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プロテイン賢者が征くっ!  作者: 鹿角フェフ
第一章:伝説の幕開け
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第十話:桃から生まれた桃太郎

 ピュセラの訓練は日毎にレベルアップしている。

 筋肉痛の楽しみにも慣れ、基礎体力がしっかりと付いてきた彼女は現在簡単な型の練習に入っている。

 それはパンチやキックと言った簡単なものであったが、反復練習することによって鋭さが培われ、幾万に練られた経験は必ずや彼女の助けとなる。


「ふっ……はぁっ!!」


 いまだ愛らしさが残る顔を薄っすらと上気させ、彼女は一心不乱に突きの型を繰り返す。

 かれこれもう一時間は同じ動作を繰り返している。

 持ち上げるダンベルやバーベルの重さも着実に上がってきている。

 目に見えて出る成果は俺達の心を満足感で満たしてくれた。


「おーっ! なかなかに力付いてきたんじゃないか?」

「はいっ! これもお師様のお陰です!」

「うんうん。どうやらピュセラにも順調にマッスル神が微笑んでいるようだね」

「ピュセラ頑張ってるものね。私も嬉しいわ」

「はい! そうなんです!」


 ここ最近のピュセラはいつも以上に明るさに満ちあふれている。

 今までは魔法の事を思い気分を落ち込ませる事もあった彼女だったが、今ではその様な態度を見ることもない。

 確実に現れる成果が、彼女の自信をしっかりと支えていた。

 着々と進歩する彼女の筋力に満足しながら訓練を見守っていると、課したノルマを果たしたのか額に汗を浮かべながら彼女が戻ってくる。

 その表情は微かに緊張に包まれている。

 なんだろう? と俺が尋ねるよりも、彼女の方が早かった。


「えっと、その……お師様!」

「ん? 何かな?」

「そろそろ私も次のステップに行っても良い頃ではないでしょうか!?」

「ふーむ。確かに基礎体力は付いたし。特に問題はないけど……」


 次のステップか……。

 何をさせればいいんだろうか? ダンベルもやったしバーベルもやってる。

 トレーニングマシーンでも作ってもらってそれで更に特定の筋肉を集中的に鍛えるか?

 ピュセラの提案に少し思案していると、何時ものようにクシネが近寄ってきて小声で語りかけてくる。


『フェイル。フェイル!』

『何……?』

『確かに私もそろそろ次のステップ教えてあげてもいいんじゃないかって思うんだけど。貴方前に考えがあるって言っていたわよね? その辺りどうなっているの?』

『それもそうだな……まぁ、見ておけ』


 やっべ、そう言えば忘れていた。

 あまりにもピュセラがアスリートの素質を備えている為にすっかりと記憶の彼方に出かけてしまっていたが、彼女は魔法使いになりたいんだった。

 本音を言ってしまうとクシネがまた怒り出すため適当な言葉を並べると、早速ピュセラの今の状態を確認してみる。

 ちなみに、今回は彼女にも俺の能力を伝えておく。

 いろいろと調べたが、俺が持つ"観察"のスキルに関しては伝えても問題ないと判明した。詳細を調べる能力は結構希少らしいのだが、全くいないと言うわけではない。

 その為、賢者としての箔付けの為にも信頼のおける人物には伝えることにしたのだ。

 もちろんピュセラは信頼の置ける人物だ。

 うっかりとぶっちゃけてしまう可能性がなきにしもあらずだが……。まぁその時はその時だろう。運が悪かったと諦めばいい。


「ピュセラ。実はね、まだ君には教えてなかったけど。俺には一つの能力があってね。相手の才能や今の力量を見抜ける事ができるんだ」

「ほ、本当でしょうかお師様!? す、凄い能力です!」

「ピュセラは今まで頑張ってきたね。だからさ、見た目や君自身が思っている以上に変化が起きているんじゃないか? そう俺は思うんだよ」

「つ、つまりその特殊なスキルで私の魔法がどれほど上達したか測ってくれるのですね!」

「魔法? ん、んっと、まぁそうだね。とりあえず、今のピュセラの力を見たいと思う。ちょっと力を抜いてそこに立ってくれるかな?」

「分かりました!!」

「楽しみね! ちゃんとどうなったか私達にも分かるように伝えるのよ」


 期待に満ち溢れた瞳でじぃっと俺を見つめてくるピュセラ。

 なんだかちょっと気恥ずかしい気持ちもあるが、そうも言ってられない。

 さて、鬼が出るか蛇が出るか……。


「え、えへへへ。恥ずかしいです」


 見つめすぎたのかテレテレと恥ずかしがる彼女の能力を、早速測ってみた。


―――――――――――――――――――

ピュセラ・エルネスティ

【職業】 見習い武闘家 *new!

