第一章 彼女の憂鬱な日常
アイリス恋愛F大賞に応募しています。
よろしくお願いします。
〆切の9/19日までには完結させる予定ですが、完結しない可能性もあります。
9/19日までに完結しない場合も、完結するまで書き続けようと思います。
イケメンが知り合いだとろくなことがない。
私は今までの人生でそれを痛感している。
私の幼馴染み、安藤巧は、いわゆるイケメンだった。
天は二物も与えないと言うが、二物も三物も与えられた完璧な男だった。
容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群、唯一の欠点である女好きなところを除けば性格も悪くない。
ただし、私にとって、巧の唯一の欠点である女好きが、大きな欠点で、災厄を招くものだった。
何故私がこんな分かりきったことをぐだくだと考えているかというと、今現在、その災厄に巻き込まれているからだ。
ちょっとぐらい現実逃避して、原因の巧に文句を言っても許されると思う。
「ちょっと待ちなさいよ! この泥棒猫!」
「逃げようったってそうはいかないわよ!」
学校帰り、後ろから訳分からないことを喚きながら、ある意味女らしいが到底女とは思えない形相で、金髪や茶髪に染めた女性陣に私は追いかけられている。
巧は私の恋人ではないし、彼女達の恋人でもない。
従って、私は彼女達から巧を奪ったこともなければ、巧も彼女達のものでもない。
泥棒猫と言うのは見当違いも甚だしい。
ただし、幼馴染みの私が巧と普通に話しているだけで、彼女達の目には私が巧をたぶらかしているように見えるらしい。
馬鹿馬鹿しいにも程がある。
確かに、巧は幼馴染みだからこそ私には他の女性より気さくに話しかけるが、それだけだ。
それ以上もそれ以下もない。
私は女好きな巧にただ幼馴染み以上の感情は抱いていないし、むしろ女好きのアイツのせいで迷惑をかけられているので、最近は避けているぐらいだ。
頭が良いわりに巧はこういう方面は鈍感馬鹿なので、避け出したら、何で避けるのー?と積極的に私を構い出したが、彼女達にして見ればそれも気に食わないらしい。
巧に構ってもらいたいから、あえて避けているんでしょう?と穿った見方をしているのだ。
ふざけるな、と私は叫びたかった。
小さい頃から、巧は女の子にモテた。
同年代だけではなく、年上の女性であっても関係なくモテた。
巧のことが好きな女性達にとって、幼馴染みの私は巧に特別扱いされている憎い敵と認定された。
だからこそ、今までその女性陣に嫌がらせを、それこそうんざりするほど仕掛けられたのだ。
それでも巧を好きと言えるほど、私は心が広くないし、恋い焦がれてない。
今まで散々な目に遭うと、百年の恋も冷めるというものだ。
私は逆境に遭ってさらに燃える性格はしてないし、巧よりも自分が可愛い。
周りの嫌がらせを苦にせず、巧を選べない。
嫌いではない。
巧のことを嫌うことができれば、どんなにいいだろうと思う。
そうすれば、巧は私に構うことはないし、彼女達にもきっぱりと断ってこんな厄介事に巻き込まれない。
しかし嫌いではないから、アイツを憎むこともできずに、こうして厄介事に巻き込まれてしまうのだ。
それが嫌だから、巧を避けていたというのに。
「はあはあ……――っ!」
息が苦しいのも我慢して必死に逃げていた私は、とうとう追い詰められてしまった。
逃げて込んだ先が袋小路だったのだ。
すぐ横にあった扉は鍵がかかっていて開かなかった。
反対側にあった窓も鍵がかかっていて開かなかったし、思い切り叩いても何も応答がなかった。
両方とも大声でも助けを求めてみたが、留守なのか関わりたくないのか反応はなかった。
目の前に立ちはだかる金網フェンスでもなく、足の乗せ場もないコンクリートの壁は私にはどうすることもできなかった。
別の方向に逃げようにも、すぐそこまでギャル達がやって来ていた。
「やっと、追い詰められたわよ! 覚悟しなさい!」
「とうとうあんたの年貢の納め時よ!」
私は何も悪いことはしていない。
大事なことなのでもう一度言おう。
巧をたぶらかしていると彼女達が勝手に勘違いしているだけだ。
「私は巧に恋愛感情は持ってないし、たぶらかそうとも思ってない。あなた達の勘違いですよ」
「まだそんな言い訳を言うの!?」
「往生際が悪いわね!」
私が事実を言っても、彼女達は聞いてくれない。
今まで嫌がらせされても、捕まえようと追いかけられても、なんとか逃げてきた。
しかし、逃げ場も誰も助けてくれないこの状況はまずい。
もう、あきらめるしかない。
いくらなんでも彼女達は私を殺すほど殴ったり蹴ったりすることはないはずだ。彼女達の気が収まったら、家に帰って手当てして、両親に話して転校させてもらおう。
暴力に耐えてまで、巧の近くにいることはない。
むしろ、自分の身を守るために巧から離れるべきだ。
「そうそう。そうやってじっとしてなさいよ」
「誰も助けてくれないから、大声も出さないようにね」
「というか、最初から巧に色目使わなきゃいいのに」
大人しくなった私を見て、彼女達は嫌らしく笑った。
きゃらきゃらと女の子特有の高い笑い声は耳障りだ。
私のことを案じてくれる、助けてくれる優しい女友達の由衣や麻季や歩美がいなければ、もうすでに女性不信になっていたところだ。
今、由衣や麻季や歩美に迷惑かける訳にもいかず、一人でなんとか我慢するしかない。
まず通学鞄の中にある携帯電話を出そうとした時点で彼女達に捕まるのがオチだ。
転校したら、三人に会えなくなるのが唯一の心残りかな。
私は自身の身を守るため、しゃがんで持っていた革の通学鞄を頭に乗せ、身を固くした。
「何よそれ!」
「あんたのその格好じゃ、あたし達が一方的に悪いみたいじゃない!」
その通りだよ、と言いたかったけど、火に油を注ぐ気はなかったので黙っておいた。
「ちょっと何とか言いなさいよ!」
ギャルの一人がカッと顔を真っ赤にされて手を上げたのが見えたので、私は痛みに耐えるべく、ぎゅっと目をつぶった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
最初はゆっくり話が進んでいくので、焦らずゆっくり物語を楽しんでいただければ、と思います。