テンプレ部分に「〃」を置いて展開をダイジェストにしても読めると思う、という人にはわかるだろう話
1-A
2-B
3-A
4-D
……
1-C
2-C
3-E
4-C
4-E
……
1-B
2-A
2-B
2-E
4-B
2-D
2-A
2-B
4-D
……
「これ、なんですか?」
「小説の練習文だよ」
「これが? 1-Aでわかるんですか?」
「うん。『1-A』が示すのは、『主人公が異世界に召喚されてから追放される』までのくだりだね」
「は? そんなこと、どこにも書いてませんよ?」
「いや、『1-A』がそういう意味を持つんだよ」
「意味を持つって、無理がありませんか」
「そうかな。複数の言葉を省略する、現象を単語化する、事象を単純化する。文章の表現した意味を記号化するのも、同じだと思うけどな」
「同じではないと思いますよ。小説を読むのは、文章を読むためだと思うんです」
「文章を読みたいだけなら、今の時代ブログだってSNSだって、自己主張の強い文章が溢れているよ。溢れてるといっても画面から出てくることはないけどね」
「物語性のある整った文章が読みたいんですよ」
「それはなんのために?」
「それは、ただ読みたいからじゃ、ダメなんですか?」
「ダメなんてことはないけど、欲求には理由があると思うけどな。まぁ、単純に読みたいだけとしても、記号化されていて何の障害もないと思うよ」
「あると思います。記号だけでは文章じゃないですから」
「文章だよ。記号の意味を知ったときには頭の中で意味を持つ文章を組み上げているんだから。作者が書く文章よりも自分好みの文章を作者が書いたかのように頭の中で書き上げてくれる、素晴らしい変化だ」
「なんというか、あっ、暗号化のようにも思えますけど」
「暗号にするのは意味を隠すためだよ」
「読んだ人に意味が通じなければ同じだと思います」
「暗号は解かれないように鍵がわからなくされているけど、この小説を読むための鍵となるものを用意しておけばいいだけの話だよ。ほら」
~~~
1-A
「ここが異世界か」
「ようこそ勇者さま」
略
「ハズレのスキルだった、お前は好きにしろ」
「はい(実はすごいスキルだった)」
1-B
「ここが異世界か」
「ようこそ勇者さま」
略
「ゴミのステータスだ、消えろ」
「くそ、復讐してやる(実はすごいスキルだった)」
1-C
「ここは異世界。チートはあるけど仕事の気苦労でマジ大変だわ」
1-D
「異世界に転生したけどすごい人物に英才教育受けてたわ」
1-E
「おぎゃあ(言葉が通じない、母親は胸が大きい金髪のエルフだ)」
……
2-A
「キャー、助けてー」
「ぎゃああああああ」
「危ないところだった」
「すごい! 普通に生きていても奴隷なのであなたの奴隷にしてください」
「わかった」
2-B
「誰かー、助けてー」
「ぎゃああああああ」
「危ないところだった」
「すごい! 普通は人間と馴れあわないエルフだけど奴隷にしてください」
「はいはい」
2-C
「くっ、殺せ」
「ぶひいいいいい」
「危ないところだった」
「すごい! 私は高貴な女騎士だが奴隷にしてください」
「やれやれ」
2-D
「キャー、助けてー」
「ぐわあああああ」
「危ないところだった」
「すごい! 私はこの国の姫だけど奴隷にしてください」
「仕方ないな」
2-E
「キャー、助けてー」
「うわあああああ」
「危ないところだった」
「すごい! 私は人間に狙われるモンスターだけど奴隷にしてください」
「ケモミミがなんとか」
……
3-A
「なんてすごい魔力なんだ」
「すごくないよ」
「さすがご主人だ」
3-B
「こんなこと誰も思いつかなかったよ」
「そうでもないよ」
「さすがご主人様」
3-C
「とても便利なやり方だ、すごい発想をする」
「そうでもないよ」
「さすが」
3-D
「こんなもの……美味い」
「そうでもないよ」
「さすが」
3-E
「あのモンスターを倒せるなんて、いったい何者なんだ」
「そうでもないよ」
「さすが」
……
4-A
閑話 雑学知識披露
4-B
閑話 取り巻きの掛け合い
4-C
閑話 開発思考錯誤
4-D
閑話 エロ
4-E
閑話 伏線
4-F
閑話 モンスター
……
~~~
「あの、これを全部覚えないと読めないんですか?」
「これはまだ未完成。こんな程度で驚かれても困るな。これからもっとパターンが増えていくと、どんどん話の展開も拡がるんだから。肉付けってやつだね」
「すみません、これなら普通に書かれた小説を読むと思います。ええ、どれだけ暇であっても」
「まあ、そうなるだろうね。実践するにも、まだキャラクターの名前や設定なんかも盛り込んでから、そこも記号化していく必要もあるし」
「今ある文字で、素直に文章を書けばいいと思いますけど」
「文字なんて誕生は今で言う絵文字や記号でしかなかったのに、それがもっと多くの意味を含むようになったら対応できなくなる、無理矢理既存のカテゴライズの枠に収める働きしかしない、なんていうのは文学への怠慢じゃないかな」
「そう言われても。それに全部を記号化してしまったらキャラの違いも展開の差も表せないと思いますよ」
「テンプレの中ではキャラクターなんて一番記号化が進んでるんだよ。テンプレを読む人はそのくらい役割だけ知ったら名前なんてどうでもよくなるよ」
「それは偏見ですよね」
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というのをえんえんと書いていたのですが飽きました。
あらゆるものが簡易化を求められているのならこうなっても何もおかしくはないと思います。
読めさえすれば漢字一文字でも喜んだり、悲しめたりも可能なわけです。
「そんなのは小説じゃない」という考えは普通であるし古風ある奥ゆかしさなので安心していただきたいと思います。
テンプレへ疑問・苦言ではなく、むしろテンプレの簡易化をさらに進めたものを求めみたらどうなるのかと、少し考えてみただけです。
もっと面白い変化を思いつく人がいるはずなので是非読んでみたいと。だけど、そんなの一度だけでいいかなと思います。
芸術とデザインを思い出したら、つい、書けた