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生きる為に。  作者: 井吹 雫
三章
17/175

~深夜~

 昨日は一ページしか更新出来ず、すみません!汗

 今日は夜に、もう一ページ更新したいと思います!


「なんか、あった?」


 一人部屋から出て、先程走ってきた道の途中でうずくまって、ぼうっとしていた蓮花。

 顔を上げると、そこには優しく笑う水野大樹がいた。


「此処に、一人でいたら危ないよ」


 そう言って、蓮花の隣に座る水野大樹。


「……大丈夫ですよ、あっちの扉は、閉まっていますし」


 目を逸らしながら蓮花はそう言って、皆がいる部屋とは反対方向の、元来た道の奥にある扉を指差す。


「まあ、そうだけど。それでももし、さっきの大蜘蛛みたいなものがまた出てきた時に、一人だったら危ないだろう?」


 蓮花に向ける水野大樹の視線は、どこまでも優しい。

 その優しさに再び涙腺が緩んだ蓮花は、気付かれないように声色を上げて話題を振った。


「皆さんは、今何をしているんですか?」


 蓮花の問い掛けに、笑って答える水野大樹。


「ああ、皆ならもうとっくに寝たよ」


 よほど疲れていたんだろうね。

 そう微笑む水野大樹に、びっくりする蓮花。


――そっか。気が付かなかったけど、そんなに時間が経っていたのか。


 思いの外時間が経っていた事に驚いた蓮花は、再び問う。


「水野さんは……寝ないんですか?」


 依然、隣に座り続けていた水野大樹の顔を横目で覗き込んだ蓮花。

 見るとやはり、水野大樹は笑っていた。


「うん……。俺は、目が冴えちゃって」


 すると、続けてこんな事を聞く水野大樹。


「ちょっとさ、俺の話をしても良い?」


 声にはならなかったが、目で反応を示した蓮花。

 それを合図と捉えたのか、水野大樹は前を向いて話し出した。


「俺ね、実は七つ離れた、妹がいたんだ」


 それはそれはお転婆な奴でねー、いつも兄妹喧嘩をしてたっけ。

 と、笑って話す水野大樹。


「でも、死んじゃった」


 その言葉に、びっくりする蓮花。

 水野大樹の事を慌てて見ると、視線に気が付いてないのか宙を見つめて、再び「死んじゃったんだ。」と呟く水野大樹。

 暫くの静寂の後、やっと蓮花の視線に気が付いたのか、水野大樹は蓮花と視線を合わせていつもの笑顔を見せる。


「俺が大学生になったばかり……だったかな、サークルで毎日が楽しくってさ」


 再び明るい口調で話し始める水野大樹。


「そしたらある時、妹が言ったんだよ『お兄ちゃんばっかりずるい!』って」


 何でもないとでもいう顔をして、水野大樹は続ける。


「当然だよな。今までそこそこ、妹とゲームをしてやったりと構ってやる時間があったのにさ。それが大学に行った瞬間、全く遊んでくれなくなったんだから」


 そう言って水野大樹は、乾いた笑いをする。


「それがあまりにもしつこいから、つい軽はずみで『次の週末は、一緒に連れてってやるから。』って言っちゃってさー」


 段々と声色も下がっていく水野大樹。

 そのまま黙ってしまったので、蓮花は恐る恐る、小さな声で聞いてみた。


「それで……、連れて行って、あげたんですか?」


 蓮花の問い掛けに、首を横に振る水野大樹。


「連れて行くわけないだろ? なんでサークルの集まりに、小六の子を連れて行かなくちゃいけないんだよ」


 その場しのぎの口実だよ。

 なんて笑いながら言った水野大樹。

 しかし、その顔に笑顔はなかった。


「でもあいつは、本気にしてたんだよなー」


 すっごく嬉しそうにしてさ、皆に配るお菓子なんかも用意しちゃってさ。

 そう呟く水野大樹。


「だから、今更嘘だなんて言えなかった」


 淡々と話し続ける水野大樹の話を、じっと黙って聞く蓮花。

 水野大樹は、話す事を止めない。


「そのまま言えずに、とうとう当日になってしまって……」


 言葉が詰まる水野大樹。


「しょうがないから、あいつが起きる前に、こっそり家を出たんだ」


 声を絞り出すように、言葉を紡ぐ。


「黙って先に出ちゃえば、何とかなるだろう。言い訳は帰ってから、いくらでもすればいいや、って」


 そこで完全に声が途絶えた水野大樹。

 しかし、蓮花もまた、どう声を掛けるのが正解か分からない。

 沈黙が続く二人。

 すると水野大樹が、再び言葉を続け始めた。


「でもそしたら、親から連絡が入ったんだよね『あんた今何処にいるの!』って」


 蓮花の反応なんか見たくはないかのように、一気に捲し立てて話し続ける水野大樹。


「あいつ、俺の後を追って、慌てて駅に向かって自転車で出て行ったんだと」


 そしたらその途中でトラックに撥ねられて、それで死んじゃった。

 そう言った水野大樹の顔は、もはや蓮花の知っている優しい水野大樹の顔ではなかった。


「俺のせいで、あいつは死んじゃったんだ」


 俺が約束を守らなかったから、俺がきちんと説明しなかったから……。

 どうする事も出来なくて、ただ隣で固まっているしか出来ない蓮花。

 するとそんな蓮花を見て水野大樹が、いつものような、それでいて少し違う笑顔を見せる。


「だから、蓮花ちゃんが運ばれてきた時は、本当にびっくりしたよ」


 そう言って再び話し出した水野大樹は、もういつもの、優しい水野大樹に戻っていた。




 水野大樹と蓮花の話、もう一ページだけ続きます。

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