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プロテイン賢者が征くっ!  作者: 鹿角フェフ
第一章:伝説の幕開け
8/23

第七話:ポリポリパール魔法症候群

 なんやかんやで強引に決定した家庭教師としての仕事。

 屋敷の一室をあてがわれ、不本意にもこの異世界での生活基盤が出来上がった翌日、俺は早速ピュセラに対して第一回の授業を始める事にした。


「さて、という訳で魔法の授業を始める訳だが……」

「宜しくお願いします! お師様(おしさま)!」

「はいはーい。よろしくー」


 場所は中庭、ピュセラ専用に誂えられた訓練場だ。

 流石良い所のお嬢様。この様な場所があるなんて羨ましいを通りこして驚きしか無い。

 あまり使用された形跡の無い的の人形を眺めながら、息巻くピュセラに軽く手を振り振る。


「もう少し気合い入れなさいよフェイル」

「誰かさんのお陰で気合いが入らないんだよ……」


 テンションだだ下がりの俺に小言を申してくるのはメイドのクシネ。

 ハッキリ言って諸悪の根源だと断言しても良い。

 あれほど魔法を教えるのは無理だと伝えたにもかかわらず当然の様に授業をさせるその根性に感心しながら、さてどうしたものかと頭を悩ませる。


「お師様! お師様!」

「ん? どしたの?」

「ピュセラは感動しています! 今から始まるのですね、私の魔法使いとしての道が!」

「そ、そっすね」


 ピュセラのやる気は十分だ。

 俺のやる気をまるごと吸い取ってるのではないかと思われる位に鼻息荒く自らの成功を語っている。


「今日の日記は一段と長くなりそうです! ふふふ、魔法使いピュセラ=エルネスティ。世界に名を轟かせるフェイル=プロテインの一番弟子! はぁ、かっこ良すぎです……」


 溜め息を吐きながらどこかうっとりとした表情で虚空を眺めるピュセラに俺も言葉がでない。

 やばい。どんどんドツボにはまっていっている。

 もう抜け出せないぞ。どうするんだ俺? どうすればいいの?


『フェイル。フェイル』

『……なんだよ?』


 ピュセラが自らの世界に没入してこちらに注意が向いていない隙を見て、クシネが小声で語りかけてくる。

 チラチラとピュセラをしきりに確認しているところを見ると、彼女にはあまり聞かせてくないらしい。

 渡りに船だ。俺も彼女と少しピュセラを教える方針に付いて語りたかった。


『とりあえず、ピュセラに感付かれないようにそれっぽい感じでやって。私も協力するから』

『助かる。俺も出来る限り頑張ってみるけど、期待はしないでくれよ』

『分かったわ』


 どうやらクシネも俺に協力してくれるらしい。

 流石に投げっぱなしって事は無かった様で安心する。

 もっとも、彼女の場合ピュセラが大切だから仕方なく俺に協力しているのであって、ピュセラが関係してなかったすぐに裏切るであろう事は確かだったが……。


「ああっ!!」

「ど、どうしたピュセラ!」


 ふわふわうふふと虚空を眺めていたピュセラは急にハッ! と気が付くと慌ててこちらに向き直る。

 まるでハムスターの謎行動にも似た動きに思わずクシネと一緒にビクリと震えてしまう。

 どうやら、ようやく自分の世界から戻ってきたようだった。


「すいませんお師様! 私ったら自分の世界に入っちゃって! 実は偉大なる賢者の弟子として世界を救う想像をしていたのです! ちょうど切り良く魔王も倒せましたので、どうぞ授業を始めて下さい!」