【称号】 筋トレ大好き *new!

HP 250/250 *up!

MP 30/30

筋力  25 *up!

強靭力 20 *up!

魔力  10

知能  50

素早さ 19 *up!

技量  21 *up!

―――――――――――――――――――


「え、えらいこっちゃ…………」

「「えっ!?」」


 思わず口に出してしまい、しまったとばかりに口を塞ぐ。

 だが、どうやら既に二人にはちゃんと聞こえてしまったようで、驚いた表情からも完全に言い逃れは出来ない。


「……………」

「「…………」」


 やばい、やばい、やばい、やばい!

 どうする俺!? どうやってごまかす!? 何か、何かを言わないと!

 やっべ、何も思い付かないや!


「……よし! 筋トレを再開しようか!」


「ちょっと待ちなさいフェイル! 貴方今なんて言ったのよ!?」

「えらいこっちゃって言いました! お師様、確かにえらいこっちゃって言いました!」

「気のせいだよ、そんなえらいこっちゃな事は起きていない。君達は何を言っているんだね?」

「じゃあしっかりと教えなさいよ! なんで無言で筋トレに戻ろうとしたの!? ピュセラの能力はどうなってたのよ!!」

お師様! 私は一体どうなっていたのでしょうか!? もしかして、何か良からぬ事が起きたのでしょうか!?」

「いやいやいや、能力はアレだよ。普通だよ。修行通りのアレがソレだったよ」


 流石にごまかせなかったようで、二人は大慌てで俺に詰め寄ってくる。

 俺の視線は先程から泳ぎっぱなしだ。この事実がバレたら大変なことになる。

 なんと仕手でも隠蔽しなくてはならない。

 俺は不断の意志を持って彼女達の言葉を否定し続ける。


「じゃあ何!? も、もしかして"見習い魔法使い"の項目に変化があったの!?」

「え? すいません。ちょっと良く聞こえませんでした」

「ちゃんと聞こえてるでしょう!!」

「ど、どうしようクシネさん。私、私、変になっちゃったみたいです!」

「く、くぅ! フェイル以外でステータスや職業を正確に判別出来るとなると限られた人しか無理だし! この役立たず!」


 俺と同じだけピュセラのステータスを見ようとすれば、相当高位の能力者が必要になってくる。

 もちろん、門番程度のスキルでは手も足も出ないだろう。

 プライバシーに配慮がなされているのか? この世界では微妙にスキルの重要度が違う所が幸運だった。

 誰でもステータスを見られるのなら今頃俺は無職になっていただろう。


「どうしよう! どうしよう!」

「どうしましょう! ピュセラがあんなに頑張ってたのに! フェイルに任せるんじゃなかった!」


 二人はオロオロと慌てふためいている。

 ピュセラは愚かクシネまで瞳に涙を浮かべている。

 ……ったく。この程度で狼狽えやがって。

 俺は大きく溜め息をつくと、これでもかと空気を吸い込み声を張り上げる準備をする。

 もちろん、罪悪感で死にそうになったからじゃない……多分。


「落ち着き給え!!」

「お、お師様!」

「フェイル!」


 大声に驚いた二人はビクッっと反応するとこちらに向き直る。

 その瞳に浮かんだ涙が痛々しい。

 俺は彼女達の不安を消し去るように、言葉を紡ぐ。


「とある昔話をしよう……」

「「昔話!?」」


 そう、彼女達には知っておいて欲しかった。

 この話を……。

 自らの身を犠牲にしてまで姫を助けた、あの勇ましい男の話を――。


「昔々、ある所におじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは山へしば刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行く毎日でした。ある日のことです。おばあさんが川で洗濯をしていると川上からどんぶらこと桃が――」


