表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神子と召喚士  作者: 鈴音
7/32

第七章 神子の修行①

 次の日の朝、日の光が顔に差して、目が覚めた。

 まだ覚めきってない頭を起こすように、左右に振った。

 部屋には時計があったので、見たら八時だった。

 ヤバい。

 学校に遅刻する!

 その時、寝ぼけていた頭が急にはっきりしてきた私は、慌ててベッドを飛び降りて、見慣れない部屋に固まってしまった。

 此処はどこ?

 部屋を見渡して、私は異世界に来たのだと思い出した。

 学校に遅刻するどころか、学校に行くことすらできない。

 まだ寝ぼけていたようだ。

 それから、昨夜、またアイヴァンさんが召喚して用意してくれたパジャマから、白いローブに着替えて、身仕度を整えた。

 また昨夜も女官達に世話を焼かれて、お風呂に入ったので、三つ編みに整えられた髪は大して崩れなかった。

 ダイニングに顔を出すと、アイヴァンさんがもうそこにいた。

「おはようございます、ナナミ様。早いですね」

「おはようございます。アイヴァンさん。これでもいつもよりちょっとゆっくりですよ」

「ナナミ様は元々、朝が早いのですね」

 アイヴァンさんは挨拶を交わすと、机を指さした。

「今から、朝食を作ります。ナナミ様は座って待っていてください」

「手伝いましょうか?」

「大丈夫ですよ」

 アイヴァンさんに笑顔で断られたので、私は大人しく座って待つことにした。

 元々私は料理をあまりしないし、現代日本とは違う環境では、私は邪魔になるかもしれない。

 そうしてアイヴァンさんに用意してもらった朝ご飯を食べた。

 目玉焼きに、サラダ、焼きたてパンという洋食風の朝ごはんだった。

「時間はありますので、ゆっくりしてください」

「はい。じゃあ、いただきます」

 私が両手を合わせると、アイヴァンさんは笑った。

「世界が違うと慣習も違うというのが面白いですね。でも、私もナナミ様の慣習に倣いましょうか」

 昨夜は不思議そうにしていたアイヴァンさんも、いただきますと、手を合わせた。

 昨夜の晩ご飯でも、いただきますと私が手を合わせると、何かの儀式かと言われた。

 日本では食べる時にそう言って、食べる物に感謝すると言うと、アイヴァンさんは関心していた。

 この世界では何も言わずに、さっさと食べるらしい。

 良い慣習は真似すべきと言っていた。

 ゆっくり朝食をアイヴァンさんと食べた後、さっそく神子の修行を始めた。

 場所は塔の横にある庭で、ずいぶん広い。

 近くには机と椅子もあって、召喚士の修行用になっているらしい。

 前の召喚士の日記を手にして、アイヴァンさんは立っていた。

 どうやら私の召喚もその日記を参考にしたようである。

 参考にするものが、前の召喚士の日記ということに少し疑問だったので聞いてみると、一番最初の召喚士がやり方を書いているものがあるにはあるらしい。

 しかし、何千も前の昔過ぎて何を書いているか分からないらしい。

 まあ、確かに日本でも昔の古文は訳さないと何を書いているか分からないので、分かる気がする。

 ということで、比較的新しい召喚士の日記を参考にしているらしい。

 それでも二百年前らしいけど。

「では、ナナミ様、まず結界を補修するには精霊の力を借りる必要があります。そこで、精霊の力を借りるやり方を説明しますね」

 日記を読んでいたアイヴァンさんが顔を上げて、説明を始めた。

「はい、お願いします」

「両腕にある腕輪を合わせて、音を鳴らします。そして、我、神子として契約せし者なり。この世界の全ての精霊、守り神よ。汝らの力を分け与えたまえ。と言った後、また両腕にある腕輪を合わせて、音を鳴らします。大丈夫ですか?」

