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神子と召喚士  作者: 鈴音
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第四章 神子の契約

 しばらく、おじさんに抱きついて泣きじゃくっていたが、ようやく落ち着いた私は、慌てて離れた。

 制服の裾でごしごしと涙をふき取り、今更恥ずかしくなって、うつむいた。

 周りの刺すような視線を感じる。好奇と怪訝さと、見定めるような厳しい視線を。

「落ち着きましたか?」

 優しくおじさんが問いかけてくれたけど、恥ずかしさが勝ってうつむいたままうなずいた。

「では、改めて確認しますが。この世界を救うために、この世界の均衡を保つ神子として働いていただけますか?」

 選択肢は他にないだろ、と突っ込みを入れたかったけど、これもこの人の優しさだろうとうなずこうとした。

 しかし、その前におじさんに心配そうに顔をのぞかれてしまったので、慌てて顔を反らして、返事した。

「はい。神子になります」

 泣いていたせいか、少し声がかすれてしまったけれど、思ったよりしっかりした声が出た。

「良かった。では、神子様。力を覚醒させるために、次の手順に参りたいと思います。こちらを見ていただけますか?」

 目が腫れているのが分かっていたから恥ずかしかったけど、仕方なくおじさんと顔を合わせた。

 この人は背が高いから、見上げないといけなかった。

 彼は私と目が合っても、優しく微笑んでくれた。

 大人な反応に、私は更に自分が子供だと思わされてなんだか恥ずかしかった。

「神子様。左手を出していただけますか? 手を繋ぐ必要がありまして」

 顔を反らすわけにもいかなかったので恥ずかしいのは我慢して、黙って左手を出した。

 心の中とはいえおじさんと呼ぶのが悪い気がしてくるほど優しいので、私を召喚したらしいので、召喚者と呼ぶことにする。

 そっと優しく握ってくれた召喚者の手は温かく、少しゴツゴツしていた。

「すみません。申し遅れました。私はアイヴァン・ソリューションと申します。神子様のお名前をお訊きしてもよろしいですか?」

 召喚者ことアイヴァンさんは、忘れていたと言わんばかりに焦ってそう尋ねてきた。

 その様子がなんだかおかしくて、少し笑いながら答えた。

「私は、七海、高原です」

 少し迷ったけれど、アイヴァンさんの名乗り方に合わせて、名前を先に言うことにした。

「ナナミ・コウハラ様ですね」

 確認するように私の名前を口にするアイヴァンさんに、うなずくと彼の顔が真剣になった。

「失礼します。しばらくこのままでいてくださいね。あ、私が言うまで何もなさらなくても大丈夫です」

 アイヴァンさんの言葉にうなずくと、彼はホッとした表情になった。

 それも一瞬のことで、真剣な表情に戻り、私の手を繋いだまま、彼の両腕に着けている金の腕輪をぶつけた。

 かん高い金属音がしたかと思うと、周囲の刺すような視線が感じなくなった。

 何度も何度もアイヴァンさんが腕輪をぶつける度に、息をするのもためらわれるような、厳かで神聖な空気に包まれていく。

 なんとなく白い空間になった時、先ほどとは違う視線を感じた。

 温かくも厳しい、視線が。

 思わず辺りを見渡した時、先ほどはいなかったはずの人影を見かけた。

 クリーム色の服装を纏った優しそうな女性。

 透き通るような青から濃い青まで色々な青色の服装を纏った中性的な恐らく女性。

 目の覚めるような赤い服装を纏った厳つい男性。

 目に優しい緑色の服装を纏った穏やかな表情の男性。

 長老という言葉が似合いそうな、茶色の服装を纏った難しい顔をしたおじいさん。

 眩しい金色の中性的な人と、その人に寄り添っている全身真っ黒の中性的な人。

 皆、人のようで、恐らく人間ではないんだろうなと感じる何かがあった。

 最後に、アイヴァンが更にかん高い金属音を鳴らすと、周りにいた彼らがスッと後ろに引いた。

 その空いた空間にやってきたのは、透明に見えるのに、輪郭がはっきりとしていて、人のようで人でないものだった。

 ようやく、そこでアイヴァンさんが手を止めて口を開いた。

「この世界にいる全ての精霊、守り神よ。我、アイヴァン・ソリューションの名において契約する。神子として汝らと契約を求める者に、力を与え、目覚めさせよ。神子の名は、ナナミ・コウハラ」

