表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プロテイン賢者が征くっ!  作者: 鹿角フェフ
第一章:伝説の幕開け
7/23

第六話:賢者、就職す

「お父様! お覚悟!!」

「えっ!? なんで!?」


 執務室の扉が開かれ、大きな壺を持ったピュセラが先陣を切って突入する。

 巨大な執務机で何やら書類にサインしていた壮年の男性は、突然の事態に目を丸くして呆けていた。


 彼がピュセラの父――ダンチ=フォン=エルネスティ伯爵その人だ。

 ここら一帯を治める伯爵様で、理不尽に娘から宣戦布告される哀れな人でもある。

 さも当然の様に後に続くクシネ。

 そのキリッとした表情からは一切の罪悪感が感じられない。

 最後に続き恐る恐る執務室に入ると、丁度ピュセラが伯爵に向かって壺を振り上げている所だった。


「お父様が諸悪の根源だと判明したからです! 私が魔法使いになることを認めて貰います!」

「えっ? ちょっと意味分からない。ってかそこの男は誰?」


 俺が視界に入ったのだろう。

 驚きの中にも警戒を浮かべながら素性を尋ねてくる。

 娘に家庭内暴力を振るわれるよりもまず不審人物に注意を払う辺り流石だ。


「あの方は私のお師様(おしさま)です!」

「あ、どうも。お師様です」

「なっ!?」


 ペコリと頭を下げて挨拶する。

 挨拶は大事だ。

 いろいろと礼儀をぶっ飛ばしているいる様な気がしなくもないが、最低限の挨拶だけはしておくべきだろう。

 もっとも、俺と伯爵がこの様な不本意な邂逅を果たしたのも全てはピュセラの猪突猛進な性格と、何よりそれを全力で煽ったクシネの裏切りが原因だ。

 できれば、伯爵とは友好的にしたいのだが……。


「ぴゅ、ピュセラちゃんはやらんぞこの不埒者がぁぁ!!」

「お師様になんて口をきくんですかこのお父様がー!」


 絶叫と共に振るわれる壺。

 ……どうやら、伯爵との出会いも俺が望むような物にはならないらしかった。


 ………

 ……

 …


「…………つまり。ピュセラちゃんはこの禄でもない詐欺師に助けられて、それで魔法使いになれるって誑かされてる訳だな」

「その通りです、旦那様」

「詐欺師じゃねぇよ。そんで裏切るなよクシネ」


 俺はこの世界に来て一つ理解したことがある。

 目の前の彼らと何か重要な話をするならピュセラを極力外すようにしなければいけないという事だ。

 ピュセラは基本的に人の話を聞かない。

 そしてこの二人もことピュセラとなると人の話を聞かなくなる。

 何か重要な話をしたり、相談事をしたりする場合はまずピュセラに席を外してもらう必要性があるのだ。

 ……と、言うわけで現在この場にピュセラはいない。

 いない、と言うのは語弊がある。

 彼女は現在ストライキ中なのだ。自室に篭もって鍵をかけてしまっている。

 どうやら諸悪の根源である伯爵が心を入れ替えて彼女が俺に師事する事を認めるまでの緊急措置らしい。

 結果、そもそもダンチ伯爵が事情を一切知らされていない事もあり、この様に会談の場が設けられている。


「しかしまぁ、ピュセラちゃんを助けた事、それに関しては素直に礼を言おう。我輩も何度か言っているんだがなかなか言う事を聞いてくれなくてな……」

「まず頭にかぶった壺をとれよ」


 ピュセラに被せられた壺、篭もった声で真剣に礼を述べるダンチ伯爵に威厳は全くない。

 だがある程度事情を説明できたのは良かった。

 そもそも、クシネが自らの保身の為に伯爵を売らなければこのような事態にならなかった気もするが、結果的オーライと言った所だろう。

 もちろん、伯爵の隣でソファーに座りながら紅茶を楽しんでいる彼女に反省の色は見えない。


 本当にコイツはメイドの自覚があるのだろうか?