「はい。すぐには覚えられないと思いますが、頑張ります」

「そうですね……紙に書いた方が覚えやすいので、手帳でも渡しますね」

 アイヴァンさんはそう言うと、両手を合わせて叩いた後、何やらつぶやくと、地面に手を出した。

 魔方陣が出てきて、光り出すと、弾けるような軽い音ともに本当に手帳が出てきた。

 革で表紙を作られているので、丈夫そうだった。

 羽ペンみたいなものも、一緒に付いている。

 それにしても、召喚士って本当に何でも呼び出せるんだね。

 私のこの服もアイヴァンさんが召喚して出していた。

 ただし、違いは両腕の腕輪を合わせて鳴らしていたところだ。

 呼び出すものによって方法が違うのだろうか。

「どうかしましたか?」

 ただ呆然と手帳とアイヴァンさんを見つけているだけの私の様子に、彼は不思議そうに問いかけてきた。

「あ、すいません。アイヴァンさんって何でも呼び出せるんだなと思って。私の服も召喚して用意してくれましたよね」

「えぇ。何でも召喚できる訳ではありませんが」

「そうなんですか? あの、それって腕輪を鳴らす場合と鳴らさない場合の違いに関係ありますか?」

「ナナミ様はよく見ているのですね」

 アイヴァンさんは関心したように笑った。

「ナナミ様の推察通り、腕輪を鳴らして召喚する場合と、鳴らさないで召喚する場合は違います。普通、召喚する場合は両手を合わせて叩いた後、地面にその両手をつけて、召喚の文言を言います」

 一旦言葉を切った後、彼は両腕の腕輪を見せた。

「この腕輪をぶつけて音を鳴らす場合は、神子様に関連する召喚術です。神子様に関連する召喚の場合は守り神や精霊の力を借りるため、彼らに聞こえるように腕輪を鳴らします」

 アイヴァンさんは私の腕輪を指さした。

「私の腕輪もナナミ様の腕輪も守り神や精霊から受け取った腕輪ですから、音を鳴らすだけで、彼らは力を貸してくれます。だから、精霊に力を借りる時はナナミ様も腕輪を鳴らすそうですよ」

「そうなんですか。この腕輪にはそんな意味があると思うと面白いですね」

 私は両腕に着けている金色と銀色の腕輪を見つめた。

 そこで、ふと気になった。

「じゃあ、神子を召喚しない場合は、その腕輪は使わないんですか?」

 私はアイヴァンさんの金色の腕輪を指さした。

「えぇ。元々召喚士は金色の腕輪を、片方の腕に印として着けるだけですから。召喚の際は全く使用しません」

「ということは両腕に金色の腕輪が神子を召喚する召喚士の証なんですか?」

「はい。普通の召喚士にとって腕輪は印でしかありませんが、私は守り神や精霊に音を鳴らして、力を借りる必要があるからのようですね。まあ、神子様が召喚されるまでは不要ですし、たった一つしかありませんから、師匠が弟子に伝承していく形になります。そして、神子様と契約を行わない限り、いくら音を鳴らしても、守り神も精霊も力を貸してくれません」