 静かだがはっきりとアイヴァンさんが言った。

 別段声を張り上げているわけでもないのに、アイヴァンさんの声はこの空間に響き渡る。

 次の瞬間、ふわふわと浮いていた恐らく精霊と守り神が、ぐるぐると私達の周りを回りだした。

 かと思ったら、何もなかった目の前が光り出した。

 あまりの眩しさに目をつぶってしまう。

 光が収まり、目を開けるといつの間にか金色と銀色の腕輪のような物が宙に浮いていた。

  「神子様、右手を出していただけますか」

 私の左手をそっと離して、アイヴァンさんは言った。

 正直言うと、こんな不思議な空間で今まで繋いでいた手を離されると心細い気分になる。

 しかし、文句は言えない状況のようで、私は大人しく右手を出した。

 とたんに金色の腕輪が動き出し、私の右腕にはまった。

 手を小さくしなくても、スッと手首にはまったので大きいかと思いきや、ぶんぶんと腕を振っても腕輪は滑り落ちなかった。

 へえ。すごい。

「……神子様。今度は左手を出していただけますか」

 内心感心していると、アイヴァンさんが困ったように催促してきた。

 まだ途中だったようだ。

 すみませんと軽く頭を下げて、今度は左手を差し出した。

 左腕もスッと入ったわりに、銀色の腕輪は腕を下ろしても滑り落ちなかった。

 それを満足そうに見つめると、アイヴァンさんは今度は私を見つめてきた。

「では、私の言う言葉を、続けて仰ってください」

「はい」

 私がうなずくとアイヴァンさんはまた口を開いた。

「我、この世界の全ての精霊、全ての守り神と」

「我、この世界の全ての精霊、全ての守り神と」

 私はアイヴァンさんの言葉を間違えないように慎重に復唱していく。

「契約せし神子なり」

「契約せし神子なり」

「汝らの力を分け与えたまえ」

「汝らの力を分け与えたまえ」

「我、神子としてこの世界の均衡を保つことを誓う」

「我、神子としてこの世界の均衡を保つことを誓う」

「ナナミ・コウハラの名において、契約終了す」

「七海、高原の名において、契約終了す」

 アイヴァンさんが細かく、分けてくれたおかげで間違うことはなかった。

「神子様、両手を突き上げてください」

「はい」

 アイヴァンさんの言葉に従い、両手を突き上げると、ぐるぐると周りを回っていた精霊や守り神が私の元にやってきた。

 少し驚いたが、じっとしていると、彼らは腕輪に触ると離れていった。

 それと同時に温かい何かに包まれていく感覚があった。

 ふと、腕輪を見ると先ほどはなかった複雑な紋様が刻まれていた。

 それが終わると、不思議な空間は消え、周りの刺すような視線が戻ってきた。

「終わったか」

 王座に座った国王らしき人が私達を見た。

「はい。国王陛下。これにて、神子の召喚と契約の儀式が終了致しました」

 アイヴァンさんがひざまずいて答えたので、私も慌てて習うようにひざまずいた。

「彼女は神子として覚醒しました。必ずやこの世界を救ってくれるでしょう」

 チラッと私を見て、アイヴァンさんは微笑んでくれたが、私は何も分からない。

 腕輪には変化はあったが、私自身は何も変化は感じられない。

 確かに、温かいものに包まれた感覚はあったけど、別段これといって力が溢れてくるとか、力が涌き出てくる感じはしない。

 気になるが、口に出せる雰囲気でもないので黙っておく。

「神子殿。そなたの力に期待している。精一杯神子として励んでくれ」

 見定めるような視線を送りながらも、国王はそれとは裏腹な言葉を私に声をかけた。

 国王というのは、こういうものなのだろうか。

 まあ、いいや。

「はい。お任せください」

 優しいアイヴァンさんが心配そうに見つめてくるので、支障のない答えを返した。

 ホッとした様子のアイヴァンさんを見て、とりあえず私の答えは間違ってなかったようだと確認した。

「召喚士。神子を頼んだぞ。何かあればこちらからも護衛を送ろう」

「はい。お任せください。護衛に関してはまたご相談に参ります」

 国王はすぐアイヴァンさんに視線を戻した。

 それにしても私はともかく、アイヴァンさんも名前を呼ばないのはどうかと思うのだが。

 今まで散々おじさんと呼んでいた私が言うことではないと思うが、名前を知らなかった私とは違うのに、どうして名前を呼ばないのだろう。

 召喚士って、他にはいないのだろうか。

「うむ。下がってよい」

「はい。失礼します」

 左手を胸に当て、頭を垂れたアイヴァンを見て、慌てて私も同じようにした。

「失礼します」

 立ち上がったアイヴァンさんにうながされ、私は踵を返した。

 そこで、魔方陣の真ん中に落としたかばんを放置したままだったのを思い出した。

 慌ててかばんを回収して、肩に背負った。

 それを確認したアイヴァンさんは魔方陣から降りた私を見て、魔方陣を回収した。

 くるくるとまとめた魔方陣を持ったアイヴァンさんと一緒に王の間であろう場所を去った。

 できれば、もう来たくない。

 国王だけでなく、皆が私を見定めるようにじろじろ見てくるから、正直言って気分が悪いからだ。


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