~浴室~
昨日更新した『~訓練~』ですが、作者が投稿前の最終手直しを忘れてしまった為に、大変読み辛い個所が多々あったかと思います。
きちんと手直しをし、改めて更新致しましたので、お暇な時にでも読み直して頂ければと思います。
読んで下さっている読者の皆様には、二度手間となってしまい、大変申し訳ありません。
文は変わっていますが、内容を変えた訳ではないので、今後ともよろしくお願い致します。
「しっかし、あんたは何でまた、自らファイターに志願した訳?」
蓮花の隣で桶に汲んだ水をかぶりながら、セルフィーナは蓮花に聞いた。
「別に、覚醒したあんただったら、わざわざこんな所に雇われなくても、十分に生きていけるでしょう?」
周りが全て石で囲まれている、地下の浴室。
ろうそくの火がある為そこまで暗くはないのだが、その密閉されている空間が、少しばかり居心地が悪い。
身体を洗っている蓮花の方を見て「あらあんた、肌綺麗ね。」なんて言いながら、後ろから蓮花に抱き付いたセルフィーナ。
「ちょっ……、止めて下さい」
悪意がないセルフィーナを押し返し、再び身体を洗い始めた蓮花。
――なんでって、それは……。
先程聞かれたセルフィーナからの質問に答える為、蓮花は口を開いた。
「……、一緒にいた皆を、助けたかったからですよ」
相変わらず無表情なままの蓮花は言う。
「皆に人殺しなんて、させられないでしょう」
桶へお湯を汲んで身体に付いた泡を流すと、蓮花は立ち上がって湯船の中へと入っていく。
「ふーん、それだけ?」
蓮花の対応を特に気にするでもなく、自身の身体を丁寧に洗い始めたセルフィーナは、そう呟くと蓮花に背を向けたまま聞いてきた。
――……。
答えない蓮花に、セルフィーナはもう一度問う。
「あんた、何か隠してない?」
そう言って泡だらけの身体を、蓮花がいる湯船の方へと向けたセルフィーナ。
「別に、それだけですけど……」
何も、隠してなんか……ないです。
そう言って蓮花は、セルフィーナから視線を逸らす。
暫く無言な、セルフィーナからの視線を感じ続けていた蓮花。
しかし、ふと表情を変えたセルフィーナは「そっか。」と言って、身体の向きを戻した為、蓮花はその視線から逃れる事が出来た。
「いやー、あんたが何か隠しているんじゃないかと、ずっと気になっていたんだよねー」
再び自身の手で、肌を守るように優しく洗い始めたセルフィーナ。
「ほら、一応私はあんたの教育係じゃん? 何かあった時に『知りませんでした。』じゃ、示しが付かないでしょ」
だからあんたが何を思っているのか、把握しておかないとなーと思って。
そう話す、セルフィーナの背中を見つめる蓮花。
蓮花の視線には気が付いていないのか、セルフィーナは優しい声で言葉を続ける。
「一応私にも、抱えているものがあるから、此処をクビになるとまずいのよ」
故郷の為に、頑張らなくちゃね。
蓮花に語り掛けているというよりは、自分自身に言い聞かせている様子のセルフィーナ。
すると、身体を洗い終えたのか、桶に水を張ったセルフィーナが最後に水をかぶってから、再び蓮花へ身体を向ける。
「でも、あんたがそう言うなら、私はあんたを信じるわ」
これでもあんたの事、妹みたいに思っているのよ~。
そう言って蓮花に近付き、頭を優しく撫でるセルフィーナ。
「きっとこんな稼業だから、つらい事がたくさんあると思うわ。でもそんな時は、遠慮しないで私を頼ってね」
最後に蓮花のおでこへキスをしたセルフィーナは、立ち上がって伸びをする。
「さてと、私は一足先に出るわね」
そう言うとセルフィーナは、浴室から出て行こうとする。
「湯船に、入らないんですか?」
不意打ちで貰った軽めのキスにややびっくりした蓮花。
おでこを押さえながら、セルフィーナを引き止めた。
「ああ、私熱い所が駄目なのよ」
そう言って振り向いたセルフィーナは、笑顔を見せる。
「私、肌がこんな色でしょー? あまり熱い所にいると、身体の中にいる水たちが沸騰しちゃって、破裂しちゃうの」
人間は身体の中に血が流れているのと一緒で、私の種族は身体の中を水が流れているのよ。
そう説明したセルフィーナ。
「だから破裂しないように、私が熱いと感じるものは、なるべく触れないようにしているの」
水風呂だったら、喜んで入るんだけどね~。
そう言って笑ったセルフィーナ。
――そっか、だからセルフィーナさんは、さっきからずっと水しか浴びていなかったのか。
セルフィーナの事を少し理解した蓮花。
――でも、このお湯でもセルフィーナさんにとっては熱いのかな?
