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神子と召喚士  作者: 鈴音
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第六章 神子と召喚士の歴史

 アイヴァンさんは私を連れて、城の外に出た。

「城を出てしまうんですか?」

「はい。城の外にある搭で暮らしてもらいます」

 思わず私が問いかけると、アイヴァンさんは笑顔で答えた。

「私一人ですか?」

「いえ、私も一緒に暮らします。きちんとお世話させていただきますよ」

「え、と、アイヴァンさんに任せきりは申し訳ないので、手伝います」

「ふふ。ナナミ様は礼儀正しいだけではなく、優しいですね。あ、部屋は別々ですので、安心してください。こちらの搭です」

 二人で話している内に到着したらしい。

 高い搭だった。

 見上げると、空にまで伸びているようにも見えた。

「高い搭ですね」

「そうですね。でも、ナナミ様のお部屋は一階ですので、階段を上ることはありません。安心してくださいね」

「一階ですか」

 良い景色は望めなさそうだが、楽でいいかもしれない。

 此処に来るまで城を出て、あまり歩いていないし、ふと塔から目を反らすとすぐ近くに城が見える。

 城のすぐ側にあるらしい。

「ナナミ様、お部屋まで案内します」

 私の視線が塔に戻ったのを見計らい、アイヴァンさんが声をかけてきた。

 うなずいて大人しく、彼に付いていく。

「こちらがナナミ様のお部屋です」

 塔を入ってすぐ右側の扉を開いて、アイヴァンさんが手のひらで示した。

「荷物を置いてきてください。準備が終わりましたら、部屋を出られて、螺旋階段を通りすぎて奥の部屋に来てくださいね。神子様の仕事の説明やナナミ様の質問にお答えします」

