FL@G OF THE FREEDOM
ー反撃の盟友と共に
私が天草に着いたのは朝の4時。《flight-carrier》での仮眠は正直寝心地が良いとは言えなかったけれど、これから始めることを考えれば一度しっかり休息を取っておきたいところだ。
「南雲大佐、カレハ=キルシュタイン特尉が到着されました」
山本佐官の案内で会議室に通され、一通りの連絡を受けた後、南雲大佐に会うことができた。
「お久しぶりですね。今回は随分と面白いご用件で」
多分これは世辞ではない。この男は若干28才で大佐に昇進し、自ら戦場で敵と交戦、その全てにおいてたった一度の敗北も無く、また、戦場で刀を振るうその姿から、【最果ての剣士】、【侍】の異名を持つ正真正銘の最強と謳われている。
「いつまでも放浪しているだけじゃこの戦争は終わらないので手始めに沖縄から取り返していこうと思います」
「それは有難いことで」
そこまで話して彼らの姿が見えないことに気づいた。
「…彼らはまだ来てませんか?」
彼ら…私が少し前に連絡を取っておいた連中。如何なる国家、民族、宗教にも帰属することのない組織。私の所属する組織…《liberty》。
「いらっしゃってますよ。18番ドックに入港しているはずですが」
「…わかりました。ありがとうございます」
「いえいえ、あなた方の来訪を我々は歓迎しますよ」
南雲大佐は上層部に状況を説明してくると言ってオペレーションルームに向かった。
私は山本佐官に連れられて18番ドックに向かうことにした。
「残りの機動機士団メンバーは3時間後に陸路で到着予定になっています」
「了解です」
機動機士団。南雲大佐が指揮を執る独立部隊。西欧連合軍の陸海部隊を遥かに凌ぐ実績を持ち、その実力は個人兵装で《LIFE-LESS》を駆逐することが可能な領域に達しているという。隊員が7人という少数であるにもかかわらずその戦略的実用性は《Designs》に匹敵するとさえ言われている。
連絡を受けながらドックに向かうと、白衣にジーンズという着こなしの女性が目に入った。メイヤーだ。
「カレハじゃん、元気にしてた?」
「…うん」
「元気ないんじゃない?」
「そんなことない。超元気」
「うっす、カレハ!相変わらず可愛いじゃん」
久々に聞いた声に振り返るとイアンがいた。
「イアン」
「カレハがいなくて超枯れてた。帰って来てくれて嬉しいよ」
「…超キモい」
「うっわー…ヤバいカレハ超引いてるじゃん。てかイアンどこ行ってたの?サイトが南雲大佐に会うからって呼んでたわよ」
「ンなこと一人でやればいいだろ。ったくあのチキンリーダーは」
「サイトは鶏じゃない、ヒト」
「カレハってばチキンの意味違うッ!」
イアンは腹を抱えて笑うと涙目でドックを後にした。
「さて、カレハ、銃の方とあなた方の方のチェックがあるからアルカディアに乗って」
そう促されて私は《liberty》の母艦、アルカディアに乗った。アルカディアは《liberty》所有の超大型原子力潜水艦。フォルムが既存の潜水艦とは大きく違い、独特な雰囲気を放っている。
「プロフェッサーは?」
この場にいないメンバーの一人を探したが見つからない。
「彼なら硫黄島であなたの新パッケージのテストをしたら合流するわ」
この場にいないのはあとはジブラルタルにいるフェルくらいだろう。
「じゃあ、メンテやるから横になってね」
私の中の『カレハ』の状態を観察して危険がないか調べる作業を行う。
「…うん、異常はないね。チョーカーの感度も良好。起きていいよ。銃の方は改めて見ておくからデスクに置いておいて」
私はアルカディアを後にして待機してもらっていたポールマンに合流した。
「カレハ嬢、どうでしたか?」
「みんな元気だった」
「それじゃ、俺は追加の命令まで待機してますね」
「うん。…そういえばコスタリカ基地はなくなったけれど、あなたの新しい配属先はどこになったの?」
先日、コスタリカ基地を放棄して脱出した彼だが、軍人の彼がこうも暇にしているはずがない。
「…実は昨日付けの事例でカレハ嬢専属のサポーターを請け負うことになりました」
聞いてない。私はそんな通達を受けた記憶はない。疑問に思って《liberty》のログを見ると、報告書のデータの下に小さく通知が来ていた。
「…本当だ」
「という訳で沖縄にも同行させていただきます」
「死なないでね」
「了解です」
「書類が面倒だから」
「そっちですか」
冗談のつもりだったが、この男の軽薄そうな顔を見ると謝る気にもなれなかった。
「死なないでね、本当に」
やはりこの男心配だ。
第6話(本編5話)更新です。若干緩くするつもりで書きました。感想、アドバイス等々よろしくお願いします。