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神子と召喚士  作者: 鈴音
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第八章 神子の修行②

「もう一度やってみます!」

 腕輪を鳴らし、教えてもらった文言を唱え、また腕輪を鳴らす。

 今度は火の精霊が出てきた。

 先ほどの精霊とは違い、こちらの方は青年のように見える。

 そして、全体が赤いけれど、火を纏っている様子がない。

「火の玉を出してください」

 私の言葉に火の精霊は笑いもせず、ただ火の玉を出して、私に渡した。

「ありがとうございます」

 恐る恐る渡された火の玉を持つと、パチパチと音はしているものの、アイヴァンさんの言う通り熱くはなかった。

「ありがとうございました。もう大丈夫です」

 私がそう言うと、火の精霊はすぐに消えた。

 アイヴァンさんが呼び出した精霊はニヤッと笑ったり、つまらなさそうに消えたりと意外と感情豊かだったが、今回の精霊はずいぶん冷静なようだ。

 人間と同じく個性があるのだろうか。

「ナナミ様、おめでとうございます。今回は成功しましたね」

 ぼんやりと火の玉を見つめながら考え事をしていると、アイヴァンさんが話しかけてきた。

 自分のことのように喜んでくれる人がいるというのは良いな。

「アイヴァンさん、ありがとうございます。なんとか成功しました」

「良かったです。ナナミ様は案外冷静な方なのですね。もっと驚くか興奮するかと思いました」

 アイヴァンさんは優しく微笑んだけれど、少し意外そうに言った。

「なんだか、実感できてないのかもしれません。自分が精霊を呼び出して火の玉を作ったって。自分でも冷静で驚いてます」

 火の精霊の観察して、違いがあるから精霊にも個性かあるのかなと思うぐらい冷静だった。

 触っても熱くないこの火の玉が、現実感に乏しいからかもしれない。

「私は初めて師匠の召喚術を見た時は、興奮してしまいましたよ」

「アイヴァンさんに、師匠がいたんですか? どんな人ですか?」

 さっきから聞いていた召喚士の師匠の言葉に私は興味が湧いた。

 どうやらアイヴァンさんにも師匠がいたらしい。

 確か、召喚士になるには才能だけではなく、召喚士の弟子になる必要があるらしいから、当たり前と言えば当たり前だろうが。

 そういえばアイヴァンさん自身の話を聞いたことがなかった。

「そうですね。変わった人でしたよ。まだ幼い私の召喚士としての才能を見抜いた人で、七歳になった頃から此処で修行を行っていたんです。厳しい人でしたから修行も厳しかったですけど……」