「そっか、良かったね」

「想像の中の仲間がすっごい褒めてくれました!」


 平然と黒歴史を生産するピュセラ。

 その純粋無垢な心と、己の行動を省みないおもいっきりの良さが羨ましい。

 俺なんていまだに黒歴史を思い出して夜中急に叫ぶのに……。

 今まで行ってきた数々の痛い行動。

 それらを振りほどくように授業へと意識を切り替える。


「じゃあ授業を始めるとして。まずは何をしようかな? 何をしたらいいんだ? クシネ」

「私に聞かないで。貴方がお師様なんでしょ? ほら、ピュセラが待ってるわよ」

「待っていますお師様!」

「とりあえず今までにどんな授業をしたのか教えてくれる? 参考にしてみたいんだ」

「分かりました! お任せ下さい!」


 期待の眼差しを向けるピュセラ。何故かクシネも同様の視線を向けているのが鬱陶しい。

 ……授業と言っても初めてだ。

 何をしていいか全く見当がつかない。

 とにかく、このまま無為な時間を過ごすのもあれなので彼女が今までどのような授業を受けてきたのかを確認する事にする。

 あわよくばパクればいい。授業なんてそんな感じで進めればなんとかなるはずだ。


 ………

 ……

 …


「ふーん。なるほどねぇ」


 いくつかの話をピュセラから聞き、クシネからも補足の説明を受ける。

 どうやら授業と言ってもさほど特殊なものではないらしく、座学と実際に魔法を唱えてみる事の二種類が主だった。

 この程度なら俺にも出来る。もっとも、それらの授業で駄目だったから俺が任命された訳だから別の方法を模索する必要があるのだが……。

 授業の指針となるものが分かっただけでも良しとしよう。


「何か分かりましたでしょうか?」

「まぁね。とりあえず、じゃあ初級魔法――"ファイア"を使って見てくれるかな? 完全詠唱で」

「はい!」


 この授業を受けるまでクシネからこの世界の仕組みや法則についてはある程度説明を受けている。

 俺の出自をややぼかしている為にあまり突っ込んだ事は聞けなかったが、それでも大凡の一般常識は網羅したつもりだ。

 それら知識の中で今回使用するのは魔法の詠唱に関して。

『ウルスラグナ』同様、この世界においても魔法の詠唱はいくつか種類がある。


 ――無詠唱

 ――簡易詠唱

 ――完全詠唱だ。


 難易度が高いとされる無詠唱。一定の言葉を利用して詠唱を簡略化する簡易詠唱。

 そして正式な詠唱文を唱える完全詠唱。

 一番簡単な正式詠唱は見習い魔法使いが一番に学ぶべき方法だ。

 言葉を口に出すことによってより鮮明に魔力を現象へと変換するとは『ウルスラグナ』での設定だったが、どうやらこの世界でもそれは同じらしい。


 自分の背丈程もある杖を持ちながら、真剣な表情で的の人形を見据えるピュセラ。

 緊張しているのだろうかやや硬い面持ち、その額には薄っすらと汗が滲んでいる。

 やがて、決心したのか彼女は透き通る美しい声で詠唱文を唱え始める。


「――我が魔力を糧に火の精霊に請い願う。我に眼前の敵を打ち倒す力を授け給え」


 同時に彼女のステータスを"観察"スキルで確認する。

 魔法の行使には魔力が必要となる。

 彼女が少しでも魔法を使えるのなら、たとえ失敗したとしてもMPの減少が発生しているはずなのだが……。


「ファイア!!」


 ピュセラが大声で魔法の発動を宣言する。

 だが、彼女の望む結果は現れず。静寂のみが無常にも魔法の失敗を告げている。

 彼女のMPは、一切減っていなかった。


「ふーむ」

「えっと、やっぱり駄目でした……」

「うんうん。大丈夫大丈夫。気落ちしない、気落ちしない」


 心底申し訳無さそうに眉尻を下げるピュセラ。

 なんでもないと言った風に手をひらひらさせると、再度彼女のステータスを一文字たりとも逃さずチェックする。

 だが、やはりそのステータスに変化は現れていなかった。


「何か分かったのフェイル?」

「早ぇよ。まだいろいろと調べてみないと。とりあえずピュセラ。もう何度か魔法を使ってみてくれる? あと今までやって来た訓練とかも見せて」


 やや神妙な面持ちで尋ねてくるクシネをあしらいながら、ピュセラへと再度魔法の行使を伝える。