 恐らくはこたえないだろうが、嫌味も込めて小言を言ってやろうとする。

 だがその前にようやく壺を頭から取った伯爵がジロジロと俺を睨みつけて来た。


「それで、貴様はなんだ? その、賢者か? 見るからに若そうだが本当に賢者なのか?」

「賢者です。まごうことなき賢者。マッスル神の下僕」


 話が俺の素性に向かうのはある種当然と言えるだろう。

 二人を見れば分かるようにピュセラは甘やかされまくっている。

 そんな愛娘についた虫なのだ。警戒するのも当然だろう。

 だが、俺とてマッスル神の下僕。

 偉大なる賢者フェイル=プロテインだ。

『ウルスラグナ』最も消えて欲しいプレイヤーランキングで堂々たる一位を取得した者として、胸を張ってその存在を主張する義務があった。


「ちなみに、フェイルは一切魔法を使えませんよ旦那様」

「え? じゃあなんで賢者とか言ってるの?」

「賢者だから魔法使えるとか、そう言う偏見はやめて下さい。人の可能性を狭めます」

「…………」

「…………」

「やっぱり詐欺師じゃねぇか! こんな奴にピュセラちゃんは任せられねぇよ!」

「任せる必要はないって言ってるんだよ! なんとかそのピュセラちゃんの誤解を解いてくれって言ってるの!」

「嫌に決まっているだろう! ピュセラちゃんに嫌われたらどうするのだ!」

「ふざけんな! 親としての威厳を見せろよ!」


 話が通じてねぇ。

 俺が求めている物とこいつらが求めている物は一緒のはずだ。

 だがどうしてか協力はできず、事態は悪化するばかり。

 ピュセラを甘やかしまくっているせいか、ピュセラに強く言う事を拒否するダンチ伯爵に貴族としての威厳は全くない。

 それどころかクッキーを頬張るクシネをキリッと睨みつけると、彼女に責任転嫁をし始める。


「クシネ! お前はどうなのだ!? ちゃんとピュセラちゃんにこの男の事を説明したのか!?」

「説明しようとしましたが、なんだか泣きそうな顔をされて心が痛んだので旦那様にすべての罪をなすりつけました」

「全部お前のせいじゃないか! 今月10%減給!」

「そんなご無体な!」


 こいつら使えねぇ……。

 どうやらお互い責任をなすりつけあうばかりで一向に解決の兆しが見えない。

 だがそれでは困る。

 事実問題としてこのまま放置すれば俺がピュセラの師匠として魔法を教える事が決定してしまうのだ。

 それはこの二人としても望むことではないだろうし、俺も同意見だ。


「とにかく、俺としてもピュセラに魔法を教える事なんて到底無理だし。なんとかして欲しいんだよ。このままじゃちょっと可哀想で……」


 話を強引に進める。

 結局、二人がピュセラに強く出られないのも偏にその愛ゆえだ。

 ならばそこを上手くついてやれば良い、つまり、ピュセラが可哀想だからなんとかしないと駄目ですよって感じだ。


「むぅ、しかしだな……」

「そこはなかなか難しい問題なのよフェイル」

「ん? どういう事?」


 短いながらも強烈に脳に刻み込まれた二人の性格。

 当然の俺の言葉に乗ってくるかと思われたが、何故か今までに見なかった苦い顔で渋られる。

 ……何があるのだろうか?

