加瀬良太
スマフォを操作しているうちに気づいたことがいくつかあった。
登録されているアドレス帳には学年クラスばらばらの約四〇名の名前が登録されているということ。良太には部活動などの先輩後輩の付き合いがからっきし少ない所為もあり、それが同じ高校の生徒だということまでははっきりしない。だが、どことなくそう思わせたのは親友も超え、家族同然の付き合いのある笹倉直の名前があると同時、クラスメイトの名前もいくつかあったことが大きい。
それと同時、安堵すると共に直の名前を見つけて電話をかけてみたが着信音すら鳴ることなく通話をすることができない。
他に分かったことは、それ以外の機能はないということ。そして、そのスマフォが自分のものではないということだった。
とりあえず、スマフォを制服のポケットにしまうと、良太はもう一度窓の外を覗き込んだ。もしかすると、自分と同じような行動をとっている人がいると思ったからだ。
しかし、近隣の家の窓から顔を覗かせている影はなかった。
「こっちは夢じゃ……ないんだよな」
独り言をつぶやき、知らない家の知らない部屋から出て外へと足を進めた。その途中、家主がいないか不法侵入していることに戸惑いながらも、適当な挨拶を一人していたが、返事はなく誰かがいそうな気配はなかった。
そこまでは犯罪の気配におびえたまでの行動だったが、そこまで行動に移して、闇雲に動きにはあまりに理由がなくなり、次に行動が移せない。仕方なく良太は知る町並みの通路を自宅に向けて進むことに決めた。もしかすると、誰かと出会えるかもしれないからだ。
と、再びスマフォが震える。
【表かくれんぼまであと一〇秒】
「今度は表?」
カウントダウンは進みゼロになる。
【制限時間六〇秒、ゲームスタート】
よくわからない出来事だけが勝手に進み、どこからか地響きが聞こえる。その音も遠い距離から聞こえるもので自宅とは制反対から聞こえるようだった。だから、良太は気にもかけず、再び始まったカウントダウンを見つめながら自宅へと進み始めた。
帰宅まで約二〇分、普段なら自転車通学の道のりを遠く感じる。それはあまりの人の気配のなさに強くなった。次第にそれが恐怖に繋がりそうで五万人ほどの市の中央通りを選んだはずだった。
昼間ならそこそこの交通量があり、歩行者も昼間なら気にしなくても見かける。しかし、中央通に差し掛かっても車ひとつ見かけることはない。
「ええっ、嘘だろ」
理解できない状況に独り言を止めることができない。
「……どうしよう」
そうは言っても目的を見つけられないなら、当初の行動をとるしかない。スマフォのカウントダウンもすでに半分を切っている。
意味のないカウントダウンを見るのをやめ前を向いた時、この状況になって初めて人影が現れた。
良太の同じように高校指定の制服を着ている女の子だ。おそらくは下級生、良太と同学年なら名前まで知らなくても見覚えぐらいはあるはずだとそう思った。
そして、脳裏に「だからなに?」と脳裏を掠める。
初めて人がいるからなんだ? 声をかける? なんて? この状況を知っているか尋ねる? きっと自分と同じように理解しているはずがない。なにより相手は女の子、一応は男の自分が声をかけると怖がらせるかも、などと自分に思いつくだけの言い訳が次から次へと思いつく。
人見知り、あがり症、テンパり癖。
それが良太の行動を全否定した。
「あ、」
相手の女の子は良太の姿には気づかず、いつの間にかいなくなっていた。
後悔がないといったら嘘になる。だが、行動してそれ以上の後悔が生まれる方が良太にとっては怖かった。せめて今の人影が顔見知りだったらと脳裏を掠め、それが情けないからこそ、言葉で浮かび上がる前に思考を止めた。
「とりあえず、最優先事項は帰ることだな」
自分に蓋をして、家に帰るまでの間良太は人影を三回気づかないふりをした。