不登校少年の話
なんで?どうして?なにがあったの?
なにがいけなかった?なにが嫌だった?どうすればよかった?
誰のせい?誰が悪い?誰がなにをした?
…強いて言えば俺のせいだよ
―――不登校少年の話
学校に行かなくなってどのくらいたっただろうか。
案外日々は簡単に進むもので、俺が学校に行かなくても日常は変わらず。誰もかれもが自分の日常の義務をこなしていってて。
ただ俺独りがその義務を放棄しているだけだった。
時計を見ると午後12時50分少し前。
学校ではもう4限目が終わろうとしている頃だろうか。
ベットから起き上がり気怠い思いでカーテンを開ける。
とてつもなくいい天気、いい空だ。そりゃあもうムカつくくらいに。
「…はぁ」
ため息をつきながら目を細め空を見上げる。
太陽がひどくまぶしい。眩しくない太陽なんてないとは思うが。
ついでに少し窓も開ける。最近空気の入れ替えなんて全然してなかった。
外の生ぬるい空気に触れ、
自分が本当にダメ人間になっていってると思い知らされる。
学校に行かないどころか外にすら出ていなかったここ最近。
自分の肌は生ぬるい外の空気を忘れていたようで、ぞわぞわとした嫌な感覚が身体中を駆け巡った。
すぐさま窓を閉める。カーテンはなんとなくあけておくことにした。
再びベットに戻り身体を投げ出す。
ちらっと横目でみた机の上には、母からのお怒りメモが張り付いていた。
『いい加減にしなさい、高校だっていくら払ってると思ってるの。なにが嫌なのか知らないけど、はやく学校に行ってくれないと母さん困るわ。アナタが今こうしてダラダラしてる間にもみんな頑張って自分の義務を果たしているのよ。おいて行かれて困るのはアナタなの。もう一度ちゃんと考えなさい。家にいる時間はとてつもなく無駄よ』
それ以上にもなにか書いてあるが、読む気にすらならない。
学校に行かない理由を、
何度も何度も聞かれた。
クラスメイト、担任、両親。
けれどみんな同じ事ばかり聞いてきて、俺はなにも答えることができなかった。
そもそも、なぜこうなったのか自分でもわからないのだ。
なぜ学校に行かないのか、わからなかった。
『イジメ?』
いいや、そんなもんは生まれてこの方一度もうけたことがない。
『交友関係?』
友人・先輩・後輩関係はすべて良好だ。嫌いな奴なんざ俺にはいないしな。
『勉強?』
自慢じゃないが俺は勉強に困ったことはない。勉強しなくても成績上位には普通に入るんでね。
『精神病?』
言ってる意味がわからないな。俺が鬱に見えるとでも?
『先生関係?』
もともと先生とは必要以上に関わらない性質なんでね。顔と名前くらいしかしらないよ。
『色恋沙汰?』
悲しいことに俺は好きな人すらできたことがない。
『めんどくさい?』
学校でそんなこと言ってたら生きていけないだろう。
『行く意味がないと思ってる?』
そんなことない。将来の就職のために必要な土台だとおもう。
『厨二病発症?』
しね。
わからない。
学校に行かない理由が、俺にはない。
けれどもきっと明日も明後日もその後も。
俺はたぶん学校に行くことはないだろう。
辞めようとも思っている。
ここまで金を払ってきた両親には申し訳ないが、やめたい。
理由は、ない。
なにもない。見事に。
理由が見つからない。
ただ、行きたくなかった。
窓を見る。
暖かな光が差し込み、非常にいい感じな雰囲気だ。
あまりにも、俺とは不釣り合いだ。
無駄なんだろうか、この時間は。
俺が今ただ太陽光を眺めているこの時間はいらないものなんだろうか。
全てが無駄なんだろうか。
母のメモに書いてあった。
とてつもなく無駄な時間だと。
いつか先生たちも言っていた。
勉強せずに遊んでばかりいる時間は無駄だと。
じゃあ、いったい何をしている時間が無駄じゃないのだろう?
勉強?仕事?義務?
それをずっとしていたら自分の人生は何一つ無駄じゃないのだろうか?
無駄な時間など1秒もなく「素晴らしい人生」を送れるだろうか?
そんなことを言ってしまえば息抜き・食事・休養の時間も無駄だろうか?
すべていらないだろうか?
それが「素晴らしい人生」なのだろうか?
一つの時間を無駄な時間と言ってしまえば、
俺はすべてが無駄な時間になるような気がしてしょうがないのだ。
生きていることが、無駄に思えてしまうのだ。
どうせ俺らはみんないなくなるのに。
消えるのに。
なんで無駄か無駄じゃないかと考えるのだろう?
全て必要だとなぜ思えないのだろう?
みんなが口をそろえて言う。
『無駄な時間のないように、充実した素晴らしい人生を』
わからなくなる
無駄な時間?
なにが?
どうして無駄なんだ?
どれが無駄じゃないんだ?
じゃあ俺がこうして生きているのは無駄じゃないのか?
わからなく、なるんだ
遠くで、学校のチャイムらしきものが聞こえた気がした。
はっとして時計を見る。50分を回っていた。
4限目の授業が終わっただろう。
『無駄な時間のないように、充実した素晴らしい人生を』
そういった人達はどんな時間を過ごしているのだろう。
どんな『素晴らしい人生』を生きているのだろう。
俺とは何か違う時間なのだろうか。
クラスメイト達はどうだろう。
先生たちは?
今どんな時間を生きてるだろうか。
俺だけが、
無駄な時間に生きているのだろうか。
わからない、わからないんだ。
俺の人生は無駄なのだろうか。
End