 二人の件が理解できない俺に対して、ダンチ伯爵はやや真剣な面持ちでその理由を話し始める。


「ピュセラちゃんが魔法を使えないのは知っておるだろう? 本当は聞き分けの良いあの子が周りの反対を押し切って森へ修行に行くのも偏に魔法を使いたいが為なのだ……」

「けど、それなら家でも練習出来るんじゃないか?」

「今まで何人か家庭教師を付けていたのだがな、そのことごとくが匙を投げおった。それだけならまだしも最後の一人がピュセラちゃんに向かって『一生魔法が使えない』なんて言い出しから話が余計拗れておるのだよ」

「つまり、意地になってるって事か……」

「最近のあの子の落ち込みようは結構酷かったの。そんな中貴方が現れたでしょ? だから、私達としてもあまり無理に彼女の願いを退ける事が出来ないのよ……」


 どうやらただ甘やかしている、と言う訳では無かったようだ。

 彼女の悩みは相当根深いらしい。

 恐らくここに至るまで相当な努力をしてきたはずだ。

 不意に以前彼女に向かって告げた言葉――黒歴史が思い返される。

 ……くそっ! もう少し言葉を選ぶべきだった。

 あれでは舞い上がるのも当然だろうが!


「けどな、俺が魔法を使えないってのは本当だぞ? ただ、ピュセラは俺の"観察"だとちゃんと見習い魔法使いって出てたから、彼女に合う教師がいれば必ず魔法は使えるようになると思うんだけどな」


 後悔はいつだって後からやってくる。

 できることはいつだって限られている。だが、その中でも出来る限りの事はやりたかった。

 正直、異世界に転移してまだ右も左も分からぬ中で俺の力、"観察"スキルについて伝えるのは迂闊な行動だと言える。

 どの様な仕組みになっているのか分からないのだ。

 だが、そんな事は関係ない。

 俺が出来る限りの事をすると決めたのだ。ならばそれに向かって突き進むだけ。

 問題が起こったらその時に考えればいいことだ。


「……ん? 待て、貴様、そんな事が分かるのか?」

「一応これでも賢者認定されてるからな。――霊験あらたかなる霊峰エーネルス山に座する空中大賢院。八の試練と三の試問に全て答え賢者の称号を得ただけの能力は持っているつもりだ」


 ちなみにこれ『ウルスラグナ』wikiさんが殆ど答えてくれたんだけどな。

 本当にwikiさん様様だ。

 もっとも、今はそれを言う場面ではないし、伝えた所で理解できるとも思えなかった。


「そうか、ならばこそ惜しいな。詐欺師とは言え、あれほどなついておったのだ。貴様が教師についてくれればピュセラちゃんも望む形で魔法を使えるようになったろうに……」

「悪いな……」

「いやいや、謝ることはない。むしろ感謝しておる。詐欺師とは言え賢者殿が保証しておるのだ。ピュセラちゃんはきっと偉大な魔法使いになれるだろうさ」


 自然と謝罪の言葉が漏れる。

 フェイル=プロテインとして謝ったのは初めてではないだろうか? 少なくとも『ウルスラグナ』において謝罪した記憶はない。

 それほど俺もこの件に心を痛めていると言う事か、なんとか彼女の力になりたかった……。


「ピュセラちゃんへの説得は任せてくれ。貴様への援助や仕事の斡旋も受けよう。さぁ、クシネ。ピュセラちゃんを呼んできてくれ。説得は我輩がしよう……」

「かしこまりました……」


 初めてメイドらしい態度を見せたクシネは、静かにお辞儀をすると音も立てずに退室する。

 ピュセラを呼びに行くのか……。

 この場には俺とダンチ伯爵しかいない。

 彼の表情からは隠せぬ苦渋が見て取れる。

 きっと相当な葛藤があるのだろう、本当ならば彼もこんな事を言いたくは無いはずだ。

 重い空気がやけに居心地悪く感じられる。


「その、聞くのもあれだと思うけど、ピュセラの母親は?」

「ちょっとした事情でな。家から出て行きおったのだ……男で育てて甘やかしてしまったんだろうなぁ。あの子には笑顔のままで居て欲しかったが、そろそろ諦める事も教えなくてはならん……」


 気分を変えるように尋ねた質問だったが、言った瞬間しまった! と後悔する。

 今の今まで出てこなかったのだ、その可能性は考慮してしかるべきだった。

 歯噛みしながら己を呪う。

 なんて様だフェイル=プロテイン。それでも賢者か!


