。

 きっとまだ、自分で自分の意志を決められる自信がないのだろう。

 そんな進一を構っている程の余裕はないので、ペースを乱される前に蓮花はもう一人の敦に返答を求めた。

 何も表情を読み取る事が出来ない敦だったが、ふと静かに言葉を発する。


「……君は、この後の保証が出来ているのか?」


 穏やかに、しかし恐ろしく低い声の迫力で、一瞬にして決意が崩れそうになる蓮花。

 だが、一度決意した今にも千切れてしまいそうな細い糸を、かろうじて掴み続ける事が出来た蓮花は静かに目を閉じ、そして答えた。


「そうですね……。正直に答えると、そんな保証は出来ません」


 敦はそんな蓮花を、静かに見据える。


「でも、だからと言って私は……やっぱりここで、ただどうにかなるまで待っているのが嫌なんです。自分の目で見て、いったい何が起こったのか、どうしてここに連れて来られたのか、きちんと納得したいんです」


 無責任でごめんなさい。

 そう伝え終えた蓮花を、静かに見据え続ける敦。

 どれ程の沈黙が流れたのか……。

 実際それ程長くはなかったのだが、蓮花にとっては長く感じた沈黙。

 すると、敦は無表情のまま蓮花に近付く。


「世の中は、そんなに甘くないんだよ」


 決して同意を得られた訳ではないという事は、敦の態度から見て分かる。


――そんな事は分かってる。私だってだてに二十年近く生きてきた訳じゃない。



「でも、君たちのこの判断が正しかったのかは、見届けてやるよ」


 敦が何を考えたのか正直分からない蓮花だったが、とりあえず一緒の行動をしてくれると表した敦に安堵する。

 隣にいた夏木が聞こえない程度の声で「面倒くさい男ね。」と呟いていたが、聞き流して蓮花は、一人取り残された進一に声を掛ける。


「進一君も行こう? みんな行くってよ」


 こちらに入りやすいよう明るく伝えた蓮花は、そう言って進一を手招きする。

 自分の意見をただ貫く為に、そうではない人とぶつかって対立すれば良いというものではない。

 一人一人違う意見の人をどう受け止め、共に行動出来るように振る舞っていけばいいのかを、少しずつ学習し始めた蓮花。

 この扉の向こうに何が待っているのかは分からない。

 しかし踏み出した一歩を後悔したくない為、蓮花は出会ったばかりの皆と一緒に扉を開けて、明かりの中へと入っていった。






 今日も夜に、もう一ページだけ更新したいと思います。


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