~決断~
「いや~、実にお見事でした!」
傷の手当をしてもらっている蓮花たちの前に、そう言ってある長身の男が拍手をしながら現れた。
「素晴らしい返り討ちでしたね!」
先程いた闘技場の中から出て、すぐ近くの建物の中にいる蓮花たち。
長身の男は真っ直ぐ蓮花の前まで来ると、華麗なお辞儀を披露する。
「ワタクシはこの闘技場を運営しております、支配人のクラクと申します」
自己紹介を済ませると、当たり前のように握手を求める、クラク・ラスティ。
戸惑いながらもこの聞き覚えがある声に、違和感を持った蓮花。
不思議な顔をしていると、それを悟ったかのようにクラクは言った。
「ああ! 先程の闘いで、実況をしていたのはワタクシです」
その言葉に納得していると、待ちきれないとでも言うように蓮花の手を取ったクラク。
「しかし、ただ返り討ちにするだけでも大変ですのに、まさかあそこで覚醒して、ウェキナ―になってしまうとは!」
いやはや、本当にあなたは素晴らしい!
蓮花の手を取ってぶんぶんと振りながら、そう褒め称えるクラク。
――……ウェキナ―って、なに……。
褒められている理由は分かりたくはないが、なんとなく察知した蓮花。
聞き覚えのない単語に戸惑っていると、反応が鈍い蓮花に気が付いたクラクが、仕切り直すかのように手を離して説明を始めた。
「失礼致しました。いやー、ウェキナ―に覚醒するところを見るのは、ワタクシも初めてでしたもので」
そう前置きをしてから、話し始めたクラク。
「まずウェキナ―というのは、この星に連れて来られた地球人が、何らかの形で魔術を使えるようになった人の事です」
あなたも先程、覚醒して魔術を使いましたでしょう?
蓮花の疑問に答えるかのように、説明したクラク。
「あっ因みに、元々この星の住人で魔術を操れる方々の事は、リヴァナーと呼ばれておりますので、覚えておくと良いですよ」
なんて付け加えたクラクは本題に入る為、笑顔を張り付けたまま顔を引き締めた。
「連れて来られた地球人は、この闘技場で雇っているファイター達と闘い、無事に勝利すると、この星で生きていける権利を与えられるのです」
言わばこの闘技場は、地球人たちが生きていけるかどうかの、通り門ですね。
まるで世間話でもしているかのように淡々と話すクラク。
その様子は、自分の話している事がなんでもないとでも言っているかのよう。
「まあそうは言っても、ただ闘技場を盛り上げる為に我々がある装置を使って、特定の地球人を連れてきて、催しているだけなんですけどね」
やはり殺し合いというのは、盛り上がりますからね。
そう、当たり前のように話すクラク。
もはやそこに人情など微塵も感じられない蓮花は、言葉を無くしてしまったかのように口をぽかんとしてしまったが、代わりに敦が問いただしてくれた。
「つまり俺たちは、その闘技場を盛り上げる為だけに連れて来られ、こんな思いをさせられたと?」
口を開いた敦に視線を向けたクラクは、笑顔のまま答える。
「ええ、そうですが?」
それが何か?
そう言いたげなクラクに、抑えていたのだろう今までの怒りを、怒鳴ってぶつけた敦。
「ふざけてんじゃねーぞ! お蔭でどんな思いをしたと思っているんだ!」
クラクの胸倉を掴んで怒る敦。
すぐさま近くに控えていた男が敦を抑え込んだ為、大事にはならなかった。
しかしその怒鳴り声で、これまでの事がフラッシュバックしたかのように蘇った蓮花。
皆も同じなようで、宵歌なんかは涙を流している。
この、質素だが落ち着きのある空間が、今までの事をお遊びだとでも言っているかのようで、より一層蓮花たちの思いは熱くなる。
しかし状況を理解していないかのように、クラクは掴まれた胸倉を直しながら答えた。
「何を言っているんです? 貴方達地球人は、ワタクシたちこの星の住人にとって、ただの家畜と変わらないんですよ」
そう言って、蔑ました目を取り押さえられている敦に向けたクラク。
「自分たちとは違う生き物で、大して強くもないのに変に粋がっているお前たちなんか、我々と同等な価値などないでしょう」
敦から視線を逸らしたクラクは、部屋全体に向き直ると、両手を広げてその場にいる皆を脅す。
「文明の発達に生かされていただけで、自身がすごい訳でもないくせに、この星で真っ当に生きていけるなんて、思わないで下さいね」
そう言ってのけたクラクは、気が付いたように蓮花に向き直る。
「ああ! 貴方様は別ですよ! なんせ我が闘技場内で覚醒し、ウェキナ―となって頂きましたからね! お蔭で今回の催しは大盛況! 実に嬉しい限りです」
今後は堂々と、この星を渡り歩いていけますよ!
まるで全身で表すかのように、大げさに蓮花を持ち上げたクラク。
ひとしきり盛り上がると、クラクは落ち着いて再び話し出した。
「この星の住人は皆、自身を誇りに思っております」
貴方達、地球人と違ってね。
そう言うと、一呼吸置いてからクラクは語り掛ける。
「ですからワタクシ達は、貴方達地球人が大っ嫌いなのです。大して頭も良くないくせに、こちらの文明が遅れているというだけで、まるで自分が勝っているかのような振る舞い」
蓮花たち全員に語り掛けながら、部屋をゆっくりと歩き回っているクラク。
するとピタリと足を止め、クラクは全体に向き直った。
「だから、この闘技場が生まれたのです! 憎き地球人を見世物にする為の、この闘技場が!」
素晴らしいでしょう!
そう言いたいのか、クラクは満面の笑みを見せた。
「まあ、見世物をする為とはいえ、貴方達を何の承諾も無しにこの星へ連れてきたのは我々ですので、多少の責任はあります」
クラクは一歩前へと踏み出す。
「ですので、やる気があるなら雇いましょう! この闘技場で、地球人を迎え撃つ『ファイター』として!」
再び室内を歩き出したクラクは言う。
「この星で生きていく限り、貴方達は地球人として生きていくのならば、どこへ行っても一生『廃人』と呼ばれ、蔑まされていくでしょう」
あっ、因みに『廃人』とは地球人を蔑ました言い方ですので。
なんて付け加えたクラク。
「最も、地球人である事を隠してこの星を生きてゆく、という道もありますが、それはそれは険しい道だと思いますよ」
知識はあるのに、身分は不明……そんな怪しい奴に優しくするほど、この星の住人は甘くはありません。
そう言って、クラクは首を横に振る。
「ですので『ファイター』として此処に雇われた方が、賢い選択と言えるでしょう」
多少怖がられはしますけど、きちんと雇われているので、蔑まされる事はございませんのでね。
なんて言って、諦めたように笑ったクラク。
ひとしきり説明を終えたのか、クラクは蓮花たち全員に向けて、決断をするように声色を上げる。
「さあ、どうしますか? 『ファイター』として雇われ生きていくのか。はたまた『廃人』と呼ばれて、一生蔑まされるか」
選択するのは貴方です、どうぞお選び下さい!
そう高らかに話すクラクを前にし、黙りこくってしまう皆。
――そんな事を急に言われても、決められる訳ないじゃん……。
なんて思いながら蓮花は一人、ある感触が残っている自分の掌を、ぼうっと見つめた。
いよいよ明日更新する分で、あらすじに書いてある部分まで追い付きます!