 さぁ、目の前の問題は想像以上に厄介だぞ。

 だがマッスル神の下僕たる賢者の俺に後退の二文字はない。

 何より彼女の事を思うと弱音など吐けなかった。


「分かりましたお師様!」


 元気よく返事をし、再度魔法の詠唱を開始するピュセラ。

 俺に対して心からの信頼と尊敬の念を向けてくれる彼女の為にも、絶対にその謎の解き明かしてやるつもりだった。


 ◇   ◇   ◇


 やべぇ、何一つ分からねぇ。

 あれから2時間程時間は経ったろうか。

 ピュセラにいくつかの魔法の行使を頼み、その結果を確認し、他の授業を真似、ステータスの変化を確認する。

 結果は不明。いや、分からない事だけが分かった……。


「お師様……その、如何でしょうか?」


 ピュセラの様子は今までの結果から来るものだろう。

 もしかしたら俺の焦燥感が表に出てしまっていたのかもしれない。

 だが、不安に揺れる瞳の中にも希望が垣間見えるのは偏に俺に対する信頼がなせるものだった……。

 そう、彼女は信じているのだ。このフェイル=プロテインを。

 俺がきっと彼女の問題点を見つけ出すことを……。

 でもごめ、ちょっと無理だったわ。


『どうなの? 分かったの?』


 スススとクシネが俺の側まで寄ってき、すぐそこという距離まで顔を寄せてくる。

 ふわりと良い香りが鼻孔を擽る、俺の心を弄ぶ。

 きっと気付かずの行動なんだろう。

 だが、安心して欲しい。

 猫姫ちゃんに鍛えられた賢者フェイル=プロテインはこの程度でドキドキする程ピュアボーイではないのだ。

 だから言ってやった。


『無理。全然わからない。なんで魔法使えないの? あと近くて鬱陶しい』

『ぶん殴るわよ! ってか私が分かる訳ないでしょう! なんの為に貴方を雇ったと思ってるのよ!』

『最初から魔法は使えないって言っただろうが!』

『とにかく何とか引き伸ばして時間を稼ぐわよ! 口裏合わせて!』

『よし来た!』


 漫才にも似たやり取りをクシネと交わす。

 どうやら彼女が助け舟を出してくれるようだ。ぶっちゃけてよかった。


「お師様! もう、二人で仲良く相談してないで私にも教えて下さい!」


 ピュセラが早速俺達に絡んでくる。

 どうやらヒソヒソと相談する俺達に業を煮やしたらしい。

 ぷんぷんと頬を膨らます彼女を落ち着かせようと、まずはクシネが彼女を宥める。


「えっとねピュセラ。フェイルも慣れないことでちょっと戸惑っているの。どうやって貴方に教えるか迷っている所だからもう少し待ってみましょう?」

「そ、そうなんだよ。もう少し時間が欲しいかなって、そう思うんだ」


 欲しいのは時間だ。とりあえず考える時間が欲しかった。

 ピュセラが魔法を使えない理由も、この短時間では分からずとももう少し時間をかければ解決の糸口が見えるだろう。

 幾つか気になる点もある。

 だがらこそ、なんとかここは時間を引き伸ばす必要があった。


「もう! いけずしないでくださいお師様! もう既にご存知なんでしょう? 私がどの様にすれば魔法を使えるかを! でもそうやって焦らしているんですから。お師様の意地悪!」

「意地悪してる訳じゃないんだけどな!」

「そ、そうよピュセラ。私達がピュセラにいじわるする訳ないじゃない!」


 だが、当の本人は俺達の思いなどあずかり知らぬ所。

 特に俺に対する期待値がマックスを突破しているためにもう解決したとばかりに責め立ててくる。

 いや、そんなに早く分かる訳ないよ?

 憧れの魔法を早く使いたいピュセラは必死だ。その思いは俺達の態度も相まってやがて怒りへと転じていく。


「クシネさんまで! もうっ、二人は意地悪です! しかもいつの間にか仲良くなって! 私だけ置いてけぼりにされた感じで不満です!」


 不機嫌ですとばかりに頬をふくらませるピュセラ。

 どうやら彼女の機嫌を損ねてしまったらしい。

 幾ら濃密だったとはいえまだそう対してピュセラと一緒の時間を過ごしていない俺は、こういった場合にどうすれば良いのか分からず思わず隣のメイドへ助けを求める。


「く、クシネ……」


 俺の言いたいことが分かったのだろうか?

