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生きる為に。  作者: 井吹 雫
四章
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~覚醒~


「……貴様、今何をした」


 そう言って身体を向き直した鎧塚。


「なにって、あんたを撃っただけだけど? つーかおっさん、弾当たったよな? 何で倒れない訳?」


 なんて悪びれる様子もなく、どこまでも外道なカクー。


――こいつ、本当に糞だな。


 蓮花は自分の今の立場も忘れて、そう思わずにはいられない。

 すると、撃たれた筈の鎧塚が地面を蹴ったかと思うと、一気にカクーの目の前までやって来て、その首元を捉えた。

 大男に首元を掴まれ、持ち上げられるカクー。


「貴様のしている事は、この闘技場の意に反している」


 足が地面から離れてしまい、もがくカクーが反論する。


「っはっ! こんなただの殺し合いに、ルールも糞もあるのかよっ!」


 明らかに不利な状況なのはカクーな筈だが、それでもカクーは抵抗する事を止めない。


「やっと俺は、自由を手に入れたんだよっ! くそったれな会社からも、何も知らないで文句しか言わないっ、家族からもっっ!!!!」


 そう言って、更に暴れたカクー。

 すると、苦しそうにもがくカクーの深く被っていたフードが外れ、その顔が露わになった。


――……えっ! お兄、ちゃんっ?


 フードで今まで、その顔を確認する事が出来なかったカクー。

 なんとその姿は、蓮花の三つ上の実の兄だった。

 仕事でほとんど家に帰ってこない兄。

 たまに帰ってきても殆ど顔を合わせていなかった為、非情理なカクーが実の兄だと気付けなかった蓮花。


――でも、なんでお兄ちゃんがっ!


 突然の事にパニックになる蓮花を余所に、尚も首を絞められてもがくカクーは、苦しみながらも言葉を続ける。


「入った会社はとんでもないブラックだしっ、たまに家に帰れても、家族は事情も知らないで文句ばっかりっ! 残業なんて誰もがしているんだから、そんな事で弱音を吐いているんじゃない。お前だけが疲れている訳じゃないなんて言いやがってよ!」


 本当、糞みたいな人生だったんだよ!

 そう、悲痛な声で叫ぶカクー。


「そんな、辞めたくなる程の人生だった所に、やっっっっと! 手にする事が出来たんだよ!!」



『自由をなっ!!!!』



 そう叫んだカクーの身体が投げ飛ばされる。


「お兄ちゃんっ!!!!」


 飛ばされ倒れ込んだカクーに、駆け寄ろうとする蓮花。

 しかし、目が合って蓮花に何かを呟やいたカクーの顔が、綺麗な音を立てるかのように首から下と切り裂かれた。

 蓮花の目の前で、宙を舞ったカクーの首。

 時が止まったかのようにカクーの首は飛んで、そして地面で弾んだ。

 頭を失ったカクーの身体が、ゆっくりと倒れ込む。

 その後ろには、大鎌を降り下ろしていた鎧塚。


「馬鹿な男だ」


 僅かに憐れんだ鎧塚は、そう呟きながら何事もなかったかのように体制を整えると、大鎌に付いた血を振り払って歩いていく。

 身体が鉛のように動けなかった蓮花。

 そうっと足元に目をやると、転がってきていたカクーの首が、蓮花をじっと見つめていた。


「っっっっいやああああああああーーーー!!!!」


 会場内に響く叫び声。

 膝をついて、実の兄の頭部に触れようとする蓮花。

 しかし、あまりにも無残な姿が恐怖をよりひき立て、寸でのところで触る事が出来ない。

 視線を上げると、入ってきた時より明らかに荒れ果てている場内と、無造作にあちこち転がる死体の数々。

 後ろを振り向くと、既にボロボロな仲間たち。

 再び視線をカクーに戻した蓮花は、もう考える力など残っていなかった。

 この現状にそぐわない歓声の中、カクーの次に待機していた眼鏡の男性が、手にナイフを持ってゾーンに現れる。


「調子に乗るから、こうなるんだよ」


 そう呟いて歩いてきた眼鏡の男が、カクーの顔を蹴り飛ばし、蓮花に近付く。


「悪いな。俺も、生きていかなきゃいけねーんだよ」


 膝を付いている蓮花に向かって男は言うと、蓮花を無理やり立ち上がらせ、ゆっくりとナイフを振り上げる。

 もはや心が壊れた蓮花。

 意図せず目から涙が流れ、雫が蓮花の手を濡らす。

 その僅かな感触で、堪え切れなくなった感情が、ついに叫び声となって溢れ出した蓮花。


「……ぁぁぁぁっ、ぁぁぁぁああああああああーーーーーー!!!!」


 その途端、蓮花の周りを炎が纏う。


「っ! なんだっ!」


 慌てて蓮花から離れた眼鏡の男。

 なおも大きくなってゆく炎が、叫び声と共に渦となって蓮花を包み込んでいく。

 会場がどよめき、皆が異様な光景の中心にいる蓮花を見つめた。


「おや、これは……」


 この光景の意味を察知したのか、素となったアナウンスの声の主がそう呟いた時、蓮花を包んでいた炎が光を放ち弾け飛ぶ。


「来ました、ね」


 アナウンスの声と共に姿を再び表した蓮花。

 その目は赤く染まり、周りには炎が燃え盛って蓮花を纏う。

 誰も蓮花に近付くことが出来ない状況で、再び声を上げた蓮花。

 その声と共に炎は男を捉え、真っ直ぐ燃えながら男を射抜く。

 うめき声をあげて、眼鏡の男が手に持っていたナイフを落とすと、すかさずそれを走って拾った蓮花。


「頼むっ! 止めてくれっ!」


 男がそう叫ぶもむなしく、蓮花は迷わず男を刺す。

 場内が静寂に包まれた中、ゆっくりとナイフを引き抜いた蓮花。

 そのまま会場を見回し、再び炎を纏った蓮花に場内が一気に盛り上がる。


「皆さん! 久々にやって来ましたよ! 地球人の返り討ち!」


 場を更に盛り上げるかのように、アナウンスが響き渡る。

 会場内が最高潮に盛り上がる中、最後に現れたヒールの女性。

 震えて小さく呟く彼女を捉えた蓮花は、ナイフを持って走り出す。

 まるで声など届いていない蓮花。

 そのまま助走を付けて舞い上がった蓮花は、叫び声を上げながら、彼女の身体を突き刺した。




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