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プロテイン賢者が征くっ!  作者: 鹿角フェフ
第一章:伝説の幕開け

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第二十話:過去との決別(前編)

 ピュセラの指導も軌道にのり、今はいたって平穏な日常を甘受している。

 なんやかんやでいろいろトラブルに巻き込まれたが、それも過去の出来事。

 今ではお金も少々貯まってきてこうやって休日にまったり自室でくつろぐことだって出来てしまう。


「そういえばさ、クシネに聞きたいことがあるんだけど」

「何よ改まっちゃって?」


 あてがわれた部屋のベッドにどかりと座る俺、その目の前にはクシネが椅子に座っている。

 コイツは現在伯爵家に迷惑をかけたとして外出禁止令が出されている。

 その為に休日でも暇だからと俺の部屋に遊びに来ているのだ。

 だからと言って特別二人で何かをする予定もない俺は、たっての疑問を彼女にぶつけてみることにする。


「クシネってここのメイドでしょ? 実家ってあるの?」

「実家ね……あるわ」

「ふーん。どんなところだったの?」


 クシネはダンチ伯爵の家に住み込みで働いているメイドだ。

 ただコイツが普段家に帰ったりしているところを見た所がない。

 ちなみに友達とも遊んでいる雰囲気がない。

 そのため彼女のプライベートが少しだけ気になってしまったゆえの質問だ。


「私の生まれたところはね。魔王軍によって無くなってしまったのよ……」


 だが、唐突に告げられた言葉は俺が考えていた以上に残酷なものだった。

 ……ってかあれ?