 昔を思い出すような遠いところを見る目をしていたアイヴァンさんが、そこまで言って言葉が途切れた。

「そうです。修行の最中でした!」

 アイヴァンさんはハッとしたように、足を叩いた。

「ナナミ様。師匠の話は後でしましょう。今は神子様に関する修行に集中しましょう! とりあえず、その火の玉の威力を確認しましょうか」

「あ、はい」

 アイヴァンさんの師匠の話も気になったけれど、今は神子修行に集中することにしよう。


 アイヴァンさんは枝が集まったところに私を案内した。

「その火の玉をこの枝の固まりに落としてください。湿っている枝ですので、燃え上がって危ないことはないと思います」

「分かりました」

 アイヴァンさんの言う通り、私は持っていた火の玉を枝の固まりに向かって、落とした。

 火の玉は枝に触れると、枝の含んでいた水分が蒸発させただけでなく、勢いよく燃え始めた。

 近くにいる私達が危ないほど燃え上がっているわけではないが、湿っている枝にしては勢いよく燃えていると思う。

「思ったより燃えてますね」

 私と同じ考えだったのか、アイヴァンさんも少し驚いたように言った。

「私も驚きました。湿っていると火がつかなかったりするので、水分が蒸発するだけかと思いました」

「そうですね。……日記によりますと、前の神子様も水分が蒸発しただけのようです」

 日記を確認したアイヴァンさんは、日記を近くの机に置いた。

 そして、少し考えた後、また何かを召喚した。

「ついでに、火力を確認しましょう。目玉焼きができるかどうかやってみますね」

 フライパンと卵を持ったアイヴァンさんは、たき火の上にフライパンを温め始めた。

 そして、慣れた様子で卵を片手で割り、フライパンに入れると卵は焼け出した。

「目玉焼き、できましたね」

「できましたね」

 私がフライパンを覗き込むと、美味しそうな目玉焼きができていた。

「ナナミ様、食べますか?」

「え、今ですか?」

 日が高くなってきたが、真上になってないので、真昼ではないはず。

 時計がないから、正確な時間は分からないけれど、11時ぐらいだと思う。

 少しお昼ご飯には早い気がする。

「えぇ。どうせなので、そろそろお昼ご飯にしようかと思いまして」

「あれ? もう修行はいいんですか?」

 火の玉を出して、枝を燃やしただけだ。

 修行と言うからにはもっと厳しくするかと思っていた。

「はい。初日はあまりすると疲れてしまうらしいので、火の玉を出すだけの予定でした」

「そうなんですか? 私は疲れてませんけど」

 私に疲れた感じはない。

 まあ、ほどよい運動して気分が晴れた、気持ち良い感じはする。

「そうなんですか。もしかして、ナナミ様は力が強いのかもしれませんね」

 私の返事に少し意外そうにアイヴァンさんは言った。

「ナナミ様が思ったより早く起きてこられたので、午前中から修行を始めましたが、本当は午後から修行を行う予定でした。だから、ゆっくりしてくださっても大丈夫ですよ。日記にも午後から行ったと書いてありましたし」

 アイヴァンさんの言葉に今朝のことを思い返す。

 八時に起き、着替えて身仕度を整えて、のんびりと朝ご飯を食べていたので、修行を始めたのは九時過ぎだ。

 そう考えると、思っていたより時間が経っていたんだね。

「学校に行っていた頃は七時前に起きていたので。私には本当にちょっとゆっくりしていたと思ってますよ」

「コウコウでしたっけ?」

「はい。ところで、アイヴァンさん。いつまでフライパンに目玉焼きをのせているんですか?」

 たき火から外しているから、焦げる可能性はないとは思うけれど、いい加減皿にのせた方がいいと思う。

「お皿を召喚しそびれました」

 決まり悪そうにアイヴァンさんは答えた。

「あー。じゃあ、私がフライパンを持っているのでアイヴァンさんがお皿を召喚してください」

 私が手を差し出すと、アイヴァンさんは申し訳なさそうにフライパンを手渡してきた。

「あまり奥を持つと熱いので気を付けてくださいね」

「はい」

 私がフライパンを受け取ると、アイヴァンさんは自身の失敗が恥ずかしいのか、頭をかきながら苦笑した。

 すぐにお皿を召喚したアイヴァンさんは、フライパンを私から受け取ると、目玉焼きを皿にのせた。

 その皿は机の上に置いた。

「ちょっと食べて待っててください」

 アイヴァンさんはフライパンを持ったまま、踵を返した。

「アイヴァンさん、どこに行くんですか?」

「お昼ご飯を用意してきます」

「私も手伝います」

「いえ、ナナミ様はここでゆっくりしていてください。炒めものの用意してくるだけなので」

「でも、二人でやった方が早いと思いますし」

「いえ、すぐ終わりますから」

 アイヴァンさんは慌てたように帰っていった。

 もしかして、さっきの失敗を巻き返そうとでもしているのだろうか。

 別に私は怒ってないし、迷惑だとも思ってないので、たまにうっかりすることもあるよね、程度にしか思ってなかった。

 でも、そういうのに限って恥ずかしかったりするのかもしれない。

 そんな慌てるアイヴァンさんは少し可愛い。

 アイヴァンさんが戻ってくるまで火は消えなかったので、彼はその火で炒めものを作ってくれた。


 お昼ご飯を食べ終わっても、まだ火は消えなかったので、アイヴァンさんは火を消そうとした。

「待ってください。私が神子の修行を兼ねて、水の精霊に消してもらいます」

「大丈夫ですか? 疲れてませんか?」

「はい。大丈夫です!」

 心配そうなアイヴァンさんに返事をして、私は手帳を見ながら、水の精霊の召喚を試みた。

 結果は成功した。

 青い服を着た女性が優しい笑みをたたえて、浮いていた。

「あの火を消してほしいんです」

 私がたき火を指さすと、水の精霊は優しく微笑みながら、そちらに手を向けた。

 あ、でも、どのくらいの水量がいるんだろうか。

 バケツぐらい?

 私がそう思った瞬間、まさしくバケツをひっくり返した量の水がたき火に降り注いだ。

 短い間に一気にいったので、ちょっとした小さな滝かと思った。

 たき火は煙を上げてすぐ消えたが、ちょっと水量が多かったかもしれない。

 アイヴァンさんにそれを尋ねると、彼は驚いたように答えた。

「初めてで、多いと思えるほどの量を出せるだなんて、すごいですね。私が思っているよりナナミ様は力を秘めているのかもしれません」

「え? そうなんですか? ありがとうございます?」

 アイヴァンさんの言葉に私も驚いてしまって、終始疑問形になってしまった。

 それから、炭になってしまった枝は養分になるからと放置することにして、皿やフライパンを片付けることにした。

 しかし、これもアイヴァンさんが一人でやると取り上げられたので、私はさっきした精霊の召喚を復習することにした。

二つに分けた後編です。


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