「貴様は……妻帯者かね?」

「いや、独身だけど……」

「そうか、子供を育てるのは大変だなぁ、フェイル君」


 その言葉はやけに悲しげに聞こえた。

 子を持ったことが無い俺には到底分からぬ苦悩が、そこには確かに存在していた……。


 ………

 ……

 …


「お父様! 考えを改めてくれましたか!」


 やがて、決断の時は訪れる。

 重い空気を振り払うかの様なピュセラの明るい声に少しだけ救われる。

 だが、この後の事を想うと自然と気分は沈んでいった。


「その件だが、ピュセラちゃん。そこに座りなさい。パパから大事な話があるんだ」

「はい!」


 ピュセラは丁度俺の隣にあるソファーに座り込む。

 目の前にはダンチ伯爵、その隣にはメイドのクシネがしれっと座っている。

 クシネに関してはいろいろと言いたい事もあったが、今はその時ではない。

 俺だって空気を読める男だ。

 今は、ダンチ伯爵とピュセラの、家族の時間だった。


「フェイル君とも話たんだがね、彼がピュセラちゃんの家庭教師になるという件だが――」


 やがて、ダンチ伯爵が重い口を開く。

 辛いのだろう、その表情は苦悩に満ち、同時にピュセラの事を心から想っているであろう事が見て取れる。

 悪い、ダンチ伯爵。嫌な役を任せてしまう。

 ……が。


「もちろん許可してくれますよね!? よかった! もし駄目ならお父様とは絶交する所でした!」

「ぜっ、こう……!?」

「はい! 絶交です! お夕飯の時もお話しません!」

「なんだと……!?」

「おい、伯爵」


 ダンチ伯爵愕然。

 おいおいおいおい。待て待て待て待て。

 お前もか? お前もなのか!?


「いや、待て、落ち着くんだ。ピュセラちゃんの為にもここは……」

「もしかして、やっぱりまだ駄目なんですか?」

「その、ピュセラちゃん。フェイル殿にも事情があってだな」


 ダンチ伯爵は「うぐぐ」と唸りながら葛藤している。

 頑張れ伯爵! さっきまですんごいいい感じの雰囲気出てたじゃん! 超シリアスパートだったじゃん!

 ここで手のひら返したらあれだよ、クシネと同じ展開だよ?

 天丼は時と場合を選ばないとくどいだけだよ伯爵!

 必死の思いを込めてダンチ伯爵を視線で励ます。

 その思いが通じたのか、何とか父としての威厳をかき集めたであろう彼は、ピュセラに向かって決心した表情で決断の言葉を述べようとし……。


「お願いします。お父様――」

「ぐあっ!」


 ぶっ倒れた。


「おい! 伯爵! 伯爵!」

「駄目ねフェイル。これもう完全にオチてるわ」


 上目遣いで小首を傾げるピュセラに一瞬で撃沈したダンチ伯爵。

 彼は椅子から転げ落ちると、ぴくぴくと痙攣している。

 今の今まで様子を見ていたクシネが若干諦めた様子で彼の敗北を告げる。

 弱すぎるぞ! そんなんだからピュセラがこんな風に育つんだろうが!

 俺が口を挟む間も無く事態は進んでいく。

 これはいよいよ俺から言わなければならないかもしれない。

 俺からの言葉だとピュセラが曲解したり信じなかったり、試練だと勘違いしたりダンチが黒幕だと決めつけたりする可能性が十分にあるのだが……。

 それでも、俺が言わなければならないだろう。

 すまない、ピュセラ。勘違いさせてしまった俺を許してくれ!


