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生きる為に。  作者: 井吹 雫
第二部 六章
30/175

~浴室~

 昨日更新した『~訓練~』ですが、作者が投稿前の最終手直しを忘れてしまった為に、大変読み辛い個所が多々あったかと思います。

 きちんと手直しをし、改めて更新致しましたので、お暇な時にでも読み直して頂ければと思います。

 読んで下さっている読者の皆様には、二度手間となってしまい、大変申し訳ありません。

 文は変わっていますが、内容を変えた訳ではないので、今後ともよろしくお願い致します。


「しっかし、あんたは何でまた、自らファイターに志願した訳?」


 蓮花の隣で桶に汲んだ水をかぶりながら、セルフィーナは蓮花に聞いた。


「別に、覚醒したあんただったら、わざわざこんな所に雇われなくても、十分に生きていけるでしょう?」


 周りが全て石で囲まれている、地下の浴室。

 ろうそくの火がある為そこまで暗くはないのだが、その密閉されている空間が、少しばかり居心地が悪い。

 身体を洗っている蓮花の方を見て「あらあんた、肌綺麗ね。」なんて言いながら、後ろから蓮花に抱き付いたセルフィーナ。


「ちょっ……、止めて下さい」


 悪意がないセルフィーナを押し返し、再び身体を洗い始めた蓮花。


――なんでって、それは……。


 先程聞かれたセルフィーナからの質問に答える為、蓮花は口を開いた。


「……、一緒にいた皆を、助けたかったからですよ」


 相変わらず無表情なままの蓮花は言う。


「皆に人殺しなんて、させられないでしょう」


 桶へお湯を汲んで身体に付いた泡を流すと、蓮花は立ち上がって湯船の中へと入っていく。


「ふーん、それだけ?」


 蓮花の対応を特に気にするでもなく、自身の身体を丁寧に洗い始めたセルフィーナは、そう呟くと蓮花に背を向けたまま聞いてきた。


――……。


 答えない蓮花に、セルフィーナはもう一度問う。


「あんた、何か隠してない?」


 そう言って泡だらけの身体を、蓮花がいる湯船の方へと向けたセルフィーナ。


「別に、それだけですけど……」


 何も、隠してなんか……ないです。

 そう言って蓮花は、セルフィーナから視線を逸らす。

 暫く無言な、セルフィーナからの視線を感じ続けていた蓮花。

 しかし、ふと表情を変えたセルフィーナは「そっか。」と言って、身体の向きを戻した為、蓮花はその視線から逃れる事が出来た。


「いやー、あんたが何か隠しているんじゃないかと、ずっと気になっていたんだよねー」


 再び自身の手で、肌を守るように優しく洗い始めたセルフィーナ。


「ほら、一応私はあんたの教育係じゃん? 何かあった時に『知りませんでした。』じゃ、示しが付かないでしょ」


 だからあんたが何を思っているのか、把握しておかないとなーと思って。

 そう話す、セルフィーナの背中を見つめる蓮花。

 蓮花の視線には気が付いていないのか、セルフィーナは優しい声で言葉を続ける。


「一応私にも、抱えているものがあるから、此処をクビになるとまずいのよ」


 故郷の為に、頑張らなくちゃね。

 蓮花に語り掛けているというよりは、自分自身に言い聞かせている様子のセルフィーナ。

 すると、身体を洗い終えたのか、桶に水を張ったセルフィーナが最後に水をかぶってから、再び蓮花へ身体を向ける。


「でも、あんたがそう言うなら、私はあんたを信じるわ」


 これでもあんたの事、妹みたいに思っているのよ~。

 そう言って蓮花に近付き、頭を優しく撫でるセルフィーナ。


「きっとこんな稼業だから、つらい事がたくさんあると思うわ。でもそんな時は、遠慮しないで私を頼ってね」


 最後に蓮花のおでこへキスをしたセルフィーナは、立ち上がって伸びをする。


「さてと、私は一足先に出るわね」


 そう言うとセルフィーナは、浴室から出て行こうとする。


「湯船に、入らないんですか?」


 不意打ちで貰った軽めのキスにややびっくりした蓮花。

 おでこを押さえながら、セルフィーナを引き止めた。


「ああ、私熱い所が駄目なのよ」


 そう言って振り向いたセルフィーナは、笑顔を見せる。


「私、肌がこんな色でしょー? あまり熱い所にいると、身体の中にいる水たちが沸騰しちゃって、破裂しちゃうの」


 人間は身体の中に血が流れているのと一緒で、私の種族は身体の中を水が流れているのよ。

 そう説明したセルフィーナ。


「だから破裂しないように、私が熱いと感じるものは、なるべく触れないようにしているの」


 水風呂だったら、喜んで入るんだけどね~。

 そう言って笑ったセルフィーナ。


――そっか、だからセルフィーナさんは、さっきからずっと水しか浴びていなかったのか。


 セルフィーナの事を少し理解した蓮花。


――でも、このお湯でもセルフィーナさんにとっては熱いのかな?