春夏秋冬の下で育ってきた蓮花にとっては、暑いと感じる気温には慣れているし、この浴槽の温度も熱いとは全く思わない。
この世界に連れて来られてから、かれこれ二週間は経過し、段々と此処での生活にも慣れてきた蓮花。
しかし、何気ないこの生活の時にふと自分は、知らない世界へ連れ去られて来たのだと思い知らされる。
浴室から出て行ったセルフィーナの背中を眺めながら、蓮花は一人、自分の立場を考えた。
・・・・・・
「あらやだ、破けちゃったー」
どこかに引っ掛けたのか、袖が少し破けてしまっているセルフィーナ。
「新しい衣、買いに行かなくちゃダメかなこりゃ」
そう言ってセルフィーナは、破けた部分を申し訳なさそうにして撫でた。
「そう言えば、セルフィーナさんが着ている洋服って、此処じゃあまり見ないですよね」
何処で買っているんですか?
蓮花はそう言って、隣で歩いているセルフィーナに聞いてみた。
――この星の人が着ている洋服にも、だいぶ見慣れてきたけど……。それでもセルフィーナさんが着ている衣は、この街でも珍しいタイプの服だよな。
セルフィーナの肌へ合わせているかのような、透き通っているみたいに綺麗な淡い色。
とてもではないが、ファイターという職業には似つかわしくないその衣は、地球で普段見慣れていた、蓮花を含む女子が大好きなお洒落とはまた違う。
その見慣れない衣を何処で手に入れているのかが、蓮花は純粋に気になった。
「ああこれ? この衣は、私の故郷の近くで、作っているのよー」
綺麗でしょ?
そう言ってくるりと回ったセルフィーナ。
「私の故郷にある、深い谷の底でしか採る事の出来ない特別な綿の繊維を使って、丁寧に織っているのよ」
光に当たると、きらきらと反射しているような輝きを見せる衣。
「私は、訳あって此処でファイターをやっているけど、今でも故郷の事を大切にしているの」
だからこの衣を着る事で、私は故郷を背負っているんだと、気を引き締められるのよ。
なんて答えたセルフィーナの顔は、どこか少し悲しく感じた蓮花。
曖昧な反応を見せた蓮花を余所に「でも次の休暇まで、まだ当分先だからなー。」なんてぼやいているセルフィーナ。
「支配人に言って、調整してもらおうかしら」
そう言うとセルフィーナは、身体の向きを変える。
「ちょっと私、今から支配人の所に行ってくるわ」
思い立つと、すぐに行動を取ろうとするセルフィーナ。
「あんたはこの後どうする? 一応、今日はもう訓練の予定はないけど」
なんて言って、セルフィーナは蓮花の事を気に掛ける。
誰かを優劣付けるでもなく、後輩だろうと皆対等に接してくれるセルフィーナ。
この気さくな、どこまでも自分のペースを崩さないで行動出来るセルフィーナのような人が、蓮花は大好きだ。
「私はこの後、ちょっと行きたい場所があるので」
そう言うと、丁寧にお辞儀をした。
「あらそうなの? じゃあまた夜に、ね」
蓮花の行く先を気にする様子もないセルフィーナは、そう言うと軽く跳ねて宙を浮く。
「外を歩く時は、十分に気を付けるのよ? 小道には入っちゃ駄目よ。それと、宿舎の門限までには、帰ってくるのよー!」
なんて、母親みたいな小言を言いながら、セルフィーナは元来た道を飛んでいく。
そんなセルフィーナを見送った蓮花。
種族が違うという事は目で見て明らかなのだが、それでも他の人と変わらず接してくれるセルフィーナを、蓮花はある意味尊敬をしている。
離れていくセルフィーナの背中へ「分かりました。」と小さく返事をすると、蓮花は闘技場内にある訓練場を通り過ぎて、街の中へと歩いていった。
今日の夜の更新はございません。
また、明日は作者が一日予定がある為、更新は夕方の一回となりますので、ご了承ください。
一応夕方の4時に、予約投稿する予定です!