「ちょっとまって。この世界って魔王いたの?」


 なんか唐突に出てきた気がするなぁ、魔王。

 確かに剣と魔法のファンタジー世界なら居てもおかしくないけど。


「居るに決まってるじゃない。……ああ、貴方は遠い所から来たものね、知らなくて当然かしら」


 そういうものなのか。平和そうな雰囲気に流されていたけど確かにそうだよな。

 外に出れば魔物だっている。冒険者って職業も存在している。

 ならば魔王が居て、当たり前のように死と隣り合わせであってもおかしくないはずだ。

 自分がステータスの限界を超えた強さを持っている為にそこら辺の感覚が鈍っていた。

 迂闊な自分が少しだけ恨めしいぜ。


「そうだったのか。なんか話しづらいこと聞いて悪かったな」


「いいのよ別に。もう済んだことだし……。そうね、でも聞いてくれるかしら? 時々誰かにあの頃の話を聞いて欲しくなる時があるのよ」


「俺で良ければ」


「ふふ、ありがと。……そうだ、せっかくだし飲み物用意してくるわね」


 軽く微笑み席を立つクシネ。

 部屋から出る際に見た表情は、俺の気のせいでなければとても寂しそうなものだった。


 ………

 ……

 …


 テーブルにはポットとカップが二つ。

 湯気立つ紅茶がなみなみと淹れられているが、その温かさと裏腹に部屋の温度はやけに寒く感じられる。

 カチャカチャとカップをスプーンでかき混ぜる音だけが静かな室内に流れ、クシネは何かを思いだすように揺れる紅茶の湖面を眺め、やがて語り出す。


「私の居た村はね、ここから歩いて一週間ほどの距離かしら? 山の麓に作られた小さな村だったの」


 静かに語られるクシネの過去。俺はただ聞くことしか出来ない。

 それだけが今の俺に許された行いだ。


「生業は主に林業と狩猟。山林で得られた木や野生動物を行商人に売って暮らす。そんな平凡な生活を送っていたわ」


 ふぅと息を吐き、クシネが紅茶のカップに口をつける。

 こくりと喉がなり、やがて記憶だけとなってしまった彼女の故郷、その在りし日が続く。


「小さい頃はつまらない生活だと思っていたんだけど、その平和が何よりも大切なことだって気づくのは、いつも取り返しがつかなくなってからなのよね」


「好きだったんだな。村のこと」


「……あの日までは、ね」


 悲しそうに微笑むクシネ。あの日とはクシネの村が地図から消えた日。

 クシネがひとりぼっちになった日……か。


「ねぇフェイル。貴方はこんな話を知っているかしら?」


 先程まで自分の村の話を一方的に語るだけだったが、何やら思う所があったらしくカップを両手で持ちながら俺に視線を合わせてくる。


「『山林は山火事によって新しく生まれ変わる』って話を」


 その話は少しだけ聞いたことがある。

 人には人のルールがあるように、森には森のルールがある。

 一見すると理解できない非生産的な現象でも自然界では重要な事があったりするのだ。


 山火事もその一つ。

 定期的に山火事が起こることによって低木が燃やされ灰になり、それが栄養となって新たな木々の礎となるんだっけか?

 詳しくは知らないがその様な感じだったと思う。なんにせよ山火事は山林が持つ一種のサイクルだ。

 猫姫ちゃんに聞かせてドヤる為に覚えた雑学によればそんな感じだったと記憶している。

 もっとも、実際聞かせた猫姫ちゃんはくっそつまらなそうな表情をしていたが。


 しかしなんで唐突に山火事の話が出てきたんだ?

 クシネの住んでいた村は確かに山の麓にあるから関係あるっちゃあるけど……。



「詳しくはないけど、山林と山火事の話はちらっと聞いたことがあるな。けどその話がどうかしたのか?」


 俺の困惑が通じたのか、クシネは悲しそうな表情に軽い苦笑いを浮かべると「気が早いわよ」とその真意を語り始める。


「当時の私もそうだったの。あんまり詳しくはなかったけど、そのことだけ記憶に残っていて……だから思ったのよ。ちょっと山に火を放ってみようって」


「…………ん?」


 嫌な予感がする。

 唐突にぶっ込んできやがった。

 まさか、まさかな。シリアルパートさん、そんなまさかはないよな?


「当時の私はバイタリチィ溢れる少女だったの。そして好きな言葉は『王者は顧みない』。ふふふ、思い立ってから行動に移すまで本当に早かった」


「うん……うん?」


 好きな言葉からしてもはや絶望しか無い。

 なんだよそれ、どこの世紀末帝王だ? 何をこじらせたらそんな風になるんだよ。

 中学生の頃の俺でももう少し大人しいぞ?


 ってかサラッと言ったけど山に火を放つな。


「燃え広がる山はとても綺麗だったっわ。乾燥していたこともあったのね。すごい勢いで燃えて、気がついた時はもう手遅れだった。山中に火が燃え広がっていたの。それどころか風に流されて村にまで火の手が……」


「あの、ちょっと、クシネさん?」


 と言うかおかしくないですかクシネさん? 貴方の言い分だとなんだかちょっとアレな感じですよ?

 俺の困惑を知ってか知らずか、と言うか確実に知りつつ、クシネは会話を続ける。

 すでにカップはテーブルに置かれ、彼女の拳は胸の前でぐっと握りこまれている。


「村の位置が山の本当に麓だったのと時期が冬だったのが致命的だったわ。家が密集していたのも不味かった。あれよあれよという間に燃え広がり、遠く山の中腹で火を放ったポイントからでも村の人たちの怒号が聞こえてきたの」


 俺はこのふざけた空気をどうにかしたくて、熱弁する彼女のクールダウンをはかる。

 何度か手を振ったり合いの手を入れたりしてクシネの話を遮ろうとするが、なんだか一人でめちゃくちゃ盛り上がっている彼女は一向に話を聞こうとしない。


「それで燃え広がる村を見て私思ったの。あっ、これヤバイあれだって。なんとか誤魔化さなきゃって、社会的に殺されるって」


「あの、魔王軍は? そろそろ出てくるんですよね? 大丈夫ですよね?」


「その時、私に天啓が降りたわ。それはまさに神様のお告げ。その後は早かった、まず服を適度に破いて木々で傷ついた感出して、あとは泥とかも全身につけてね」


 プロの犯行だ。一切隙が無い。コイツ手慣れてやがる!