「あのさ、ピュセラ――」

「はっはっは! そんなに心配する事はないよピュセラちゃん。パパがピュセラちゃんが悲しむ様な事を今までしたことがあったかな?」

「もちろん無いです! お父様!」

「そうだろう、そうだろう、じゃあ絶交はしなくてもいいよね?」

「おいコラ伯爵。ふざけんな」



 だが、俺が彼女に拒否の言葉を告げるより早く、ピュセラ側に寝返ったダンチ伯爵が俺の言葉を妨害する。

 思わず暴言を吐いてしまうが、件のお貴族様は俺の事などどうでもよいらしく、愛娘との心あたたまる会話に勤しんでいる。

 つまり、この駄目なオヤジは全ての責任を放り投げて娘を甘やかすことにしたのだ。


「さぁ、ピュセラちゃん。話も終わったし明日からフェイル君の元で頑張って修行に励みなさい」

「わぁ! あ、ありがとうございますお父様!」


 ここは完全にアウェーだった。俺の味方はどうやら誰もいないらしい。

 本人の意向を無視して俺の就職が決まる中、ピュセラは父親から許可をもらった事に感極まったのかダンチ伯爵に駆け寄るとその胸に飛び込む。


「ははは! こらこら、ピュセラちゃんは甘えん坊さんだな!」

「えへへ!」


 甘やかされてるなぁ……。

 ニコニコと父親に甘える娘とデレデレする父親。

 俺は異世界に転移してから今まで全ての問題がこの男にある事を再度理解すると、いつか何らかの形で嫌がらせしてやろうと固く決意する。


「おっと、もうそうは言ってられないかもしれないな!」

「……どうしてですか?」


 不意にダンチ伯爵がピュセラを引き離し、キリッと表情を変えて語りだす。

 ピュセラは当然、俺もその変化に戸惑い思わず凝視してしまう。

 やがて彼は、コホンと小さく咳き込むと大きく頷き。



「だってピュセラちゃんはもう――魔法使いなんだからさ!」



 特大級の爆弾を落としやがった。


「えへへへー!」

「良かったわねピュセ――魔法使いピュセラ。私も嬉しいわ!」

「クシネも大好き!」

「私もよ!」


 どいつもこいつも無茶ぶりしてんじゃねぇ!

 今度はクシネに抱きつくピュセラ、冷ややかなイメージが強いクシネだが、今はその顔に満面の笑みを浮かべてピュセラを抱き返している。

 本当に、お前ら駄目な奴だなぁ!


「お師様もこれから宜しくお願い致します! 不肖このピュセラ。お師様の一番弟子としてその名に恥じない成果を必ずや出してみせます!」

「お、おう……」


 くるりと踵を返して、何やら所信表明をしてくださるピュセラ。

 高まりに高まったそのテンションに俺も思わず返事するしかない。


「あっ! いけない! 早速お師様のお部屋を用意しなくちゃ!」

「それなら私がするわよピュセラ?」

「ダメですクシネさん! これは私にかせられた重大な使命なのです! 他ならぬ、偉大なる賢者フェイル=プロテインの一番弟子――」



「――魔法使い、ピュセラ=エルネスティの!!!」



 ドヤァ……。

 ピュセラさん、本日最高のドヤ顔です。

 ああ、大変な事になった。本当に大変な事になった。

 頭を抱えながらこの先の事を考える。

 どうしよう……。ピュセラの事、どうしよう……。

 何ら良い解決方法が浮かばない中、無常にも事態は進展する。


「では、行ってまいります!!」

「頑張るんだよピュセラちゃん」

「分からない事があったら何でも聞くのよー」


 静寂が訪れた。

 誰かが「ふぅ」と息をつく音が漏れる。

 俺が愕然とする中、ダンチ伯爵とクシネはこちらにくるりと振り向く。


「と、言うわけで宜しくな。フェイル君」

「期待しているわ、フェイル」


「ハードル全力で挙げた上にぶん投げてんじゃねぇよ!」


 き、気がついたら全ての責任を押し付けられていた。

 華麗なまでのその手腕に戦慄しながら、ピュセラの師匠――家庭教師としての仕事は唐突に決定したのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