 クシネは俺とピュセラの顔を交互に眺めると、何やら難しい顔で思案を始める。

 やがて、ぽんと手を打つと、晴れ晴れとした表情で俺に向かってニッコリと笑った。


「駄目よフェイル。ピュセラは本当に楽しみにしているんだから、あんまりからかわないであげて」

「裏切ったなこのやろう!」


 唐突までの裏切り。

 この駄メイドは自分がピュセラに嫌われたくないがために全てをぶん投げて俺になすりつけたのだ。

 スススと、ピュセラの隣に移動するクシネ。

 まるで自分の立場を俺に見せつけるかの様だ。


「私はいつだってピュセラの味方なのよ。決して貴方の味方じゃないわ」

「ありがとうクシネさん!」

「限界訪れるのが早過ぎるだろうが!」


 ニッコリとピュセラに笑いかけながら、ねーっとばかりに仲の良さを見せつける二人。

 完全に二対一の構図が出来上がってしまった。

 まるで心の通じ合った姉妹の様に暫くイチャイチャしていた二人は、やがてキリッと表情を変えると鋭い視線で俺を指さす。


「さぁ、フェイル。ピュセラに教えてあげて、彼女がどうすれば魔法を使える様になるかを!」

「教えてください! お師様!」


 もはや退路は無し。

 味方も現れない状況で、この場を切り抜けられるのは己の頭脳のみだ。

 一瞬風が吹き、静寂が訪れた。


「…………ポ」

「「ポ??」」


「ポリポリパール魔法症候群だ」

「「ポリポリパール魔法症候群!?!?」」


 初めて聞いたと言わんばかりの表情で俺の言葉を反芻する二人。

 や、やってしまった。

 なんだよこれ。でまかせにしてももう少し良い方法があるだろうが……。

 限界のあまり適当に口から漏れでてしまった言葉。

 俺は更に事態が面倒な方向に向かってしまった事を確信しながら、なんとか話の辻褄を合わせようと必死になる。


「あ、ああ。ピュセラはポリパリ……ポリポリパール魔法症候群にかかっている。だから魔法が使えないんだ! 判断が難しかったが、ようやく確信に至ったよ!」

「そ、そんな……初めて聞きました!」

「せやろな」


 今作ったからな。

 ピュセラは信じられないと言った表情で自らの手を眺めている。

 どうやら純粋無垢な彼女はそれで納得してくれたようだ。

 後は適当なこじつけで時間を稼ぎつつ、なんとか魔法を使えるようにすれば問題は解決するかと思われたが……。


「そ、それはどういうことなのフェイル!? 何が、何がお嬢様に起きているの!? どうして、どうしてお嬢様は魔法が使えないの!? そのポリポリ……くふっ! パール症候群って何なの!?」

「ちょっとクシネさん、グイグイ来すぎじゃないですかねぇ!? ってかお前今笑ったろう!」


 そう、コイツがいた。

 浮かべる笑みは惚れ惚れする物で、語られる言葉は幸せに満ちている。

 凄い勢いで俺に側までやってくると、肘で脇腹をツンツンしながら早口でまくし立てる。

 もちろん、終始浮かべた笑みを絶やしていていない。

 完全にバレていた。


「知りたいの! 具体的な設定を! もちろん、その場で考えついた病気じゃないだろうし詳しい病状も知っているのよねフェイル! 何度聞いても同じ内容が言えるわよね! ねぇ、ねぇフェイル! なんとか言ってよフェイル!」

「うっせぇよ! 楽しそうな表情で突っかかって来るんじゃねぇよ!」


 今度はショルダータックル。

 クシネは肩を俺にコツンとつけると、うりうりと俺に押し付けてくる。

 ああ、すっげぇ笑顔。

 なんで他人を弄る時限定でそんな幸せそうな笑顔なんだよ!!!

