@T THE HORIZON
青い星の輝きの下で
もう、2、300年も前のことだが、人類で初めて宇宙に出た人はこう言ったそうだ。『地球は青かった』と。
大気と水が光を散乱させ、青く輝く星の煌めきは、彼や、彼の後に続いた人々に多くの感動を与え、人類の繁栄のを予感させるかのようだったという。
やがて、莫大なエネルギーを元手に発展を続けた人類は宇宙へ進出し、巨大な実験線を浮かべ、さらなる繁栄を追い求めていった。
《star-carrier》はもうじき高度30000mに到達する。大気の層と宇宙の境目が地平の彼方から覗く太陽に照らされるように綺麗に映し出される。
『20秒後にポイントB-2に到達』
バックパックのベルトを締め、銃のセーフティを解除する。
白い流線型のフォルムが熱を帯びる。
(いよいよだよ。カレハ)
(うん。私)
『カウント10でスラスターを逆噴射』
『7』
『6』
『5』
『4』
そこでカウントが止まる。
ブザー音とともにヘルメットのバイザーウィンドウに警告が表示される。
『直下より高速で接近する飛翔体2』
機体が大きく揺れる。1発目は回避されることを前提にしたミサイル。2発目が回避したところを狙う本命。
『少し揺れますッ』
最小のマニューバで1発目が機体を掠めて虚空に消えていく。直後に爆発のオレンジが耐圧ガラス越しに見える。
2発目は追尾型。戦闘機を遥かに凌ぐ速度でこの機体は飛行機しているはずだが、ミサイルは徐々に間を詰めてくる。
『捕まっててくださいね』
余裕なさげな声に少し不安になるが最悪機体ごとミサイルを撃つ覚悟をしてトリガーに指をかける。
瞬時に主翼のブースターが唸りを上げ、機体が爆発的に加速する。
「ッ!」
外の景色が止まって見えた気がする。後方のミサイルとの距離が開いてゆく。
『予備ブースター、パージ』
ガコン、という音とともに機体が減速する。
直後、ミサイルがパージされたブースターに接触し誘爆する。
ギリギリのところで爆発を回避し機体が徐々に減速していく。
『回避成功』
肩の力が抜け、息をしようとしたところでブザーが鳴った。
ウィンドウに表示される警告を見る間もなく視界がぶれる。
機体が爆ぜるような凄まじい音とともに大きく揺さぶられる。
「何ッ⁉︎」
『右翼に被弾。スタビライザー、オートコントロール、エラー』
被害状況を見て唖然となる。右翼に大きく穴が開いている。
先程の2発目ですら囮だったのだろう。レーダーの補足タイミング、着弾までの時間から考えて、最初の2発でこちらにブースターによる加速という手札を使わせた上で超長距離電磁誘導砲かそれに並ぶ兵器で撃ち抜いたのだろう。アルゴリズムで動く兵器としての特性を逸脱したかのような予知に近いレベルの演算でこちらの動きが読まれていた訳だ。
『カレハ嬢、大丈夫ですか?』
「はい……」
10000mどころか30000mですら狙撃された事実は衝撃だが今は現状からどうやって地上の敵にたどり着くかが問題である。
敵の第2射がくる危険性も十分にあり得る。
『カレハ嬢、提案があります』
「はい、なんですか?」
ここから直接ダイブするつもりだろうか。しかし私はともかくポールマン伍長自身はおそらく急激な気圧の変化に対応できない可能性がある。あまり得策ではない。
『このまま那覇空港まで弾道飛行で不時着したいと思います』
「………………ぇ?」
目の前が真っ白になる。
「何言ってるんですか?」
「ジョークならもっと前に言ってますよ」
「でも、どうやっていくんですか?」
「それは…………気合い避けで」
「却下」
本当に真面目なのか疑わしい。
避けるという発想にすでに無理が生じている……
そう思って反論しようとしたところで手元の《CODE-K@REHA》が目に入った。
あった。一つだけ。
「わかりました。このまま降りましょう。方法があります」
今の私にはできることがある。そう思って私は窓の外に映る青く瞬く星を見つめた。
「降下作戦開始です」