~試練・3~(2)
「なんだよっ、あいつら……」
やっと絞り出せたのだろう。
震えるような声で、敦が言った。
しかし、誰もその声に反応出来る者はいない。
依然固まり続けているしか出来ないでいる蓮花たちを余所に、声の主は再びアナウンスを開始する。
「今回奮闘を見せて頂くのは、この方たちですね! まずは水の踊り子出身! 数々の水魔を操る女召喚士、ファイター『セルフィーナ』!」
アナウンスの紹介と共に、一歩前へと出てきた水色の肌をした女性。
狂喜とも言えるこの空間には似つかわしくない、透き通った淡い色の衣をまとっていたその女性が軽やかにお辞儀をすると、観客から黄色い声援が響き渡る。
「セルフィーナは今回、グリーンゾーンを担当して頂きます」
そうアナウンスで言われると、女性は響き渡るような声で返事をし、蓮花たちの左側である、グリーンゾーンの中へと入っていった。
「続きまして! 前回の開催で見事ファイターを破り! 自らこの大会に志願して出場となった若き銃士、初出場のファイター『カクー・ジムブッツ』!」
拍手と共に蓮花たちとなんら変わらない青年が、フードを深くかぶったまま一歩前に出てくる。
そして大きく拳を突き上げると、自信満々に会場を見回した。
「えー、カクー・ジムブッツには中心、レッドゾーンを担当してもらいます」
そう言われると、さほど強くもなさそうなその青年は、卑しい口元を見せながら蓮花たちがいるレッドゾーンと言われている、仕切りの中へと入ってきた。
「えー、なおカクーは個人ではなく、チームとしてのファイター登録をされていますので、もし彼がやられた場合は、後ろに控えている残りの二人が出てきます。そちらも楽しみにしていて下さい!」
アナウンスの補足が流れると、これまた蓮花たちとなんら変わりのない眼鏡の男と、ヒールを履いた女性が仕切りの近くまでやって来た。
「一発ブチかましてやるからよー! 覚悟しておけよ!」
蓮花たちが視線を戻すと、前に立ちはだかった青年は、見せつけるように拳銃を手に持って見せた。
「さあ、そして最後は皆さんお待ちかね! かつて会場内を大鎌で血に染め上げた事もある、伝説の戦士! 我らが闘技場の四天王ファイター『鎧塚』!」
最後の大男が閉じていた目をゆっくり開くと、背負っていた大鎌を勢い良く上から降り下ろし、地面に突き立てる。
一瞬の地響きの後、静まり返った観客からこれまでにない程の歓声が沸き起こった。
「いやー! 今日も絶好調ですね!」
では鎧塚は、ブルーゾーンをお願い致します!
アナウンスがそう言うと、大鎌を地面から引き抜いた大男は、観客等には目もくれずにブルーゾーンへと入っていった。
「さあ! それぞれのファイターが闘技エリアに入りました!」
高ぶるアナウンスと歓声の後ろで、カウントが始まる。
「今日は一体、どの様な激闘が繰り広げられるのでしょうか!」
カウントと共に、一層おぞましく響く地鳴り。
「地球人の皆さんは、どうぞ頑張って、ファイター達から逃げ延びて下さい! 出来るようでしたら、返り討ちにしても構わないですよ?」
出来るなら、ね。
感情が全くこもっていないアナウンスに、身体が中から破裂させられそうな感覚を覚えた蓮花。
――意味が分からない! 何っ! ナンナノッ……!!
本当はこれから、何が起ころうとしているのかを分かっている蓮花。
でも、分かりたくない。
理解したくない。
今まで生きてきた中に、こんな事はあり得ない。
自分自身が今まさに降りかかろうとしている惨劇を受け入れたくなくて、頭と体が拒否反応を示している蓮花。
周りにいる皆も、それぞれが硬直して最早まともな指示を出せる者は、誰もいない。
しかし無残にもカウントは止まる事無く、いつの間にか観客と共に最後の桁を刻んでいた。
「さあ、もう間もなくですよ~」
アナウンスの声が、カウントに紛れて聞こえる。
最後の数を刻むと同時に、大きな破裂音で会場内が沸き上がり、蓮花たちに受け入れたくない現実が始まってしまった事を知らせる。
「さあ! 思う存分、私達を楽しませて下さい!」
歓声をより一層盛り上げるかのようなアナウンスの声。
そんな声に反論出来る程、今の蓮花たちに余裕等は残っていなかった。




