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生きる為に。  作者: 井吹 雫
二章
6/175

~移動~

 昨日予告した通り、一章の部分を手直ししました。


「準備は出来たか」


 蓮花たちが食べ終わるのを見ていたかのように、タイミングよく先程の男が現れると檻の外から、こう告げた。


「先程言った通り、今からお前たちには三つの試練を受けてもらう」


 生き残りたければ、その試練を乗り越えろ。

 そう言うや否や、男の後ろに待機していた図体の大きな男たちが、牢屋の鍵を開けて中に入って来る。


――ちょっと……なに? 怖い! やだっ、助けて!


 訳も分からず次々と外に出された蓮花たちは、それぞれ言葉で反抗しようとする。

 しかし牢屋を出た先で、周囲を固められ男達が一斉に槍を向けてきた為、硬直してしまう。


「あっはっは! こいつらビビッてやんの~」


 先程水をぶっ掛けた柄の悪い男が一歩前に出てきたかと思うと、笑いながら蓮花たちを囲っている男の中の一人から槍を奪い取る。

 そして、蓮花たちの中から一際背の小さい女性に、わざとらしく槍の先を近付けて脅し始めた。

 目を付けられてしまい、震え上がる女性、水月(みつき) 宵歌(よいか)


――大変っ! 止めさせないとっ!


 そう思って蓮花は声を発して宵歌を助けようとしたのだが、足や手が全く動こうとしてくれない。

 それどころか、息を吸う事さえ出来ない。

 一瞬にして喉が渇くのを感じた蓮花。

 蓮花が助けようとしている事に気付きつつ、それでも行動に動かせない蓮花を嘲笑う男。

 蓮花に見せつけるよう柄の悪い男は、槍を宵歌の身体へ血が出ない程度に突き続ける。

 が、ふとその顔から表情が消えた。


「……あっ? お前何してんの?」


 急に男の態度が変わりびっくりした蓮花。

 視線の先を見ると、槍に突かれている宵歌を背に庇うようにして、水野大樹が前に立っていた。

 自分の意に反した事をされた為、思いっきり不快感を露わにしているその男。

 一瞬にして場の空気が変わった。

 宵歌は背中で視界を遮られている為、状況が見えていないからなのか「あのっ……。」と後ろから声を掛けている。

 が、それでも水野大樹は、宵歌を後ろにしたまま動かない。

 まるで、時が本当に凍ってしまったかのような、そんな時間が続く。


「……、その辺にしておけ」


 この緊迫した空間を砕くかのように、先程の男が低く、しかしはっきりとした口調で呟き制してくれた。

 柄の悪い男はそれでも少しの間続けようとしていたが「分ーかったよ。」と諦めを付け、つまらなそうにして元の槍の持ち主に槍を返した。

 やっと呼吸をする事が許された蓮花。

 そのやりとりを横目で確認した男は、特に何か言う訳でもなく「行くぞ。」と声を掛けたかと思うと、後ろも振り返らずに歩き始める。


「ほーら、行くってよ」


 騒ぎの発端であったその男も、ぶっきらぼうに呟くと蓮花たちにも歩くよう顎で示し、先頭を歩く男の隣へ駆けていった。

 恐怖から解放された蓮花は一度深く息を吐くと、脅されていた宵歌の事が気になり、少し前にいる宵歌の元へと駆けていく。


「大丈夫、でしたか?」


 そう言いながら、少し前を歩く宵歌に話し掛けた蓮花。

 後ろから話し掛けられビクッとした宵歌だったが、振り返って声の主が蓮花だと分かると安堵し、やや表情を和らげる。


「うん、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」


 まるで一輪の白い花が風で揺れているような、そんな優しい声の持ち主の宵歌。

 彼女が言葉を口にすると、本当に心地よい風が流れたような空気になるので、つられて蓮花も微笑む。


「でも、さっきは本当にびっくりしましたよー」


 宵歌と和やかなムードの中、急に背後から話し掛けられたので蓮花はびっくりして後ろを振り向く。

 見るとそこには、学生服をさらりと着こなした男の子がいた。


「もう本当、どうなる事かと思いましたもん」


 そう言いながら二人の間に入ってきた、野之原(ののはら) 進一(しんいち)

 高校二年生で、牢屋の中で出会った蓮花たちの中では一番若い。

 そのせいなのか、それとも元々の性格なのか、進一はとても人懐っこく蓮花たちに話し続ける。

 と言っても、周りが周りなだけに声のボリュームは一応下げていたが。


――確かにどうなるかとは思ったけど、そんなに明るく話さなくても……。


 蓮花の思いとは裏腹に、あっけらかんとした口調で依然会話を続ける進一。

 確かにこれが年相応の振る舞いなのかもしれないが、進一とこの中で一番年が近い蓮花は、その状況にそぐわない態度が目に付いてしまう。

 その点、背も低く可愛らしい見た目の宵歌は二十歳を超えている事もあり、程よく相槌を打ちながら上手く進一をかわしている。


「それにしても、さっきの大樹さんは格好良かったな~!」


 突然進一の話が水野大樹に変わり、少し目を見開いた宵歌。

 そんな宵歌には気が付かず、段々と気分が上がっていく進一は更に続ける。


「サッと宵歌さんを庇って! すごかったですよね~!」


 俺もあんな男になりたいな~。

 と、呑気に言っている進一の隣で先程の事を思い出したのか、宵歌は徐々に頬が赤くなっていく。

 そんな宵歌を見て、蓮花は何かを悟った。


「宵歌さんも、そう思いません?」


 しかし宵歌の変化に気が付いていない進一は、そう言って宵歌に同意を求める。

 少し先を歩く水野大樹が自分の話題をされている事に気が付いたのか、蓮花たちの方を見た。

 動揺している宵歌をさり気なく見ていた蓮花は「そういう事は、せめて水野さんがいない所で言った方がいいよ。」と呆れて、進一に伝える。


「えー! 何でですか! 褒めているんですよー?」


 と、納得がいかない様子の進一。


――なんでって、どんだけ鈍感なのこの子。


 デリカシーが無さ過ぎる進一に、どう伝えようかと困る蓮花。

 すると、この状況の近くにいて会話を聞いていたのであろう敦が、進一に……というよりかは蓮花に向かって、怒ったように注意をした。


「君たち、今の状況が分かっているのか?」


 分かっているのなら、もう少し場を弁えて行動してごらんよ。

 そう厳しく注意をされてしまい、落ち込む蓮花。


――別に、私が騒いでいた訳じゃないのに……。


 これだから近頃の若い子は……なんて言われて、余計に傷付く蓮花。

 隣を見ると「やっべー。」と言いながら、罰が悪そうにしている進一と目が合った。


「あの敦さんって人、ちょっと怖いっすよね。でも社長をやってる人なら、あんな感じなんですかねー?」


 まだ若そうなのにすげー!

 そう懲りずに話し掛けてきた進一とこれ以上一緒にされたくなかった蓮花は、曖昧な返事をする。

 話に喰い付いてこない蓮花を不満に思ったのか、進一はつまらなそうにして蓮花から離れ、無言になる。

 その姿にほっとした蓮花は、いまだ辿り着かない場所へと無心で歩み続けた。




 今日は時間もあるので、もう一ページだけ更新しようと思います!

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