「そうなんですか。教えてくれてありがとうございます」

「いえ。また分からないことがお聞きくださいね……というより、この話もこの前にするべきでしたね」

 アイヴァンさんは決まり悪そうに笑った後、手帳を差し出した。

「では、こちらの手帳でお書きください。あ、この日記もお貸します。直接見た方が書きやすいでしょうし」

「ありがとうございます」

 疑問が解消され、スッキリした私は手帳と前の召喚士の日記を受け取り、近くにあった机と椅子で書き始めた。

 しかし、日記を開いたところで私は固まってしまった。

「読めない……」

 全く読めなかった。

 アイヴァンさんとは話が通じるので気にならなかったが、異世界なのだから、言葉が違うのは当たり前だ。

 普通なら言葉も通じず、文字を読めない。

 話が通じるだけありがたいと思うところだが、これでは書き写すことができない。

「あ、すみません。読めないですか。ナナミ様の世界とは違う文字だということを気づきませんでした」

 アイヴァンさんが慌てて謝ってきた。

「あ、いえ、こちらこそ気づかなかったので」

「いえいえ。では、こちらで読み上げますね」

「よろしくお願いします」

 アイヴァンさんが私の様子を見ながら、ゆっくり読み上げてくれたので、手帳に書き写すことができた。

 羽ペンはインクにつけなくても、スラスラと書き続けることができた。

 ボールペンみたいに中にインクが入ってなさそうなのにどうなっているんだろう。


 書き写し終わった後、さっそく精霊を呼んでみることにした。

「とりあえず、火の精霊に火球、火の玉を出してもらいましょう。先ほどの手順に、火の精霊に火の玉を出してもらえるように頼めばいいようです」

「分かりました」

 火の玉と聞くと、一瞬幽霊の火の玉を思い浮かべてしまって、内心焦ってしまったのは秘密にしておこう。

 腕輪を鳴らし、教えてもらった文言を唱え、また腕輪を鳴らす。

 火の精霊に火の玉を出してもらえるように頼んだけれど、火の玉どころか火の精霊さえ出てこなかった。

「あれ?」

「おかしいですね」

 首をかしげた私に、アイヴァンさんも不思議そうに何も出てこなかった空間を見つめた。

 アイヴァンさんは焦ったように前の召喚士の日記を読み始めた。

 しばらく真剣に日記を読んでいたが、疑問が解消されたのか顔を上げた。

「どうやら、神子様のこうなればいいという想像力で精霊は動くようですね。ナナミ様は火の玉を見たことはありませんか?」

「ないです。昨日言ったかもしれませんけど、私の世界では魔法は使ってませんでしたし。火の精霊も火の玉も見たことはないです」

「そうでしたね。失礼しました」

 ハッとしたように謝ったアイヴァンさんは少し考えた後、ばつが悪い様子で動き始めた。

「えーと、では、説明するより見てもらった方が早いですね」

 また両手を合わせて叩き、地面に手を出した。

「火の精霊よ、我の前に現れ、力を貸したまえ」

 アイヴァンさんがそう言った後、また魔法陣が出てきたが、先ほどとは違っていた。

 魔法陣が光り出すと、今度は音もなく、火を纏った子供のような姿が出てきた。

 それはアイヴァンさんを興味深そうに見つめていた。

「彼の者が火の精霊です。彼に頼むことになります」

 私に向き直って説明し、アイヴァンさんは火の精霊に視線を戻した。

「火の玉を出していただけますか」

 火の精霊はアイヴァンさんの言葉を聞き、ニヤッと笑った。

 そして簡単に手のひら大の火の玉を出した。

 次は次は、と言いたげに火の精霊はアイヴァンさんを見つめていた。

「これで大丈夫です。ありがとうございました」

 ホッとしたように火の玉を受け取ったアイヴァンさんがお礼を言うと、火の精霊はつまらなさそうに姿を消した。

「これが火の玉です。ナナミ様、次はできそうですか」

「はい。ありがとうございます。でも、熱くありませんか?」

 アイヴァンさんの気遣いにお礼を言ったものの、彼の持っている火の玉の方がとても気になった。パチパチと爆ぜていてとても熱そうだった。

「いいえ。大丈夫です。精霊の力を借りた側は傷つけられることはありませんから」

「そうですか。良かったです。……アイヴァンさんも想像力が必要なんですか?」

 平気そうなアイヴァンさんの言葉を聞いて安心したが、ふと気になったことを尋ねた。

 もしかして、精霊の火の玉をアイヴァンさんが触っても熱くないのは、彼のイメージによるものではないかと。

「いえ、私は必要ありません。その代わり、神子様と違って、精霊が必ずしも言うことを聞いてくれるとは限らないんです」

 アイヴァンさんは私の言葉を聞いて、苦笑した。

 どうやら、火の玉を持っても熱くないのはイメージの問題ではなく、先ほどのアイヴァンさんの説明通りらしい。

「そうなんですか。あ、だからさっきホッとした顔をしていたんですか?」

「はい。見られていたんですね」

 少し恥ずかしそうにアイヴァンさんは頭をかいて、言葉を続けた。

「精霊を召喚することはできます。ただし、その呼び出した精霊が力を貸してくれるかは、精霊次第です。精霊は気まぐれですから、気に入らなければすぐ消えてしまうこともあります」

「え? せっかく呼び出した精霊が力を貸してくれないんですか!?」

「はい。私も見た目が気に入らなかったらしく、精霊に消えられたこともあります。見た目だけでなく、声や服装、頼み方が気に入らなければ消えてしまいます。だから、精霊に力を借りる際は気を使うのですよ」

「そうなんですか。大変ですね。私も気を付けます」

 アイヴァンさんの実感のこもった言葉に、私は気を引き締めた。

「ナナミ様は元々精霊達と契約しているので、力を貸してくれないことはありません。安心してください」

「そうですか。良かった」

 優しく微笑んでくれたアイヴァンの言葉を聞いて、私はホッとため息をついた。

「では、もう一度やってみましょうか。今度は火の玉も出しやすいと思います」

 そう言うとアイヴァンさんは持っていた火の玉を、近くにあった壺に入れた。湯気が出て、水が蒸発していく音が聞こえた。

「その壺は何ですか?」

「これは火消しですね。この中に水が入っているんです。私を燃やすことはありませんが、私の手を離れると、火の玉は辺りを燃やしてしまいますので」

「なるほど」

 精霊の力を借りる者を傷つけないが、その者の手を離れた途端、当たり前だろうが、火の玉は火の玉らしい性質を発揮するらしい。

 面白い。

 本で読むしかなかったが、異世界に来て魔法を実際にやってみると、面白いものだ。

長くなりすぎるので、二つに分けました。

その②はまた明日投稿します。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