 その冷ややかな表情を崩しながら俺を全力でからかうクシネを鬱陶しげに引き離しなす。

 だが、クシネは諦めることをしらないようで、しつこくグイグイ突っかかってくる。



「お師様……偉大すぎます」


「「えっ!?」」



 二人のやり取りを中断したのはピュセラの静かな一言だった。

 何事かと慌てて彼女の方を見つめると真剣な表情でこちらをじぃっと眺めている。

 その瞳には様々な感情が混ざっているようで、少なくとも彼女が真面目に何かを語ろうとしている事だけは分かった。

 思わず目があった隣のクシネと同時に首を傾げる。

 二人共、ピュセラが何を言おうとしているのか全く理解できなかった。


「私がそんな症状ににかかっていたなんて……道理で、道理で魔法が使えないはずです」

「お、おう……」


 はたと気がつく。

 そう、ピュセラはこういう人間だった。彼女は冗談があまり通じないのだ。特に俺に関しては……。

 嫌な予感は、現実になろうとしていた。


「私、遠回りしていたんですね」

「と、遠回りとは?」

「暗闇の中、闇雲に走り続ける私。でも決して目的地に着くことはない。当然です。(めし)いた瞳で何を映そうと言うのですか」

「えっと、ど、どうしたのかな?」

「詩的な表現ねピュセラ!」


 とうとうと語りだすピュセラ。

 完全に変なスイッチが入ってしまっている彼女に俺達もたじたじだ。


「――そう、私が歩んでいた道は全くの見当違いでした。本質を知らず、上辺だけの物に目を奪われがむしゃらに進む。そんな愚かな者に、どうして魔導の神が微笑むでしょうか」


「――けど、愚かなる私はこの日、漸く道を照らす光に出会えたのです」


「――光は道を指し示しました。それこそが魔導の道。私がこの日出会えた奇跡なのです!」


 瞳を瞑り、まるで祈るように語るピュセラ。

 やがてカッと瞳を開くと膝を折り、まるで神への愛を示すかのように両手を広げての決め台詞。


「そう、暗闇の中を照らす光! ――それはもちろんお師様だったのです!!」


 すんごいドヤ顔だった。


「や、やぁ……照れるなぁ。ハッハッハ!」

「感動巨編ね、流石ピュセラ。ちょっと言ってる意味は分からなかったけど」


 リアクションに困る。

 こういうテンションとノリが一番リアクションに困る。

 なんと言って良いのかまったく不明な、難易度の高いフリをされて困る俺は場当たり的な言葉しか出てこない。

 それは隣でありきたりな感想を述べるクシネも一緒だった。


「それで、どうすればその病気を克服する事ができるんでしょうか!?」

「えっ!?」

「あれほど明確に私の問題を推測なさったのです! もちろんその解決方法も既にご存知なんでしょう!?」


 まさかいきなり本題に入られると思っていなかった為、良い言い訳をまだ考えていなかった。

 縋るように隣のクシネを見つめたが、彼女は大きく頷くと凄い早さでピュセラの横へと移動する。


「フェイルが解決方法を知っているなんて、当たり前じゃないピュセラ。貴方の目の前に居る人を誰だと思っているいるの?」

「はっ! そ、そうでしたクシネさん! 私の目の前に居るのは偉大なる賢者フェイル=プロテイン! 神々に愛されし叡智の徒。全ての魔法を識り、全ての魔導を極めし全知なる存在! 危うく忘れる所でした!」

「そうよピュセラ! ならば当然、私達にもわかりやすく丁寧懇切に教えてくれるわ!」

「流石お師様です!」

「流石フェイルね!」


 くそぅ! くそぅ!

 もはや退路は断たれた。

 なんか二回目の気がするけど、とにかく退路が断たれた。

 今の俺は苦々しい表情を浮かべているのだろう。

 ピュセラに気付かれないように満面の笑みを浮かべるクシネがそれを証明していた。


「さぁ! どうすれば私は魔法を使えるようになるのでしょうかお師様!」

「私も気になるわフェイル!」


「さぁさぁ!」

「さぁさぁ!」



 グイグイと二人で俺を責め立てる。

 考えろフェイル。なんとかするんだ。なんとか辻褄の合う話を……。


「そ、それは…………」

「「それは!?」」


 助けてマッスル神様。この哀れなる下僕、フェイル=プロテインに道を指し示し下さい……一生のお願いです!

 人生何度か目になる一生のお願い。祈りに答える者がいない中――。


「――き、筋トレだ!!」


 とりあえず、いつも通り筋肉に逃げてみた。

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