 アイヴァンさんは今まで持ってくれていた私の通学かばんを差し出した。

「分かりました」

 私が荷物を受け取ってうなずくと、アイヴァンさんは笑顔で頭を下げると、部屋から出ていった。

 私に与えられたのは大きな部屋だった。

 前に住んでいた私の部屋とは比べようもないほど広い。

 大きなベッドがあり、木製の立派な机と椅子、洋服タンス、そして、同じく木製で本が少し入った本棚だけしかないシンプルな部屋だった。

 アイヴァンさんから返してもらったかばんはその机近くに置いた。

 話を聞くのに手帳が必要だろうと、ボールペンと一緒に手にした。

 携帯も持っていくことにした。

 不安だったので、持っていたら多少気分が楽になると思ったからだ。


 アイヴァンさんの言葉に従って、螺旋階段を通りすぎ、奥にあった扉を開いた。

 そこにはダイニング的な部屋が広がっていた。

 私の部屋と同じく、広かった。

「ナナミ様、早かったですね。もう少し部屋でゆっくりなさっても良かったですよ?」

 奥の台所からアイヴァンさんが出てきた。

「いえ。ゆっくりしちゃうと、動けなくなりそうですから」

「そうですか。では、今からお茶を淹れますので、そこの椅子に座って待っていてください」

「あ、手伝いましょうか?」

「大丈夫ですよ。ゆっくりなさってください」

 私をアイヴァンさんは笑顔で抑えた後、また彼は台所へと向かった。

 彼は背が高いので、姿は見えるが何をしてるかまでは分からなかった。

 大人しく椅子に座って待っていると、紅茶のようにティーカップをおぼんにのせて、アイヴァンさんは持ってきた。

「こちらは、この世界の花、カリンからできたお茶です。お口に合わなければ、別のお茶を用意しますね」

「あ、ありがとうございます」

 アイヴァンさんが目の前に置いてくれたお茶からは甘い、良い香りがした。

「いただきます」

「どうぞ」

 カップを手に取り、お茶を口に含むと、甘い香りの割りにさっぱりした味だった。

「あ、おいしい」

「それは良かったです。世界が違うので、ナナミ様のお口に合うか、不安だったもので」

 ホッとしたように笑ったアイヴァンさんは、居住まいを正した。

「では、説明しますね。では、まず何から話しましょうか」

「あ、はい」

 私が慌ててお茶を置いて、話を聞こうとすると、彼は笑った。

「ああ。ナナミ様はお茶を飲んでいても構いませんよ。話は長くなりますから」

「ありがとうございます」

 私はアイヴァンさんの言葉に甘えて、お茶を飲みながら、彼から説明を受けることにした。

「順を追って、説明しますね。その方が分かりやすいと思いますし。まず、神子と召喚士がどうやってできたかの歴史から始めましょうか」

 アイヴァンさんは本を取りだし、彼の長い話は始まった。

 曰く、この世界は元々魔族や獣達が溢れていたらしく、この世界に住む人間達は、彼らに虐げられていた。

 そんなある時、守り神と契約することができた召喚士がいた。

 その召喚士は守り神の力を借り、時には精霊達の力を借り、人間達を守る結界を張った。

 召喚士も人間のため、百年も経てば亡くなってしまい、せっかく張った結界も消えてしまい、また魔族や獣達に人間達が襲われることになる。

 それを避けるため、召喚士は守り神と精霊と新たな契約を交わした。

 百年ごとに守り神と精霊に契約を結び、この世界の結界を保ち、補修する神子がいれば、力を貸してもらえるように。

 結界を張った召喚士には弟子がいた。

 その弟子に神子を助ける召喚士として契約させた。

 百年ごとに代替わりしながら神子を契約させる代わりに、神子を手助けする召喚士も代替わりすることを守り神と精霊に許しを得た。

 そして、百年ごとに神子を契約させていたが、この世界には神子に相応しい人物がいない時期が訪れた。

 異世界から神子を召喚することにし、守り神から力を借り、召喚士がそれを行うことになった。

 神子の召喚に成功し、召喚士は守り神達とも契約を成功させた。

 ただし、守り神達は神子を元の世界に戻す手助けはしなかったため、異世界の神子はこの世界で人生を終えた。

 神子にとって召喚士は助手のような切っても切れない関係だったが、時代が経るにつれて、関係は離れていった。

 神子が神格化され、権力者に利用されるようになったからだ。

 神子の助手である召喚士を権力者が抱えることで、神子を我が物にしようとした。

 それを嫌った守り神達は、神子をさらっていった。

 これ以後、この世界に神子がいる場合は、守り神が直接啓示を与え、神子に契約させるともに力を貸し与えた。

 権力者の元にいる召喚士には、この世界に神子がいない場合のみ、啓示を与え、神子を召喚する手助けと契約ともに力を貸し与えることにした。


「ということで、昨日、突然私に守り神から啓示が与えられたので、神子様であるナナミ様を私が召喚いたしました。ナナミ様には私とともに魔族や獣達が結界を壊して入ってこないように、結界の補修を行って欲しいのです。結界は世界のあちこちに広がってますので、そちらには私がお連れします。何かあったら、私がお守りしますし、王宮からも護衛が付きますから安心してください」

 長い長い説明をアイヴァンさんはそうしめくくった。

 紅茶を飲みながらのんびりゆっくり丁寧に説明してくれたおかげで、紅茶はすっかり冷めきってしまい、私は慌てて最後まで飲み干した。

「分かりました。丁寧に説明してくれてありがとうございます」

 紅茶を飲みきった後、私はアイヴァンさんにお礼を言った後、整理するために質問した。

「つまり、アイヴァンさんが、自分が神子を召喚するとは思わなかったと言ったのは、他にも召喚士っているからではないんですね? 召喚士でも、いつ神子を呼び出すかは分からないからなんですね」

「そうですね。でも、私以外にも召喚士自体はいますよ。召喚士は才能さえあれば、弟子にしてもらえればなれます。王宮にも召喚士の軍隊はありますから」

「そうなんですか? アイヴァンさんが召喚士と呼ばれているから、一人だけだと思ってました」

「まあ、勘違いされても仕方ありません。召喚士の軍隊が国王陛下と直接話をすることはないので、召喚士とは呼びませんし。呼んだとしても召喚士部隊でしょうから。国を救う神子様を召喚できるのが私一人だけです。だからこそ国王陛下にも直接話をすることがあるので、召喚士と呼ばれているんです」

 私の言葉にアイヴァンさんは苦笑した。

「そうなんですか。名前を呼んだ方が分かりやすいと思いますけど」

「前の国王陛下は呼んでいただきましたよ。師匠ともども、とても可愛がってもらいました。もしかしたら、現在の国王陛下は、前の国王陛下とは違うようにしたいのかもしれませんね」

