~深夜~
昨日は一ページしか更新出来ず、すみません!汗
今日は夜に、もう一ページ更新したいと思います!
「なんか、あった?」
一人部屋から出て、先程走ってきた道の途中でうずくまって、ぼうっとしていた蓮花。
顔を上げると、そこには優しく笑う水野大樹がいた。
「此処に、一人でいたら危ないよ」
そう言って、蓮花の隣に座る水野大樹。
「……大丈夫ですよ、あっちの扉は、閉まっていますし」
目を逸らしながら蓮花はそう言って、皆がいる部屋とは反対方向の、元来た道の奥にある扉を指差す。
「まあ、そうだけど。それでももし、さっきの大蜘蛛みたいなものがまた出てきた時に、一人だったら危ないだろう?」
蓮花に向ける水野大樹の視線は、どこまでも優しい。
その優しさに再び涙腺が緩んだ蓮花は、気付かれないように声色を上げて話題を振った。
「皆さんは、今何をしているんですか?」
蓮花の問い掛けに、笑って答える水野大樹。
「ああ、皆ならもうとっくに寝たよ」
よほど疲れていたんだろうね。
そう微笑む水野大樹に、びっくりする蓮花。
――そっか。気が付かなかったけど、そんなに時間が経っていたのか。
思いの外時間が経っていた事に驚いた蓮花は、再び問う。
「水野さんは……寝ないんですか?」
依然、隣に座り続けていた水野大樹の顔を横目で覗き込んだ蓮花。
見るとやはり、水野大樹は笑っていた。
「うん……。俺は、目が冴えちゃって」
すると、続けてこんな事を聞く水野大樹。
「ちょっとさ、俺の話をしても良い?」
声にはならなかったが、目で反応を示した蓮花。
それを合図と捉えたのか、水野大樹は前を向いて話し出した。
「俺ね、実は七つ離れた、妹がいたんだ」
それはそれはお転婆な奴でねー、いつも兄妹喧嘩をしてたっけ。
と、笑って話す水野大樹。
「でも、死んじゃった」
その言葉に、びっくりする蓮花。
水野大樹の事を慌てて見ると、視線に気が付いてないのか宙を見つめて、再び「死んじゃったんだ。」と呟く水野大樹。
暫くの静寂の後、やっと蓮花の視線に気が付いたのか、水野大樹は蓮花と視線を合わせていつもの笑顔を見せる。
「俺が大学生になったばかり……だったかな、サークルで毎日が楽しくってさ」
再び明るい口調で話し始める水野大樹。
「そしたらある時、妹が言ったんだよ『お兄ちゃんばっかりずるい!』って」
何でもないとでもいう顔をして、水野大樹は続ける。
「当然だよな。今までそこそこ、妹とゲームをしてやったりと構ってやる時間があったのにさ。それが大学に行った瞬間、全く遊んでくれなくなったんだから」
そう言って水野大樹は、乾いた笑いをする。
「それがあまりにもしつこいから、つい軽はずみで『次の週末は、一緒に連れてってやるから。』って言っちゃってさー」
段々と声色も下がっていく水野大樹。
そのまま黙ってしまったので、蓮花は恐る恐る、小さな声で聞いてみた。
「それで……、連れて行って、あげたんですか?」
蓮花の問い掛けに、首を横に振る水野大樹。
「連れて行くわけないだろ? なんでサークルの集まりに、小六の子を連れて行かなくちゃいけないんだよ」
その場しのぎの口実だよ。
なんて笑いながら言った水野大樹。
しかし、その顔に笑顔はなかった。
「でもあいつは、本気にしてたんだよなー」
すっごく嬉しそうにしてさ、皆に配るお菓子なんかも用意しちゃってさ。
そう呟く水野大樹。
「だから、今更嘘だなんて言えなかった」
淡々と話し続ける水野大樹の話を、じっと黙って聞く蓮花。
水野大樹は、話す事を止めない。
「そのまま言えずに、とうとう当日になってしまって……」
言葉が詰まる水野大樹。
「しょうがないから、あいつが起きる前に、こっそり家を出たんだ」
声を絞り出すように、言葉を紡ぐ。
「黙って先に出ちゃえば、何とかなるだろう。言い訳は帰ってから、いくらでもすればいいや、って」
そこで完全に声が途絶えた水野大樹。
しかし、蓮花もまた、どう声を掛けるのが正解か分からない。
沈黙が続く二人。
すると水野大樹が、再び言葉を続け始めた。
「でもそしたら、親から連絡が入ったんだよね『あんた今何処にいるの!』って」
蓮花の反応なんか見たくはないかのように、一気に捲し立てて話し続ける水野大樹。
「あいつ、俺の後を追って、慌てて駅に向かって自転車で出て行ったんだと」
そしたらその途中でトラックに撥ねられて、それで死んじゃった。
そう言った水野大樹の顔は、もはや蓮花の知っている優しい水野大樹の顔ではなかった。
「俺のせいで、あいつは死んじゃったんだ」
俺が約束を守らなかったから、俺がきちんと説明しなかったから……。
どうする事も出来なくて、ただ隣で固まっているしか出来ない蓮花。
するとそんな蓮花を見て水野大樹が、いつものような、それでいて少し違う笑顔を見せる。
「だから、蓮花ちゃんが運ばれてきた時は、本当にびっくりしたよ」
そう言って再び話し出した水野大樹は、もういつもの、優しい水野大樹に戻っていた。
水野大樹と蓮花の話、もう一ページだけ続きます。