 春夏秋冬の下で育ってきた蓮花にとっては、暑いと感じる気温には慣れているし、この浴槽の温度も熱いとは全く思わない。

 この世界に連れて来られてから、かれこれ二週間は経過し、段々と此処での生活にも慣れてきた蓮花。

 しかし、何気ないこの生活の時にふと自分は、知らない世界へ連れ去られて来たのだと思い知らされる。

 浴室から出て行ったセルフィーナの背中を眺めながら、蓮花は一人、自分の立場を考えた。




・・・・・・




「あらやだ、破けちゃったー」


 どこかに引っ掛けたのか、袖が少し破けてしまっているセルフィーナ。


「新しい衣、買いに行かなくちゃダメかなこりゃ」


 そう言ってセルフィーナは、破けた部分を申し訳なさそうにして撫でた。


「そう言えば、セルフィーナさんが着ている洋服って、此処じゃあまり見ないですよね」


 何処で買っているんですか?

 蓮花はそう言って、隣で歩いているセルフィーナに聞いてみた。


――この星の人が着ている洋服にも、だいぶ見慣れてきたけど……。それでもセルフィーナさんが着ている衣は、この街でも珍しいタイプの服だよな。


 セルフィーナの肌へ合わせているかのような、透き通っているみたいに綺麗な淡い色。

 とてもではないが、ファイターという職業には似つかわしくないその衣は、地球で普段見慣れていた、蓮花を含む女子が大好きなお洒落とはまた違う。

 その見慣れない衣を何処で手に入れているのかが、蓮花は純粋に気になった。


「ああこれ? この衣は、私の故郷の近くで、作っているのよー」


 綺麗でしょ?

 そう言ってくるりと回ったセルフィーナ。


「私の故郷にある、深い谷の底でしか採る事の出来ない特別な綿の繊維を使って、丁寧に織っているのよ」


 光に当たると、きらきらと反射しているような輝きを見せる衣。


「私は、訳あって此処でファイターをやっているけど、今でも故郷の事を大切にしているの」


 だからこの衣を着る事で、私は故郷を背負っているんだと、気を引き締められるのよ。

 なんて答えたセルフィーナの顔は、どこか少し悲しく感じた蓮花。

 曖昧な反応を見せた蓮花を余所に「でも次の休暇まで、まだ当分先だからなー。」なんてぼやいているセルフィーナ。


「支配人に言って、調整してもらおうかしら」


 そう言うとセルフィーナは、身体の向きを変える。


「ちょっと私、今から支配人の所に行ってくるわ」


 思い立つと、すぐに行動を取ろうとするセルフィーナ。


「あんたはこの後どうする? 一応、今日はもう訓練の予定はないけど」


 なんて言って、セルフィーナは蓮花の事を気に掛ける。

 誰かを優劣付けるでもなく、後輩だろうと皆対等に接してくれるセルフィーナ。

 この気さくな、どこまでも自分のペースを崩さないで行動出来るセルフィーナのような人が、蓮花は大好きだ。


「私はこの後、ちょっと行きたい場所があるので」


 そう言うと、丁寧にお辞儀をした。


「あらそうなの? じゃあまた夜に、ね」


 蓮花の行く先を気にする様子もないセルフィーナは、そう言うと軽く跳ねて宙を浮く。


「外を歩く時は、十分に気を付けるのよ? 小道には入っちゃ駄目よ。それと、宿舎の門限までには、帰ってくるのよー!」


 なんて、母親みたいな小言を言いながら、セルフィーナは元来た道を飛んでいく。

 そんなセルフィーナを見送った蓮花。

 種族が違うという事は目で見て明らかなのだが、それでも他の人と変わらず接してくれるセルフィーナを、蓮花はある意味尊敬をしている。

 離れていくセルフィーナの背中へ「分かりました。」と小さく返事をすると、蓮花は闘技場内にある訓練場を通り過ぎて、街の中へと歩いていった。




 今日の夜の更新はございません。

 また、明日は作者が一日予定がある為、更新は夕方の一回となりますので、ご了承ください。

 一応夕方の4時に、予約投稿する予定です!

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