 ◇   ◇   ◇


「――こうして、桃太郎は平和に暮らしましたとさ、めでたしめでたし。以上です」


 静寂が三人を包み込む。

 二人の瞳に涙は無い。どうやら俺の目論見は成功したようだ。


「えっ? なんで今そんな話をしたの?」

「面白かったです!!」

「ふっ、わからないか……?」


 俺にだって分からない。

 とりあえず良い話をすればなんか誤魔化せるだろうと思ったんだが、思いのほかネタが浮かんでこなかったんだ。

 故の桃太郎。

 完全に脈絡もない話だったがピュセラさんの表情を見る限りどうやら上手く行ったらしい。

 後は適当にクシナを誤魔化してこの場を凌げば時間は稼げる。

 そう……思ったのだが――。


「そっか、そういうことだったんですねお師様!!」

「えっ!?」


 感動と興奮に包まれた声はピュセラの物だった。

 チラリと彼女の表情を伺うと、何やら真剣な表情で何度も頷いている。

 ……あかん。これ変なスイッチ入ってる。


「鬼は……私の中に巣食う現状に甘んじる心だったのですね!」


 なんかよく分からない事を言い出しましたよ。


「確かにお師様であれば私の能力や才能を余す所無く看破する事が出来ます。ですが、ですがそれでは駄目だったのです! そうやって変化を確認して、その結果に甘んじて何になるのですか! 信じるべき事は、既にこの重量が増えたダンベルが示しているじゃないですか!」


 とりあえず、俺には全く理解が出来なかったが本人が楽しそうならそれで問題ない。

 俺も彼女の話に乗ってやる。それも師匠の務めだ。


「ふっ、よくわかったな。流石俺の――一番弟子だ!!!!」

「はいっ!」

「ひ、酷すぎる……」


 クシネを無視しながらピュセラの肩に手を置く。次いで彼女に教えるように空の適当な場所を指す。

 両の手を胸の前で握り、祈るような姿勢のピュセラは感極まった様子で何度も何度も頷いていた。

 やがて彼女の感動は最高に達する。くるりと向き直り、深々と俺にお辞儀をしだした。


「お師様。ピュセラは今日一つ強くなりました。私はまだまだ桃から生まれたばかりだったのですね。キジも、猿も、犬すら味方にしていない旅だったばかりの桃太郎」

「う、うん!」

「けど、私はこんな所で立ち止まりません。この程度のダンベル重量で満足しません。だって、だって……私の周りには――」



「こんなに素敵なきび団子があるんですもの!!」



「…………せやな!!」


 とりあえず相槌を打っておこう。


「え? ちょっと待って。私達の立ち位置ってきび団子なの?」

「せやで」


 クシネももう少し環境になれると言う事を覚えたほうがいい。

 俺達にはどうしようもないのだ。

 ただ流されるだけ、それがピュセラと仲良く楽しく過ごすコツだ。


「お師様。ご面倒をお掛けしました。ピュセラはまた日々の修行に邁進したいと思います! 今後共どうぞご指導ご鞭撻お願い致します!」

「う、うん! 俺もピュセラが立派な魔法使いになれるように頑張るよ!」


 どうやら俺はピュセラの脳内にある変なスイッチをまたオンにしてしまったらしい。

 だがその責任を取る術はどこにもない。

 基本放置が方針なので、これからもピュセラの成長を暖かく見守って上げたいと思う。

 決して責任放棄ではない……多分。


「はい! ふふふっ――」

「ど、どうしたの?」


 突然くすくすと笑い出すピュセラ。

 ビクリと反応しながら、彼女の様子を窺う。

 大丈夫だよな? おかしくなってないよな!?


「なんだかお師様から弟子としての心得を聞いたらまた少し強くなったみたいで。なんだか体中に力がみなぎってきちゃいました! まさしく、きび団子から力を貰ったって事ですよね!」


 だが、俺の懸念とは別の問題が彼女の一言によって噴出する。

 慌てて能力を発動する。

 ピュセラに了解を得る事も忘れ、一方的に彼女のステータスを看破したその結果は……。


―――――――――――――――――――

ピュセラ・エルネスティ

【職業】 ()()武闘家 *congratulation!

【称号】 筋トレ大好き

HP 250/250

MP 30/30

筋力  25

強靭力 20

魔力  10

知能  50

素早さ 19

技量  21

―――――――――――――――――――


「は、はわわわわ!!」

「どうしたのフェイル?」


 不思議そうに顔を覗きこんで来るクシネ。

 彼女を見つめる俺は今、恐ろしい程情けない顔をしているだろう。

 やがて、小さく首を左右に振りながら、決して言うまいと決意していた言葉が同様の余りにまた口から漏れ出る……。


「え、えらいこっちゃ……」


「……え?」

「――っ!? 私はどうなってしまうのでしょうかお師様!!」


 結局。この問題に関しても俺が新しい昔話を話し、ピュセラを上手く誘導することによって何とか隠ぺいする事に成功したのだった。

【フェイルがピュセラに話した昔話一欄】

桃太郎

浦島太郎

花咲かじいさん

舌切雀 ←クシネのお気に入り

白雪姫

シンデレラ ←ピュセラのお気に入り

赤ずきんちゃん

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