「それで村に戻って開口一番『魔王軍がやってきた!』って。ふふふ、必死だったのね私」


「ちょおおおおおいい! お前何やってるの? 魔王軍関係ないだろ!? ってかお前が村を燃やしたんだろうが!!」


 魔王軍出てきた! ここで魔王軍出てきた!

 しかも完全に魔王軍の人たちになすりつけた! 魔王軍の人たちごめんなさい!


「幸い私が村の危機を命からがら伝えたから死人は出なかった。本当に良かった。魔王軍に襲われて故郷は失われたけど、誰も死ななかったんだから……」


「徹頭徹尾魔王軍出てきてねぇじゃねぇか! お前が燃やして誤魔化したんだろう!?」


 目の前の犯罪者はいつの間にか取り出したハンカチで目元を抑えている。

 もちろん泣いている様子など何処にもない。完全なるパフォーマンスだ。役になりきっている。


「焼けた村の後には人と絶望しか残らなかった。皆泣いていたわ。そうしてどうしてこんな事になったのかと嘆き怒り始めたのよ」


 そりゃ怒るだろうよ。


「だから言ってやったの。諦めてどうするんだ! って、私がお金稼いでくる! って、そうして村を復興しよう! って」


 ほんと、コイツは世渡りが上手だなぁ。

 もはや俺は突っ込みをする気も失せ始め、適当に彼女の話を聞くマシーンと化していた。


「こうして、私は故郷を離れて旅に出たのよ……」


「明らかに追求の手を逃れての逃走だろ!? 責任取れよ! ほんともう、村の人達に謝れよ!」


「いやよ! 怒られるもの! 私は怒られたくないのよ!! そ、それに毎月お小遣いから仕送りしてるから多分大丈夫なはずだわ!」


「めっちゃ泣いてたって言っただろ!? おい、村の人どうするんだよ! ってか大丈夫なのか!?」


 村から焼け出されたんだよな? 無一文だよな?

 どうするんだ? いくらなんでも復興はキツイんじゃないか? 最悪死人が出てるぞ!


「一応お礼の手紙は来るから生きてはいるんじゃないかしら? 生きていたらどうとでもなるでしょ? そこまで責任持てないわよ」


「こ、こいつめ……」


「紅茶おいしー」


 ぐびぐびっとカップの中身を飲み干し、ぷはーっと豪快に息を吐くクシネ。

 反省という物が一切存在していない。


「いくぞ……」


 その態度に俺は一つの決意をした。

 行動は早い方がいいとばかりに立ち上がり、腕を組みながらクシネの前に仁王立ちする。

 もはやこの傍若無人ガールを放っておく訳にはいかない。聞いてしまった以上こいつに落とし前をつけさせる義務が俺にはあるだろう。


「へ? どこによ?」


「お前の故郷に謝りに行くって言ってるんだよ!!」


 コイツを謝らせるのだ。迷惑をかけた皆さんに。

 そうしないと村の人達が不憫でならない。ほんと、不憫でならない。


「は? なんでよ、行くわけないじゃない! ってかなんでそんなことしなきゃいけないのよ! 嫌よ、フェイル一人で行って来なさいよ!」


「馬鹿野郎! お前が行かなかったら誰が行くんだよ! 今まで『俺の生き方ってちょっとロックかも』とか調子に乗っていた自分が恥ずかしいわ。どんな人生送ってんだよお前! ほら、準備しろ!」


「いやぁぁ! 後生よフェイル! それだけは許して! 怒られたくない!!」


 その場でジタバタと暴れ始めるクシネの腕を取り、無理やり引きずる。

 マッスル神に愛された俺の筋力だ、クシネ程度では抗う術はないだろう。


 もはや慈悲はなし。向かうは彼女の生まれ故郷の村……があった場所だ。

 今もあるかどうか分からないけど。


「問答無用!!」


「この鬼! 悪魔! フェイルぅぅぅぅ!!!」


 そういえばクシネってば外出禁止令が出ていたよな……。

 ダメなメイドを引きずりながらふとそんなことを思い出したが、さして重要でもないのですぐさま記憶から消すことにした。

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