「そうなんですか」

 懐かしそうだけど、寂しそうなアイヴァンさんの様子に、私は何も言えなかった。

 優しくしてくれた前の国王陛下は、きっともういないのだろうな。

 たぶん、アイヴァンさんの師匠も。

「え、と、じゃあ、これからさっそく結界を補修しに行くんですか?」

 なんとなくこれ以上聞かない方が良さそうなので、私は話題を変えた。

「いえ。今日はこのままごゆっくりしてください。いきなり、異世界に来て大変でしょうし。明日から神子様の修行を行います。修行に慣れた頃に結界の補修を行います」

「そんなゆっくりで大丈夫ですか?」

 私は思わず質問してしまった。

 さっそく今日や明日から結界を補修しに行くかと思っていたからだ。

 そこまで切羽詰まっている訳ではないらしい。

「どうやら、それを鑑みた上で召喚時期が啓示されるようですね。長い時間をかけて、結界は直していくようです。だからこそ、元の世界には戻れないようですが」

「長い時間ってどれくらいですか?」

「神子様によって様々のようですね」

 アイヴァンさんは、本を確認した。

「五十年かかった方もいれば、二十年で終えられた方もいます」

「五十年!?」

 私は思わず叫んでしまった。

 一、二年ほどで終えられるものではないようだ。

 私は今、十六歳だから、五十年かかるとしたら六十六歳だ。

 それはもう元の世界に戻ろうという気持ちもなくなるね。

 ちょっと待て。

 私は良いけど、アイヴァンさんなんか三十歳は過ぎてそうだから、五十年もかかると八十歳になっちゃう。

「アイヴァンさん。私、できるだけ早く終えられるように頑張ります」

 八十歳になってまでアイヴァンさんを働かさせるのは申し訳ない。

「心配しなくても、結界が完全に直るまではナナミ様の力は衰えませんよ。ナナミ様の助手である私も同様です」

 焦って答えた私の様子を見たアイヴァンさんが、いくぶん方向違いの言葉をくれた。

 力が衰えないのは安心できるが、それではさきほどの私の考えは間違ってないことになり、余計頑張らないと、と気合いが入った。

「あ、ちなみに聞きたいんですけど。アイヴァンさんって何歳ですか?」

「私ですか? 三十五歳です」

 不思議そうにしながらも、アイヴァンさんは答えてくれた。

 つまり、五十年もかかると、彼は八十五歳だ。

「できるだけ二十年で終えられるように頑張ります」

 二十年だと五十五歳だ。

 まだ大丈夫。

「早く終えられるかどうかは、ナナミ様自身の力の強さが関係しますから。私には分かりませんが、できるだけ早く終えられたらいいですね」

 ニコニコと言ってくれるアイヴァンさんだが、少し引っ掛かった。

「力の強さが個人で違うんですか? 神子って大体守り神や精霊の力を借りるんですよね」

「ええ。確かに守り神や精霊の力を借りるのですが、その守り神達から力を借りるためにも、結界を直すためにも力が必要なんです。神子様に選ばれるにはその力が多い方のようです。ただし、個人差はあるようですね」

「その力って、魔法を使う力みたいなものですか? 私の世界にはそういう力もなかったですし。精霊を使う人も、魔法を使う人もいなかったので、分からなくて」

「魔力とは違うみたいですね。召喚士の才能とも違うようですし。守り神や精霊にしか分からない力のようです。説明できなくてすみません」

「あ、いえ。ありがとうございます」

 よく分からない不思議な力ね。

 まさしく小説の世界になってきた。

 普通の会話に出てくるから、此処は日本ではなく、異世界なんだなと少しずつ実感してきた。

「ナナミ様の世界には魔法はないんですか?」

 意外だったのか、アイヴァンさんが不思議そうに、少し驚いたように尋ねてきた。

「ないです。というか魔法は物語の中にしかないものだと思ってました」

「そうなんですか。世界が違うとそういうこともあるんですね。……そう言えば、ナナミ様の世界について、お話を聞かせていただけるということでしたね」

「あ、はい。日本について、私の世界について、知ってることは少ないと思いますけど。いいですか?」

「はい。是非」

 うなずくアイヴァンさんの瞳は、好奇心に輝いていた。

 あはは。なんだか可愛い。

「あ、待ってください。ナナミ様、質問はもうありませんか? ナナミ様の質問に答える時間ですので」

「あ、じゃあ、アイヴァンさんが持っているその本は何ですか?」

 私は本を指さしながら問いかけた。

「この本は、この世界の歴史が書かれているものです」

 アイヴァンさんは本を私に見せながら、説明してくれた。

「さっき話した神子様と召喚士の歴史から、歴代の王が行ったことまで載ってます。……他には何か質問はありますか?」

「大丈夫です。大体気になることは聞いたと思います。また何かあればあとで聞いてもいいですか?」

 私は笑顔で答えた。

「はい。また何かあれば、遠慮なく聞いてください」

「じゃあ、私の世界の話ですね。何話しましょうか」

 私は視線をさ迷わせた時に、用意したのに結局使わなかった手帳を見つけた。

 手帳にあるボールペンを引き抜いた。

「これ、私の世界で文字を書くことができるペンなんです。中にインクが入っているので、上を押すとペン先が出てきて、文字が書けるんです」

 私は手帳にぐるぐると円を描いてみせた。

「文字を書かない時は、また上を押すとペン先が中に入るので。ペン先が乾くことも、変な時にインクが垂れて付いたりもしません」

「なるほど。面白い作りをしてますね」

 アイヴァンさんにボールペンを渡した。

 彼は興味深そうにボールペンの上を押して、ペン先を出したり、引っ込めたりした。

 次は持ってきていた携帯を取り出して、話した。

 遠くの人とこの小さなもので話することができる、手紙も送ることができると聞いて、アイヴァンさんは驚いていた。

 こうして日本のことを話して、アイヴァンに驚かれたり、感心したようにうなずかれたりして、時間は穏やかに過ぎていった。

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